歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「息子」 むすこ

2010年11月26日 | 歌舞伎
大正末のころの初演ですので、新作ということになります。

主な登場人物は二人だけです。
夜の火の番小屋です。

「火の番小屋」というのが、江戸の社会システムの中で具体的に何なんだっけと一瞬考えてしまうのですが、
これは、作品自体が海外作品の翻案もので、しかも既に大正時代になっていますので、あまり正確な考証はしていないように思います。
まあ、小屋があって、中に老人がいて、火の番をしている、
それだけのアバウトなイメージで見ていいと思います。

お役人がやってきます。犯罪者が逃げたので探しているのです。
老人が無愛想なのですぐに出ていきます。

若い男が入ってきます。
この若者とはうちとけた老人は、会話をしたり弁当をあげたりします。
若者は、さっきの役人が追っている犯罪者です。じつは、九年前に家出した、老人の息子なのです。
息子のほうが老人に気付きますが、老人は気付きません。何も知らずに息子の自慢話をしたりします。
息子は、カマをかけたりしますが、老人は気付きません。

また役人がやって来るので、息子は逃げます。
逃げるとき、父親の耳元で「ちゃん」と言って逃げていきます。

それだけです。
セリフも現代語なので聞き取りやすいかと思います。


父親の役が難しいので有名なようです。
父親が、「息子に気付いているのかどうか」が、常に問題になるお芝居ですが、
先々代の三津五郎さん(このかたで初演)曰く、「わかってるけど、わかってない」。
だそうです。
人間、「そう思いたくない」ことは、明らかに「そう」であっても、なぜか「そう思わない」ものだと思います。

そういうかんじのお芝居です。


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