陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「夜の貌(かお)」(二〇)

2009-09-25 | 神無月の巫女感想・二次創作小説


***


そして。
来栖川姫子は、ふしぎな夢の世界にいた…──。



ふたりの少女が花畑にいる。一面、花ざかりの大地である。
ひとりは黒髪の少女で、その肌は美しさを通りこして病的なほど白い。身に着けている清潔な長襦袢が色濃く見えるほど、その肌は雪のように透けて白い。月の光りを浴びたように顔は青ざめていて、腕の皮膚にうっすら細い静脈が浮かびあがっているのがみてとれる。病のために面やつれしていて、後れ毛のみえる髪がその少女の儚さをひきたてていた。ひとつ括りの髪を左の肩にかけて、病に蝕まれていたからだを床に臥せっていた。

その傍らにいるのは、金砂子をまぶしたような輝く髪を、紅リボンでうしろで一つに束ねた少女。
淡い瞳をしていて、おだやかな表情で臥せる少女の手をとっている。その少女の髪の光りが、この空間をひときわ明るくしているのだった。しかし、その明るさに反して、彼女の身なりは質素そのものだった。鈍いろの地味な文様の着物をまとい、足は素足である。

その少女は蓮花の花で花かんむりを編み、身をおこした黒髪の少女の頭に載せてやった。
黒髪の少女は嬉しそうに笑っていた。滲んだ汗と熱でもたついていた黒い前髪をさらって、そこに明るい髪の少女の唇が触れた。青白い頬がみるみる火照っていく。

「きょうは、そんなに熱がないわ。よかった」
「姫子が看病してくれたおかげよ」

あまりに熱心に見つめられたので、黒髪の少女は瞳を逸らしてしまった。
明るい髪の少女は、黒髪の少女の胸元に顔を埋めた。黒髪の少女の頬がさらに朱を増した。弱い心臓がとくとくと鳴っている。

「ほら。もう、心の臓だって、こんなに元気だもの。千歌音はよくがんばったわ、病魔を追い払ったの。あとは日常の暮らしに不自由しないように、体力をつければいいだけね」

早くなるばかりの心音に耳を傾けながら、陽のいろの髪をした少女は安らぐようにこぼした。

──違うのに、違うのに。この激しい心音は、私の力じゃない。私のいのちじゃない。それは、貴女から授かった力。私はひとりじゃ何もできない。姫子がいなければ…。

「…だから。もう、千歌音はもう、だいじょうぶ。なんでも、ひとりでできるわ。貴女はすばらしいもの。ねぇ、そうでしょ?」

黒髪の少女はこころの叫びを隠して、頷くしかなかった。
それは、姫子が望んだこと。自分が否定をしたら、この人を悲しませてしまう。
姫子は、言葉少なになっている千歌音の唇に、蓮花の茎をくわえさせた。ほんのり甘い花蜜が、舌先にのった。元気になったごほうびよ、と姫子は笑っていった。その蜜の味はしかし、千歌音には苦くも感じられた。




【九の章に続く】



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