冬桃ブログ

上海の幻

 いっとき、上海にはまっていた。
 「魔都上海オリエンタル・トパーズ」という、
オールド上海を舞台にした小説を書き、
そのドラマチックな歴史を知ったから、ということもある。
 さらに、「水滸伝研究会」という、ちょっと怖そうな名の
中国文化を知る会に入り、毎年のようにその会で
上海へ行くようになったせいでもある。
 もう十五年以上も前のことだ。

 なにより、夫が亡くなり、糸の切れた凧状態に
なったことが大きかった。
 で、ふと、「家を売って上海に住もう!」
と決心してしまったのである。

 ブロードウェイマンション。「オールド上海」のシンボル的ホテル。
 日中戦争の頃は日本軍に占領されていた。
(写真は友人のリリー松崎さんからいただいたもの)


 いざ、移住を! と決めたものの、じつは、
なにをどうしてよいのかわからない。
 知り合いの編集者さんに「上海に詳しい人を知りませんか」
と尋ね、「知ってますよ」と紹介されたのが福井功さんだった。

 初めて福井さんと会ったのは、六本木の全日空ホテルだったと思う。
 
 福井さん:「中国語はできるんですか?」
 私:「いえ、全然」
 福井さん「上海に知り合いは?」
 私:「1人もいません」
 福井さん:「住まいなんかはどうするんです?」
 私:「いまの家を売って、向こうにマンションを買おうかと……」

 いま思えば、福井さんは、この人、頭がおかしいんじゃないかと
呆れたに違いない。
 彼は上海で会社をやってらしたこともあり、中国人社会で
生きていくことの難しさを、知り尽くしている人なのだ。

 「それは無謀でしょう」
 と、きっぱり言ったあと、しょんぼりした私を見かねたのだろう。
 「いきなり住むんじゃなくて、一ヶ月、暮らしてみますか?」
と、福井さんは言った。
 「え? そんなことできるんですか?」
 「頼んでみましょう」

 というわけで、あっというまに「太陽広場」という
マンションに一ヶ月住めるよう、手配してくださった。
 太陽広場
http://www.sunplaza.com.cn/gaiyo.html

 ここはまぎれもない高級賃貸マンションで、
日本の会社が、赴任家族用に借りるところ。
 家賃は一ヶ月何十万もする。
 が、ここを管理する不動産会社の総経理(社長)大友志郎さんが
福井さんの友達だった。
 で、福井さんはおそらく、「中国語もできずコネもないのに、
家財を売り払って上海に住みたいという女の作家がいる。
放っておいたら破滅するだろう。助けてやってくれないか」
と頼んでくれたのだろう。
 光熱費、水道、掃除してくれる家政婦さんこみで10万円
という破格の値段で、一ヶ月間、滞在させていただくことになったのだ。

 「なにか困ったことが起きたら、同じマンションに家族で
住んでますから」
 と、上海に到着早々、初対面の大友さんにも言っていただいた。
 部屋は広いし設備は整ってるし、そういうことはないだろう
と思っていたのだが、着いた初日にそれは起きた。

 良いマッサージ師さんがいるというので、その夜、来て貰った。
 たしかに良かったのだが、最後に腰のあたりを強く叩かれた。
 じつは私、足も弱いが腰も軟弱。それを忘れていた。
 翌日は、掴まり立ちするのが精一杯。歩けない。

 のっけから申し訳ないが大友さんに電話して、
車で病院に連れて行ってもらった。
 それから一週間余り、まともに歩けず、もうよく覚えていないが
おそらくは大友さん御一家の世話になっていたのだと思う。

 ようやく歩けるようになってからも、言葉ができない上に
超方向音痴の私は御飯を食べるにも苦労し、結局は
大友夫人にくっついて出かけるだけ。
 破格の家賃で泊まらせていただいてるというのに、
何度もレストランなどでご馳走していただき、なんともはや
迷惑な滞在者となり果てたのであった。

 まあしかし、福井さんのこうした配慮のおかげで、
上海に住もうという無茶な発想は、見事に消えた。
 
 その後も、福井さんには親しくしていただき、
振り返ってみれば一緒に旅行へ行った回数も十回を超える。
 グループで、数人で、あるいは二人で。

 この夜は、大友さんが上海から帰国しておられるというので
福井さん行きつけの台湾しゃぶしゃぶ「香味」(新橋)で再会。
 男同士、なにやら怪しい話も出ていた。

大友さん:「ほら、あの時、フクちゃんが付き合ってたあのこさぁ」
福井さん:「え? どのこ? 覚えてない。思い出させてよ」
大友さん:「あれだよ、○○の方じゃなくて」
福井さん:「なにそれ? その○○の方も覚えてない。教えて、教えて!」

 ええなあ、男同士は、いろんな冒険談があって。

 そんな話の合間に、チャン・イーモウだのジョン・ローンだの
コン・リーだのといった世界的な監督、スターさんとの
エピソードが、あたりまえのように出てきて、私の脳裏には
妖しくも怪しい上海の光景が、しゃぶしゃぶの湯気に浮かんでは
消えていくのであった。

大友さん(奥)と福井さん。


 

 

コメント一覧

冬桃
無理…。
打でごんすさん

 値上がりを待てず、ストレスで退散していたでしょう。
打でごんす
あの時上海で家を買っていたら・・
http://4travel.jp/traveler/dapuqiao
お久しぶりです。
あの時上海で家を買っていたら、6倍になっていたはず。
私の97年に83万元で買った家、今は500万元以上だとか・・3年前北京の家を売って、豊洲のタワマン買いました。現在、東京のマンション、ドンドン中国人に買われてるようです。
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