陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

仰げば尊し、鉄の塔

2012-02-02 | 芸術・文化



フランスの思想家ロラン・バルトはその著『エッフェル塔』の冒頭で、モーパッサンについて語っている。いわく、モーパッサンは塔のレストランで昼食をとる。しかし、この近代的な建築物がパリの美学を損なうと厭ってやまない彼がなにゆえに塔にのぼるかといえば「パリで塔が見えないのはこの場所だけだ」だから。それはメイド・イン・ジャパンの製品が嫌いだから、わざわざそれを買ってきてぶっ壊すパフォーマンスをするような、倒錯的な執着だったのだろうか。パリといえば、凱旋門とルーブル美術館とエッフェル塔といわれるぐらい、街のメルクマールともなっているこの塔は、信じられないことに、建設当時かなりの反対運動が巻き起こったらしい。

地方からはじめて上京してきたおのぼりさんたちの多くが、いちばんに向かうところといえば東京タワーなのではなかろうか。田舎の人間がそれに寄せる憧憬を私はうまく言い表せる自信がないのだが、歴史がしばしば巨大なモニュメントを生んで卑小な人間をひれ伏させてきたことへの反動からくる上昇志向なのかもしれない。明治時代の平民が華族や士族のものである人力車にこぞって乗りたがって、高く速くの眺めにご満悦になっていたようなものだろうか。「鉄塔武蔵野線」という邦画は少年が電波燈を追いかけて遠出をしてしまう話だが、日本人には高く組まれた構築物を好む気質があるのかもしれないと思ったりもする。
エッフェル塔を下敷きとしたのは大阪の通天閣であるが、やはり、タワーといえば神戸のポートタワーでも、京都のタワーでもなく、東京タワーなのである。

高校時代から就職活動時をふくめて両手で数えるぐらいしか上京した覚えはないが、そのうち東京タワー近辺を訪れたのは、三、四回ほどであったろうか。近辺といったのは、実は昇ったのは一度しかない。私はモーパッサンのように、住み慣れた街の景色を見下ろしたかったわけではないし、内部にある気味の悪い蝋人形館が好きではなかったから一度でじゅうぶんだと思っていた。白状すると高所恐怖症でもあった。

東京タワーのなにがいいかと問われたら、あの紅い鉄骨の根元に近づいたときの圧倒的な存在感である。火箸を組み合わせたようなライトアップされた夜の姿もいいが、やはり見物するなら真っ昼間がいい。芝公園あたりから増上寺前の通りに出ると翠深い茂みの奥から、とつぜん、そのタワーがのそっと登場したときはびっくりしたものだった。写真などでこぢんまりした模型のようなものだと思っていたタワーが、遠くから天を衝くようにして立ち現れてくる。そして、そのサイズを自分のちいさな背丈をものさしにして測ってみることで、あらためて、その偉容にこころうたれる。日本に特撮映画やドラマが流行ったのも、このスケールへの追求に他ならないのではなかろうか。国土の狭い我が国は必然高いものに憧れたに違いない。モーパッサンがエッフェル塔を嫌いながらも、その中心に身を置くことでこころ慰めようとしたのは、遠巻きに見れば痩せさらばえた鉄の骨にしか見えない貧相な建物も、近づいてみればそのスケールやもの珍しさにはひそかに頷くところあったからだろうと思われる。

とあるインテリアショップ巡りをして、ふと魅惑的なデザインがあったものだから、ついつい長々と妄想をひろげてしまった。それは輸入インテリア雑貨ストアELISE(エリーゼ)の「本系雑貨」にある商品「Cast Iron エッフェルブックエンド」である。





ブックエンドとは本の列を両側から挟み込むものだが、私が愛用している市販のものは、造形がおしゃれであっても背表紙をこちらに向けると、その模様が隠れてしまうことが多い。つまり、ブックエンドの装飾が本の表紙と同一方向になってしまう。ところが、こちらのブックエンドはおもしろいもので本の背表紙と一直線に並ぶようにブックエンドのデザインが見える。しかし、本の背表紙よりも両側が幅をとっては目立たしいし、スペースがもったいないので、エッフェル塔タイプを選んでみた。高さ:17.5センチとあるので、大判の美術書や辞書類や地図帳などが収納できるかもしれない。二体ではなく半分に割ったところがおもしろくて気に入った。

ちなみに私は金属製のかっちりしたインテリアというのがかなり好きであるが、鉄製を好むというのは先述したような文明への憧憬だけではなく、貧血気味なのでからだがおのずと鉄分を欲しがっているのかもしれないと思うこともある。もちろん見るだけだが。

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