陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「FFF Project」 Act. 3

2006-09-05 | 魔法少女リリカルなのは感想・二次創作小説

目に止まったのは、律儀に前にかばんを提げ、怪訝そうな顔をしている少女だった。

年の頃、十二、三歳だが、声にはそれ以上の落ち着きがあった。義理の妹フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの少女時代を思わせるような、左右二つに分けた髪型をしている。こういうヘアスタイルは十年ひと昔からあって代わり映えしないが、その少女にどことなく異彩を放つ存在感があるのは、やや鈍い青みのはいった長い銀髪を、見慣れない括り方でまとめていること。前髪が瞳を隠すほど伸び、特にその中央が頬にかかるほど長い。
それ以上に、語っているのは両の瞳の色が異なる輝きをもっていることだった。その瞳は決して笑ったことがないような、暗い闇を奥に潜ませている。押入れに大事にしまいこんだ古い人形の瞳のように、一点定まってものを見ていて、表情が彫られたように固い。

声の主とおなじような瞳の色の特徴を備えている人間を、クロノはひとりしか知らない。その子の瞳は左右違うながらも、もっと愛嬌あるのだが。その相手こそが、まさに今訪ねあぐねているB地点のターゲットなのだ。

「あの、ここで何か…、あったのでしょうか?」

銀髪の少女は、大きな瞳を見はって、不安げな声で尋ねた。
けっして、道に迷って困った者に手を貸してやろうという親切心のにじみでた声色ではない。なぜ貴方はここにいるのか、とでも問いたげなきつい響きが言葉の底に感じられた。彼の普段の生業を匂わせる制服は会う人に緊張を強いるものだが、さて、この身なりもやはりまずかったか。
見れば、彼女の出で立ちは噂に聞く初等科の児童のものではなかった。

「ここに通う生徒の保護者なんだが、道に迷ってね。君はここの生徒か?」
「はい、一応は…そうです」

言葉少なに返事した少女には、みずからの身上を暴かれたくないという、固い警戒心がまとわりついていた。職業柄、どうしても相手の身元を暴きたくなるのは悪い癖だ。詰問口調になっていたのだろう。いくぶん、声を柔らかくしておいて、まずはこちらの困りごとを示すことにしてみるべきだろう。

「父親参観日でね。初等科の校舎を知りたいんだ。どこの学年でどのクラスかは言えないんだが、だいたいの場所さえ分かれば…」

話しかけたとたん、少女がそわそわし出した。早くここを離れたくてしかたがないといった気持ちをあえて抑えて、平常心を装っているようにみえた。
ひょとしたら、少女にはなにか切羽詰まった事情があったのかもしれないが、うかうかしているとこちらの手持ちの時間も少なくなる。

「父親参観日…だから、わざわざこんな場所にいた…? 待ち伏せじゃない…?」

少女はまるでクロノを見るともなしに、うわ言のようにつぶやいた。そして、自分を詮索するように眺める男の視線に気づいて、思わず目を背けた。

制服こそは異なれど、さっと目を走らせた少女の持つ革製の鞄には、ザンクト・ヒルデ魔法学院の校章のワッペンが貼られている。
背丈からして、中等科の生徒なのかもしれない。一時限目の授業がすでにはじまっているのに、ひとり寂しく校庭を歩いている事情はなんだろうか。事によれば引き止めるのは酷かもしれない。

「早退で家路を急いでいるのならすまなかったね。別の人に頼むことにしよう」


ジャンル:
小説
この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 「FFF Project」 Act. 4 | TOP | 「FFF Project」 Act. 2 »
最近の画像もっと見る

Related Topics