横井克俊のブログ

2008-09-17~

所得概念論

2017-07-11 22:03:16 | 民事法実務

なかなか腹に落ちない譲渡所得・・・。

 

[理念としての包括的所得概念(純資産増加説)]■増井pp46-51、谷口ほかpp140-3〔谷口〕、佐藤pp3-9

・所得税は、ある期間を設定し、その間に個人Xがどれだけ「もうけ」たかを捕捉しようと試みる。「もうけ」の使途は「消費」か「蓄積」のいずれかしかないから、この点を押さえれば漏れなく「もうけ」を把握できる。すなわち、【個人の所得income=期間内における消費+期間内における蓄積】と定義される(包括的所得概念;サイモンズの定式)。

・サイモンズの定式にいう「消費」とは、「消費において行使された権利の市場価値」である。

・同じくサイモンズの定式にいう「蓄積」を正確に言い直せば、「期間における財産権の蓄積の価値の変化」である。したがって、文字どおりの蓄積のほか、期間内の増加益も含まれる。例えば、期間内に新しい蓄積がなかったとしても、期首において価値50だった財が、値上がりをして期末では価値80になっていれば、この増加益30も「蓄積」に含まれる。

・個人Xがまったく消費をしなければ、すべてが蓄積に回される結果、「所得=期間内の純資産増加額」となる。このような発想のもと、上記の包括的所得概念を、純資産増加説とも呼称する。

・現行の所得税法は、いかなる所得概念を採用するか明言していないものの、包括的所得概念に依拠していると解されている。その実定上の根拠は次の2点;(1)競馬の当選金のような反復継続しない一時の所得も捕捉する(一時所得;所得税法34条1項)、(2)9種の所得からこぼれ落ちるものも拾い上げる(雑所得;所得税法35条1項)。最判昭和40・4・9民集19巻3号582頁も「・・・純損失の繰戻しによる還付の制度は、法がいわゆる純資産増加説によつて所得を把握する建前をとるにいたつたことに対応して設けられた制度ではあるが・・・」という。

 

[現実策としての実現主義]■増井pp108-12、谷口ほかp143〔谷口〕

・個人Xの保有するある財が価値50から価値80に値上がりしたところ、Xが当該財の保有を継続した。この場合、値上がり益30はいまだ実現していない(=Xは何も恩恵を享受していない)ものの、サイモンズの定式にしたがえば所得に含まれるはずである。しかし、現行法はこのような未実現の利得には課税せず、その所得が「実現」した時点で初めて課税する態度を採っている(実現主義)。実現主義が採用されている理由は、次の実際上のものである;(1)未実現の段階では所得の金銭評価が困難、(2)ただ保有をしている段階では納税資金を用意することが困難。

・実現主義の実定上の根拠は、所得が「収入金額」を基礎に定義されている点に求められる(総則として36条1項、各種所得として23~35条)。

 

[各論:贈与の扱い]■増井pp108-12、谷口ほかp143〔谷口〕、佐藤pp117-23(※実現主義との関係を説明しないので混乱を招く)

 ・譲渡所得の対象となる「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいう(最判昭和50・5・27民集29巻5号641頁)。したがって、個人Xが個人Yに財αを贈与することも「資産の譲渡」に含まれる。ところが、ここには収入がない(=値上がり益の実現がない)ため、実現主義からいれば課税できない。ここに、包括的所得概念と実現主義のギャップがある。

・個人間贈与は原則非課税;現行法は、個人間の贈与(相続・遺贈)では原則として実現主義を維持し、譲渡人Xに譲渡所得課税をしない(所得税59条1項1号参照)。その代わり、譲渡人Xのもとで実現しなかった値上がり益は、譲受人Yのもとで実現した際にあわせて課税する(取得費の引継ぎ;所得税法60条1項1号)。

・限定承認や法人への贈与には「みなし譲渡課税」;以上に対し、個人間の限定承認や法人への贈与(遺贈)については、実際には収入がない(=利得の実現なし)にもかかわらず、時価相当額による収入があったものとみなされ、譲渡人Xは譲渡課税を受ける(所得税法59条1項1号;遺贈ではXはすでに死亡しているので、実際にはその相続人が準確定申告をおこなう)。この回避を狙って「法人に対して時価2分の1未満の対価による有償譲渡」をしたとしても、みなじ譲渡課税の対象となる(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。

 

[各論:債務の扱い]■増井pp112-4

・現行法では、借入れは所得に影響しない。すなわち、個人Xが借入れによって現金100を取得したとしても、同額の借入金債務100が生じているため、包括的所得は変化しない。同様に、蓄積から100を返済に回したとしても、同額の借入金債務が減少しているから、やはり包括的所得は変化しない(返済は控除できない)。

・以上とは異なり、もともと負担していた借入金債務100の免除を受けた場合、これは文字どおり「経済的な利益」となって収入金額となる(所得税法36条1項、所得税基本通達36-15(5))。

 

[各論:損害賠償金]■三木監修pp266-9〔木山泰嗣〕、佐藤pp16-21,200

・事業所得に要注意

 

[各論:帰属所得]■佐藤pp11-5、増井pp56-61

 

[各論:違法所得]■佐藤pp24-5、谷口ほかpp145〔谷口〕

 

佐藤英明『スタンダード所得税法〔補正2版〕』[2011]

増井良啓『租税法入門』[2014] ※これを理解する法教読者はすごい。良書。

谷口勢津夫ほか『基礎から学べる租税法』[2017] ※わかりやすいが、pp108「・・・財産分与のように無償譲渡であって」との記載に異議あり。

三木義一監修『新実務家のための税務相談民法編』[2017] ※うーん、期待しすぎたかな・・・。

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