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2005年農村の美しさを投稿=自然に馴染み+理にかない+用の美を追究

2017年08月09日 | studywork

 2005年、建築学会で国土計画に向けた論集をまとめることになった、と記憶している。農村計画委員会からも一文を投稿することになり、以下を投稿した。

2005「農村集落の美しさと民家」

1 美しい農村
 日本のあちらこちらで美しい農村が失われている。美しい農村は、日本人にとって原風景であり、記憶の断片であり、文化の手がかりである。美しい農村を失うことは、原風景をもたず、記憶の断片に空白を生じ、日本の文化の手がかりを見失うことと同義である。
 なぜ、美しい農村が、日本人の原風景となり、記憶に刻み込まれ、文化の手がかりを伝えるのであろうか。一つは、農村が自然を生産の基盤とし、自然と共生した生活体系を組んできたことにある。暮らし方の本質が生態的=エコロジカルであり、自然と一体となった美しさをつくり出してきたのである。二つには、家の作り方も住まい方も農業の仕方も暮らし方も、すべて自然に手を加えながら自然を利用し、また自然に返す、循環の仕組みを持つことにある。山の木を切り出し住まいに使う、その一方で山に木を植える、朽ちた木材は自然に帰す、といった命の循環=サスティナブルの原点がうかがえるのである。そして三つには、そうした暮らし方、住まい方を共有し、新たな知恵を交換し、技を磨きあう地域的な人々の存在がある。相互に助けあう共同体=コミュニティは子どもたちに美しくする仕方を文化として伝えてきたのである。
 こうした農村の暮らし方が日本の8割に近い国土を支えてきた(国土保全力)にもかかわらず、都市指向の魔力は若者を都市に向かわせ、いまや農村の担い手は2割ほどになろうとしている。このまま進めば、美しい日本の原風景が消失するばかりでなく、農村にストックされてきた資源や働き(食糧資源、木材資源、水資源、二酸化炭素固定・・)を失うことになる。言い換えれば、美しい農村を育むことは国土をよりよい形で保ち、健康で快適な暮らしをつくる原点となる。大人たちの責務は、美しい農村の仕組みを子どもたちに伝え、美しい農村を育むことといっても過言ではないだろう。

2 自然と馴染む美しさ
 写真1は伝統的建造物群保存地区に指定されている京都府美山町北地区の民家である。背景の山並みは豊かな山林に覆われていて、雨を大量に保水する。保水された水はゆっくりと下り川に向かうが、途中で人為により迂回し、水田を潤してから川に下る。民家は山際などの少し高いところに立地し、山並み・民家・水田・川の構成を作りだす。日本の農村集落に共通する景観構成であり、安らぎさえ覚えるほどの美しさを見せる。
 なぜ、美しく感じるのだろうか。山は土でできていて、土より生えた木が山を覆い、田は土でできていて、稲穂が実る。木も稲穂もいずれ朽ち土、に戻るが、木は木材として、稲穂は米や藁として人が働きかけ循環を繰り返す。民家を構成する骨組み、床や壁、屋根はこの循環する素材であり、土間、土壁、畳、障子など、そのどれも土か土による植生であって、結局のところ景観のすべてがその土地の自然で形づくられていることになる。空間を構成する素材のすべてがその土地の素材であり、背景の自然と一体となった景観をつくり出していることが、美しさの要因といえる。
 加えて大事なことは、その形をつくり出してきた人々の知恵と技の積み重ね   
である。試行錯誤を繰り返し、自然にも人々にも馴染みやすい合理的な形が追求された。加えて、多くの農村では結い、講と呼ばれる相互扶助の慣行が暮らしを支えてきた。いまでもよく知られる共同慣行として、岐阜県白川村に続く合掌造りの茅屋根の葺き替えがある。村人総出で毎年数棟ずつの茅屋根を順番に葺き替えていく仕組みだが、これによって地域コミュニティの結束を固めると同時に、村人のあいだで技術の伝承が行われていくのである。合理的な形とそれを作る技術が村中に行き渡っていく。農村のどこを見ても自然と人々の息のあった合理的な形でできあがっている。これが見る人々に共感を呼び、美しさを感じさせるのだと思う。
ここで育った子どもたちは、自然と人々がつくり出した形を原風景として記憶し、作り方や暮らし方を文化として受け継ぎ、美しさが再生産されていくことになる。

3 理にかなった美しさ
 水の流れが山・家・田・川の空間配列を決定づけていることは上に述べた。この構成は背山臨水型と考えてもよく、山がちな日本の農村の空間配列の基本となっている。こうした空間配列は稲作をなりわいとするアジアモンスーン地域に共通する。風景観の共有といってもよく、アジアの研究者の連携の重要性はこの点からも指摘できる。
 ところで川が流れればその流域に沖積地が形成されていく。沖積地は肥沃であり、水利条件もいいため、稲作が展開するが、反面、洪水の危険も大きい。この矛盾した課題をどう切り抜けるか。農村の人々の理にかなった解決法を紹介する。前頁図1は埼玉県北川辺町の屋敷断面である。このあたりは利根川流域にあたり、昔から大きな洪水に悩まされてきた。洪水が多いということは肥沃であり、水利もよく、江戸の発展にともない新田開発が盛んになされるようになった。古くからの集落は、洪水に耐えられるほど標高の高い自然堤防に立地していたが、新田の場合は自然堤防から遠いうえ、開発が数戸単位で行われたため、少しでも標高の高い微高地を求めて散居の立地となった。ちなみに図1に近い自然堤防立地の旧集落は居住地と水田のレベル差がほぼ1mと一定し、この1m差が洪水から命と住まいを守ってきた。しかし、新田開発の集落ではもともと低地であるためレベル差1mでは洪水を防ぐことはできない。洪水との知恵比べである。その結果が図1の盛土であり、一般に水塚と呼ばれている。水田+1mが道路のレベル、道路+1m(水田+2m)が納屋のレベルで、ここには簡易な納屋が建つ。農作業動線に不都合はないが、比較的頻繁に洪水が来るので、納屋の被害でおさえる。母家は納屋レベル+1.5m(水田+3.5m)で、昇り降りにやや難点があるものの、頻繁に来る洪水には安全である。母家から+1.5mほど(水田+5m)に蔵が建つ。蔵には大事な家財、保存食がしまわれており、さらに大洪水のときの避難所になる。
 盛土を高くすればするほど洪水には安全だが土木工事が大変であり、そのうえ日常生活に支障がでる。盛り土を低くおさえれば農作業も生活動線も楽で工事も簡単だが、洪水の危険は高い。そこで工夫された方法が、短周期の低い洪水レベルを基準に納屋を、中周期の洪水レベルを基準に母屋を、そして大洪水を想定して蔵をもっとも高くする盛り土の作り方である。盛り土を安定させるために法面など、屋敷まわりには竹や雑木が植えられる。春先にはかなり強い北西風が吹き、盛り土の上に建つ母家への風当たりは強いが、屋敷林が風を防ぐことになる。その土地の環境条件を的確に読み取り、生活・生産を損なわず、自然を生かしながら自然を制御する巧みな知恵と技がここにある。
 理にかなった、しかも環境を少しも損なわない形は、人々に安心、安全を感じさせ、文化として定着していく。散居でありながら、理にかなった技術と景観が共有されていき、その地域のアイデンティティを形づくっていくことになる。

4 用の美の追究
 水塚の屋敷林は関東地方の季節風を防ぐことも兼ねて北側に喬木が寄せられる。対して南側は、日照確保やアクセスを考慮して低木と庭木で構成される。緑の構成では、防風=裏=北、日照=表=南が空間配列を決定づけることになる。屋敷内の樹木は多い民家で40種、300本をこえる。遠望すると小さな森と思えるほど豊かな緑で、屋敷内にはいつも清浄で湿潤な空気がただよう。暑い夏の日でも木陰は涼しく、心地よい。樹木はまた小動物の住みかでもあり、安らぎをもたらす。さらに、樹木種ごとに花の咲く時期、実を付ける時期が異なり、居ながらにして四季の変化を感じ取ることができる。屋敷内の柿や栗、桃はむろん食用であり、樹種によっては薬用としても用いられる。上杉鷹山で知られる山形県米沢の旧開拓地では、沿道沿いに120種もの樹木が植えられていて、薬用、食用、用材などに活用された。そのうえ樹種の多さは四季折々の絵になる風景を作りだしている。
 写真2は西風の卓越する島根県斐川町の屋敷林である。塩気の強い地味のため黒松が選ばれ、屋根の高さほどで剪定されて、屋敷地西側に緑の屏風を作りだしている。地元では築地松(ついじまつ)と呼び、競って力強い形に仕上げようとした。強風を防ぐための屋敷林 をさらに美の構成に作り替えようとする、人々の強い意志を感じさせる。用を美に仕立てようとするデザインといってよい。緑は身近な存在であるが、人が緑との共生を意識し始めた途端、緑は人々の生活を守り、食をなし、生活を彩り始める舞台装置へと変身する。
 農村が美しいのは、背景にある自然の存在だけではない。自然は美しいがときには凶暴である。その自然をよく理解し、美しい形に仕立てていく人々の知恵と技があればこそ、子どもたちも、訪れた人もその人々の意志と共感し、美しさを感じていくのだと思う。美しい農村は人々の生きようとする意志の証でもあろう。
 こうした美しい農村の意義、すなわちエコロジカル、サスティナブル、コミュニティと、その形を作ろうとする人々の意志を科学として整理し、広く国民に理解を求めると同時に、高等教育機関で教材として活用を図り、生徒には農村を環境教育の場とすることで、日本の原風景を引き継ぎ、文化として伝承し、もって国土保全の推進を図ることができると考える。

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