陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

ドラマ「神のクイズ」

2012-04-10 | テレビドラマ


個人的には政治と文化はきっちり別ものだと思っていますので、映画やドラマの製作国が核開発疑惑で原油輸出制限をうけたあの中東国家(たとえば、アッバス・キアロスタミ監督の「桜桃の味」)だろうと、尖閣諸島沖の事件で気まずくなってしまったあの東アジアの大国(たとえば、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛 覇王別姫」)だろうと、北方領土問題で圧力を高めているふしのあるあの東欧の国(たとえば、アンドレイ・タルコフスキー監督の「僕の村は戦場だった」)だろうと、おもしろければちゃんと観るほうです。文化というものは、しばしば、政治的な不安定の反動として生まれいづるものであるからなのです。

最近、なにかと韓国のドラマが放映されたり、韓国のアーティストが紅白歌合戦にも登場したりと話題になっています。政治的な発言も絡んでそれに対する反発ムードもあったりしますが、韓国のドラマには見だすとおもしろいものが多いんですよね。去年のことですが、Gyaoで配信されていた歴史ドラマ「風の絵師」もそうでした。実在の男性絵師をモデルにしたお話だったんですが、主人公がじつは男装の麗人だったというとんでもない設定にしつつも、ちゃんとした絵画観を盛り込んでいて、うんちくのある台詞もあって、美術史マニアならばうなってしまうような内容だったんです。日本ではあれほどの大河ドラマは、ここ数年はあまり、見かけたことがありませんでした。

韓国ドラマがなぜ人気を得ているかといえば、それがまったくのファンタジーだとして観れるからなのですね。「ファン・ジニ」や「チャングムの誓い」がそうですが、とにかく女性や若者が歴史の表舞台に立つのに違和感がないストーリーが多いんです。日本の大河ドラマで、封建時代の女性が君主に平然ともの言うようなドラマがあったら(昨年の「江」がまさにそれ)、やはりどうしても首をひねってしまいますよね。その国の歴史について不分明なことが多いからこそ、楽しめる歴史ドラマなのです。ついでにいいますと、韓国の芸能事情を知らないが故に俳優の素顔と演技とを分離して観れるあたりもいいですね。くわえて、韓国のドラマには、かつての東海ドラマにあったような情理やどろくさい展開がオンパレードで、毎回、次を期待させてしまうような終わり方で締めてくれます。それと欧米ドラマに影響されたようないかがわしい描写がないのがいいですね。

その韓国ドラマのうち、最近、韓国内では話題沸騰中と叫ばれているのが、ドラマ「神のクイズ」(公式サイトはhttp://www.cinemart.co.jp/kamiku/。現在、第一話を無料公開中)なんですね。韓国の大学法医官事務所につとめる天才医師ハン・ジヌが女性刑事カン・ギョンヒとタッグを組んで、事件の謎の解明にいどむという医療ミステリー。監督はイ・ジュンヒョン、主演はリュ・ドックァンとユン・ジュヒ。

この天才医師ハン・ジヌというのが、まあなんともいかにもやる気のなさげな兄さんなのですが、いざ難事件にあたると本領発揮というタイプ。草食系インテリとおカタい女性キャリアのコンビは日本のドラマでも珍しくないわけですが、たとえば、福山雅治主演のガリレオシリーズだった場合、インテリ学者のほうが推理をひっぱっていくパターンですよね。しかし、このドラマでは医師が見解を示すのはあくまで病理の判断であって、事件現場の検証や被害者の人間関係などにふみこむのは女性刑事のほうが多いんですよね。コンビといっても、性格が反りあわないのか別行動で証拠を拾っていくことが多いのですが。

第一話はのどかな山村に引きこもって独り暮らしだった男性の転落死をめぐる謎を解くもの。果たして彼は事故死だったのか、他殺だったのか、それともヴァンパイアの貧血で病死だったのか。ミステリーなんですけれど、確固たる犯人探しが目的ではない。誰かに罪を着せるというというよりは、人間の高慢ぶりが人を死に追いやる理不尽さをあぶりだしたものといえるでしょう。いずれにせよ、弱者を救い、悪しきを挫くというかつての大江戸時代劇にあった路線が貫かれています。タイトルは「人間の傲慢さに対して神が出した難問を説く」という意味あいが込められていますが、この天才医師ハン博士もなかなか曲者で歯に衣着せぬ傲岸不遜ぶりが目立っています。表面がヤワな感じなので印象はソフトなんですけど、この彼が堅物刑事と交流していきながらどのように成長していくも、見どころのひとつなのかもしれませんね。

第一話ではわかりませんが、今後、ラブストーリー展開もあるそうです。韓国ドラマですので、ラブコメになりそうですけどね。なお「朱蒙─チュモン─」のユリ皇子役で知られるアン・ヨンジュンが本作ではかなり重要な役どころを演じているので、それも注目。

医療ミステリーの面白さは、希少な疾患を話題にして謎解きをすること。じっさいにその病気で苦しまれる方にとっては、世間に理解を深めてもらえる契機にもなりえますが、逆に描き方が不足していると偏見を広めてしまうこともあります。日本人に近い顔だちの俳優が、標準語のきれいな日本語の字幕で会話をしているのも、韓国ドラマの醍醐味といえるでしょうね。日本と同様に超高学歴社会でありながら、若者の就職率が悪化し、希望を見出せないというお隣の国が描き出す人間の不条理が、どこか日本の社会と通底しているのも、うなづけるのかもしれません。しかし、「名探偵コナン」の台詞にはまいった…。

【画像】
レンブラント・ハルメンス・ファン・レイン『テュルプ博士の解剖学講義』(1632年、オランダ・マウリッツハイス美術館所蔵)
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