横井克俊のブログ

2008-09-17~

交通事故診療と社会保険

2017-03-18 00:16:34 | 民事法実務

【事例】XはYの運転する車両と接触して負傷した。現在、H病院で治療を受けている。Y車両には自賠責保険(自賠社P)と任意保険(対人社Q)が付保されている。XはC社に勤務しており、C健康保険組合の被保険者である。

(1)事故発生当時、Xが私用だった場合

(2)事故発生当時、XがC社への通勤途中だった場合

 

【自賠責診療】

・多くの事案では、加害者Yの対人社Qが「自賠責保険に基づいた治療費の一括払い」をおこなう。この治療は健保の規制がない「自由診療」となるところ、広範囲の医療機関で「自賠責診療費算定基準」が用いられている(医療機関単位で6割超と言われる;p27)。この基準によると、1点単価が外来で約20ー28円、入院で約15円になる。■ハンドブック交通事故診療pp63-6

・なお、対人社Qによる一括払いはあくまで「サービス」であるから、常に一括払いがなされるとは限らない。一括払いがされない場合、Xは、直接に自賠社Pへ損害賠償額を請求することができる(いわゆる被害者請求;自動車損害賠償保障法16条)。その際、自賠社Pから支払われる治療費相当額の支払先をH病院と指定することも可能。■一括払いにつき、ハンドブック交通事故診療p111など

 

【自賠責診療v.健保使用】

・健康保険や国民健康保険の保険給付は「原則すべての疾病・負傷・死亡」を対象とする(健康保険法1条、国民健康保険法1条);重要な除外対象として、①労災保険の業務災害全般(健保法1条、国保法56条1項)、②通勤災害として労災保険から保険給付を受けられる負傷(健保法55条1号、国保法56条1項)、など。したがって、業務や通勤と関係しない交通事故では健保使用が可能となり、健保指定医療機関はこれを拒否できない。■しくみpp40-2、ハンドブック交通事故診療pp91、なお第三者行為求償ハンドブックpp101-3参照

・対人社Qから一括払いを拒否された場合(上述)、Xは健保使用を検討するだろう。また、Xの過失が大きいにもかかわらず高額治療費が見込まれる事案でも、X自身の負担分を圧縮する(←健保の1点単価10円)という意味で健保使用が有用となる。■ハンドブック交通事故診療pp88-9,100

・対人社Qによるいわゆる「健保使用一括」は、被保険者による一部負担金支払の建前(健保法74条、国保法42条)には反する(が・・・)。■ハンドブック交通事故診療p90

 

【自賠責診療v.労災使用】

・当該事故が通勤災害に該当する場合、Xは通勤災害として療養給付等を受けることができる(労働災害補償保険法7条、21条);上述のとおり健保使用は不可となる。自賠責診療と労災使用(←労災の1点単価原則12円;p3)のいずれを選択するかは、治療を受けるXに委ねられている。■第三者行為求償ハンドブックpp114-6

・「自賠責への請求が一般的」と説かれるが、次のような特徴からあえて労災を選択することもあろう。■事例集p92、マニュアルpp73-4、実務手引p169

→自賠責診療のメリット;①治療費の対象が広範囲、②慰謝料アリ、③休業損害が100%(←通勤災害では休業給付60%+休業特別支給金20%)

→労災診療のメリット;④過失割合不問(←自賠は重過失減額)、⑤「上限120万円」なし、⑥特別支給金(上述の休業特別支給金など)は損害額から控除されない

・なお、通勤災害では、労災保険料率に影響しない。■実務手引p174

 

坂井康一『自動車事故にかかる第三者行為災害・傷害の実務手引』[2008]

『健康保険のしくみ』[2010]

『労災保険相談事例集』[2011]

東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編『改訂版交通事故実務マニュアル』[2012]

羽成守監修『Q&Aハンドブック交通事故診療全訂新版』[2015]

高田橋厚男『実務担当者の実例から学ぶQ&A第三者行為求償事務ハンドブック』[2016]

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