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 今年1月 30 日の、理研発生・再生科学研究センター(以下理研 CDB)における、あの衝撃的な発表。そして、その後のこれまた衝撃的な事態の急展開もろもろ。その騒動もまだ風化することなく続いて、早いもので約半年。

 その後も関連する事象群がゾロゾロ出てきて、収拾がつかない状態に成りつつある。
 混乱を極め、魑魅魍魎の感の強い STAP 騒動問題だが、4月以降の動向をまた少し整理してみたい。
 盟友・榎木さんの毎週発行するメルマガ「SSA サイコムニュース」の記事群を基礎にする。

1)当事者たちの動向
 前回の記事では、「小保方さんは、バッシングの嵐が収まるまで静かにしていたらよい」という意味のことを書いたが、あれから比較的早々に記者会見をお開きになった。あの発言...「STAP 細胞は、あります!」...は、下手すれば流行語大賞の候補になりそうな勢い?である。
 記者会見の中身に関しては、多くの人が述べているので、屋上屋を重ねることはしない。良く言えば、弁護士を味方に付けながらも「批判の矢面」に立って、殆ど全ての質問に淀みなく答えるという見事な応対だった様に見える。しかし、研究成果に対する疑義に、科学的な知見に基づいてしっかり答えるという内容ではなかった。研究者コミュニティは、あれでは納得しないだろう。

 問題の論文の当事者は、全て記者会見を実施している。なぜ個別の実施なのか?という意見も出ているし、個人的にはそうも思うが、やったこと自体には意味があったと取り敢えず思いたい。

 理研 CDB の内部は大分混乱しているようで(伝聞レベルの話だが)、その余波も多々あってか、CDB に限らぬ理研の各方面から研究に支障を来しているという“声無き声”をずいぶん聞いている。“道義的な守秘義務”もあるため、残念ながら書けないが。理研のこちらのプレスリリースを提示するにとどめよう。

 理研の内部では、研究不正に関する内部調査が行われ、一連の研究における不正行為が認定された。結局、2段階の調査になったが、最終的にはかなり説得力のある結論が出てきたと言える。小保方氏側の弁護士チームによる不服申し立てに対しては、再調査をしないという決断をしているが、そちらの根拠はかなり衝撃的なものだったと言って良い(理研公式の「研究論文の疑義に関する調査委員会による調査結果に対する不服申立ての審査結果について」を参照)。
 ただ、その調査委員会(正式名「研究論文の疑義に関する調査委員会」)の委員長だった石井俊輔さんに研究不正疑惑?が持ち上がったり、騒動の余波で京大 CiRA の山中教授に研究ノートの管理不行き届きの問題が発覚したりなど、状況的にはぐちゃぐちゃで、単純に不正行為や不正疑惑だから云々とは言い難い事例も多いが、根は深いとも言える。
 他方で、組織としての理研 CDB のガバナンス(組織統治)も問題視され、それを議論する動きも出てきた。研究不正再発防止のための取り組みとして、外部の人材による「研究不正再発防止のための改革委員会」(以下「改革委員会」)が組織され、議論を重ねて提言を出している。その内容は、理研 CDB の解体を含む厳しい内容で、誠実に研究を重ねていた他の構成員の方々にとっては衝撃的だっただろう。併せて「CDB 自己点検の検証について」も目を通したい。

 小保方氏の博士論文に関する早稲田大学の内部調査もあったが、それに関しては次節で述べる。

2)学術界の動向と更なる検証
 ネットブロガー 11 次元氏の各種の告発をはじめとして、科学研究の関係者からの言論活動や各種検証も、盛んになってきた。全部を列挙するのは無理なので、一部のみ言及する。

 理研の内部からも、様々な声が出ている。
 その影響力が最大と思しきものは、このブログ(kaho の日記)の主(理研横浜の遠藤さん)だろう。後述する日経サイエンスの記事にも登場するが、5つのエントリー「STAP 細胞の非実在について」「同 #2」「同 #3」「同 #4」「同 #5」は早い段階の記事としては、かなり突っ込んだ内容である。後日「#4」は削除されないまま主張としては撤回されたものの、勇気ある告発と云って良いだろう。
 遠藤さんの告発は、ある決定打を生み出した。次節で後述する。

 余り影響力が大きくはないが、存在感を放つものとしては、広島大学名誉教授の難波紘二さんの記事がある。TCR 再構成のデータが怪しいことに関する言及が2月下旬の段階で既にあったこと(こちらの記事こちらの記事を参照)には、それを後から知ったときにはやや驚いた。
 ここで、「TCR 再構成」という語に関して少し補足。免疫系の細胞にリンパ球というものがあり、体内に侵入した異物を認識する上で重要な役割を果たしていて、幾つかの種類がある。その中で、(やや単純化して云えば)胸腺で作られるリンパ球のことをT細胞という(Tリンパ球;「T」は胸腺を意味する英単語 thymus の頭文字)。その細胞膜上に、異物の認識に変わる膜蛋白質が現れるのだが、これが「T細胞受容体(TCR)」である。異物の種類は天文学的な数字になるが、T細胞の中で TCR をコードする遺伝子の切り接ぎ(スプライシング)が行われて、特定の異物のみを認識する TCR へと翻訳される。この TCR 遺伝子の切り接ぎのことを「TCR 再構成」と呼んでいる。詳しくは、理研 RCAI 免疫発生チーム(現在は改組されたが)のこちらのページが分かり易いだろう。蛇足ながら、利根川進が '87 年にノーベル医学生理学賞を受賞したときの業績が、Bリンパ球における遺伝子再構成に基づく抗体(免疫グロブリン)の多様性の原理の発見で、基本的な機序は同じである。
 前回の記事ではちゃんと書かなかったが、今回の理研の STAP 細胞はマウス新生仔由来のT細胞から作ったことになっている。仮にそうだとしたら、その後のテラトーマ作成などの実験は大丈夫なのか?という疑問が湧いてくる。上記で難波さんが言及しているとおり、件のTリンパ球由来の STAP 細胞で幹細胞を作成し、そこからクローンマウスを作出しようとすると、胎児のマウスが「重症複合型免疫不全(SCID)」を発症して、胎仔のうちに死亡するのではないか?という疑問はあり得る。ただ、SCID のクローンマウスは実在する(例えばこちらこちらを参照)ので、この文脈での批判は、幹細胞作成という論点に限れば、実はピント外れの部分もあったりはするが...。
 とはいえ、件の TCR 再構成をしめす nature の論文上のデータ(DNA の電気泳動の図)には改竄が当初から疑われており、理研の内部調査では改竄であると認定されている。

 小保方氏を輩出した早稲田大学理工学研究科でも、博士論文に関する調査委員会が持たれ、議論を重ねて結論が出された(「「先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」調査報告について」)。その結論は、少なくとも研究者コミュニティにとっては、驚くべきものだっただろう。筆者も「これはちょっと...」と強く感じた。
 その報告書において、委員が長を除き匿名であったこと、長が弁護士であったこともさることながら、その内容がすごい。不正行為を認定し断罪しているにもかかわらず、「認識ある過失」の論理で研究不正と学位取得の因果関係を否定?し、学位取消を行わないと結論した。
 学内の関係者からの反発は必至だろう。

3)マスメディアと出版
 大きな影響を与えたのは、日経サイエンスのこの記事だろう。

日経サイエンス 号外
STAP細胞 元細胞の由来,論文と矛盾
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 記事で取材されているのは、上記で触れたあの遠藤高帆さん(理研横浜)である。STAP 細胞における遺伝子プロファイルを解析したところ、マウスの8番染色体にトリソミー(染色体が3本あること)が発覚したという。これはマウス由来の ES 細胞(胚性幹細胞)の一部に見られる典型的なパターンであり、これを以て「今回の STAP 細胞の正体は、実は混入した ES 細胞なのではないか?」というわけだ。このトリソミーがあると、マウスは生まれることが出来ない。Nature の STAP 細胞の論文においては、新生仔マウスから採取した細胞で作成したとあるので、これは矛盾ではないか?と。
 無論、この事実だけから STAP 細胞が ES 細胞と同一視できるというわけでもないが、以前からの疑惑への答えとしてはかなり決定的と言えて、件の論文の手法に対する信憑性を根底から揺るがすものになる。

 その他にも、STAP 細胞の作成に用いたとされるマウスの所在などで、各種の報道内容は錯綜としている。
 各種新聞社の記事へのリンクは時限で切れてしまうので、一々張らずにまとめるが、STAP 細胞の遺伝子プロファイルを解析すると、作成に用いたとされるマウスとは別のマウスを用いていることを示唆する話が各所から噴出している。Nature に論文2方が発表されて以降、多くの研究者が追試を試みているが、1月の記者会見で述べられていたような簡便な再現に誰も成功しない。その一方で、その原因を追及していく動きが一部にあり、そこからボロボロとマウスの由来や細胞の由来、STAP 細胞への別の細胞の混入(?)などが疑われるようになってきた。
 その後、マウスの雄雌が云々(論文にはオスメス何れも用いたとあるが、その後の証言で「雌のみを用いた」という話しも...)だの、マウスの由来となった研究拠点が理研 CDB なのか山梨大若山研なのか不明だの、話題は混乱を極めた。
 関連する記事の数は、数えてはいないが膨大な数に上る。

 とはいえ、科学的な本筋とは余り関係のない、それも嘘か本当か分からず、仮に本当だとしてもどうでも良い話もずいぶん流れている。
 各種週刊誌やタブロイド誌のゴシップ記事の類は、見ていてウンザリするものが多いのでここでは一々挙げて述べない。2つのまとめ記事を挙げておけば、大雑把な記録としては充分か。
STAP 細胞の小保方晴子博士。加熱するマスコミのゴシップ狙い報道にブチ切れ!
STAP細胞で疑惑の小保方晴子についてマスコミが書くゴシップ「虚言癖」「ストーカー」「怪しい金回り」

 これ以上のことが知りたい方々は、検索で容易に発見できるので、ご自身でどうぞ。
 とは言え、当初の華々しい記者会見の中身と、その扇情的な演出(臨床応用近し、割烹着で実験、筆頭著者や主任が若い女性であること)ゆえ、騒ぎを好む向きに燃料投下した一面はあると言わねばなるまい。

4)ネット論壇方面
 漁ればいっぱい出てくるが、事件のスキャンダル性を鑑みれば、これだけ盛り上がるのも宜なるかな。
 読むに値する主要なごく一部だけ挙げておく(下記以外にも重要な論考は沢山ある)が、それでもこれだけある。

[科学政策ニュースクリップ]
STAP細胞論文撤回へ~事実と過度な個人攻撃は分けるべき
STAP細胞事件は博士号の価値を暴落させる
研究への政治介入~科学コミュニティの自律の危機
研究者への倫理教育~何をどうやって?
問われるのは論文のオーサーシップ
オーサーシップ再考

[シノドスジャーナル]
なぜ STAP 細胞は驚くべき発見なのか―STAP細胞が映し出すもの
続・ STAP 細胞が映し出すもの―「科学」と「社会」の関係.
STAP 細胞の問題はどうして起きたのか

[THE PAGE]
<STAP 細胞問題>日本の若手研究者への影響は? 損なわれた「博士」への信頼性

[日本の科学を考える]
監査局や研究公正局の設立の必要性 ~科学者の心と言葉を取り戻す為に~

[大隅典子の仙台通信]
多能性幹細胞を作る簡便な方法:幹細胞は実はストレスで誘導される
リケジョと割烹着:小保方さん報道に関連して(2)
小保方さん関連(その3):いのちを見つめる女性研究者
小保方さん関連(その4):目利きとしての発生再生総合研究センター
小保方さん関連(その5):いまどきの生命科学研究は(たいてい)チームで行う
小保方さん関連(その6):「万能細胞」は<万能>ではない
小保方さん関連(その7):STAP 細胞のインパクトとこれから【追記しました】
小保方さん関連(その8):「リケジョと割烹着」後日談【追記しました】

 問題に切り込んでいく記事も少なくない一方で、理研や小保方氏を中傷したり、他方で小保方氏のシンパとなるようなグループまで生まれたりと、社会心理学で云う社会的影響への是認と反発(...と言って良いのやら?)みたいな動きもある。それらをここでは引用しないが(検索すれば容易に発見できるので、必要な方はご自身でどうぞ)、ゴシップ的な言説群のせいで、一連の問題群が属人的な善悪の問題に矮小化されてその本質が埋もれるばかりか、人的な危害が発生しやしないか?という危惧をどうしても感じてしまう。

5)当事者達と問題の今後
 勿論、今回だけが特異な事例と云うわけではない。
 ネット上での“クラウド査読”のみならず、こんな話まである。以前からも陰ながら言われ続けていた内容を含むが、こうして数値化されると衝撃を受ける。

ゼネラルヘルスケア株式会社
生命科学論文の画像改竄はたくさんあった
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 リンクは張らないが、早稲田大学のコピペ文化なるものも言説上にあるようで、早大理工学部のある研究室の出身者に研究不正行為が続出しているという話は、騒動の比較的初期の頃から云われ続けてきた。これとて、真面目に勉学や研究に励んでいる他の早稲田大学の関係者にとっては、迷惑な話だろう。

 前回の記事でも述べたが、生命科学研究(特に実験生物学)における労働集約的な性格と、苛烈な過当競争が、問題の背後にあるのは恐らく間違いない。その中で、研究者の現場や業界(の一部)にある種の知的不誠実が蔓延り、個々の研究者が研究をデザインし、公正で誠実な研究活動を遂行することが難しくなっている一面も残念ながらある。無論、そうした構造の中で、誠実に研究を進めている研究者も多く居るし、また、こうした構造に対する意識が低いながらも、一定水準以上の成功を収めては業界に大きな影響を及ぼす者も居たりする。

 そうした中で、研究倫理というものをどう考えていけばよいのか。
 これまで多く触れてきたのは、不正行為を分類し、それをしないことが重要という議論が多かったと思われる。ただ、何故それをしてはいけないのか?という問いは、余り発せられなかったと思われる。よくよく考えれば、各種の研究費不正にしろ、いわゆる FFP(捏造、改竄、剽窃=盗用)や著者名義にしろ、利益相反にしろ、これらの問題は研究倫理の中における「研究公正」という一部の話に過ぎない。
 その理由を求める先は、科学研究そのものや、研究成果の社会との共有、研究行為と社会基盤(政治、経済、商業、各種産業、医療、自然環境など)との価値衝突など、すぐれて STS(科学技術社会論)的なところにあると考えられる。この文脈に沿って、例えば ELSI(倫理的法的社会的問題)があったり、科学技術政策の立案及び評価、研究組織のガバナンスの問題などがあったりするのだろう。
 そこから話を起こして、例えば“誠実に研究をすることが、当たり前で気持ちよい”ような科学コミュニティを作ることに結びつけられないだろうか?という思いを、筆者はどうしても抱いてしまう。

 その一方で、起こってしまった不正疑惑には落とし前を付けなければいけないし、明確な不正行為に対しては必要な因果応報がなければいけない。残念ながら、何某かのペナルティは避けられないだろう。小保方さんや笹井副センター長には、何らかの火の粉が公権力により降りかかってくるだろう。
 ただ、米国の ORI(研究公正局)の制度設計の時にも十分検討されたことのようだが、不正告発者や被疑者の権利保護は重要な問題である。必要なのは、誠実な科学研究を遂行することであり、研究不正行為(研究費不正を含む)の調査や実態解明はそのために行うのであって、不正行為を犯した者を罰して終わりにすることではない。


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