歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「助六由縁江戸桜」 簡易版

2013年06月05日 | 歌舞伎
簡易版です。
長いのをアップしたのですが、初見のかたにはむしろ情報過多でわかりにくいかなと思ったので、
内容だけ追えるように簡単なのも書きます。
一度(何度か)ご覧になったかたや、細かいところもチェックしたい、というかたには、=通常版=をオススメです。
急ぐとき用の3分あらすじは=こちら=になります。

基本的に現行上演の手順を中心に書きます。

幕が開きます。桜が満開の吉原です。
舞台は吉原最高ランクの揚屋(あげや)である「三浦屋(みうらや)」の入り口前です。

花魁(おいらん)とそのお付きの行列がいくつも通ります。
遊女が客に呼ばれて「揚屋」(あげや、ここでお客さんが遊女と宴会をします)に向かう。いわゆる「花魁道中」です。
チナミに「花魁道中」は、江戸中期以降にはなくなってしまいます。
「助六」に描かれる吉原の風俗は、元禄前後の最も豪華で贅沢だった時代を再現した、動く時代絵巻です。

ヒロインの「揚巻(あげまき)」が登場します。
何人も通った遊女たちに比べても段違いの美しさや存在感を、出た瞬間に納得させなくてはならない場面です。

揚巻はすでにけっこう酔っぱらっています。
揚巻は人気者なので、来る途中もあちこちで声をかけられるのです。相手をしていたら遅くなってしまいました。
でも「酔ってない」と言い張ってかわいいです。

酔っている揚巻に禿が「袖が梅」という薬を渡します。これは吉原名物の酔いざましの薬です。宣伝です(笑)。

揚巻に手紙が届いています。恋人の助六のお母さんの満江(まんこう)さんからです。
助六が吉原に入り浸って帰って来ないので心配しているのです。ちょっと困る揚巻。

意休(いきゅう)が出て来ますよ。「髭の意休」と呼ばれます。敵役(かたきやく)ですが、安い役ではありません。ラスボスランクです。
お供の若いもんも大勢引き連れてきます。
白玉(しらたま)という遊女と一緒です。白玉ちゃんも全盛の花魁で、揚巻とは仲良しです。

ところで、意休というキャラクターは、廓にいる人物のひとつの典型です。確かに感じの悪い老人ですが、品のない無粋な男ではありません。
花道でのセリフからして、漢籍を引用しながらしゃれた感じに締める、教養とセンスに溢れたものですよ。

意休はずっと、揚巻目当てで吉原に通っていますが、何度呼んでも揚巻は断ってばかりでお座敷に来ません。
意休の頼みで白玉が揚巻に「お座敷だけでもいいから意休と付き合ってほしい」と取り持ちますが、揚巻は断ります。
恋人の助六に顔が立たないからです。

助六の悪口を言う意休。そもそも助六の素行が悪すぎるので、意休が言っている事は事実なのですが、
意休が「助六が喧嘩のたびに相手の刀に手をかける」と言い出し、ドロボウ呼ばわりするので揚巻が腹をたてます。

じっさいは揚巻は吉原の大夫ですから上品な女性です。悪口など言ったことはないのです。
でも、生まれて初めて悪口を言いますよ。
この場面の揚巻の啖呵があまりに派手なので、よく人をこき下ろすセリフの代表のように言われるのですが、
揚巻は普段からこんな事言っているのではありません。
助六のためにおっかなびっくり一生懸命なのです。
という気持ちを考えながらこのセリフを聞くと、また少し違うニュアンスで楽しめるかなと思います。

白玉の仲裁で、ケンカは一応おさまりますが、揚巻は白玉と一緒に三浦屋の中に入ってしまいます。
他の大夫たちと意休が残ります。

いよいよ助六が登場します。

三浦屋の主人の役者さんが、下手の格子の中に向かって「河東節連中(かとうぶし れんじゅう)のみなさん、始められましょう」と
まず挨拶します。
「河東節」というのは浄瑠璃の一種ですが、江戸末期にはすでにかなり廃れており、今はプロはおりません。
なので「十寸見(ますみ)連」と呼ばれる保存会的みなさんが毎回演奏します。
演奏するみなさんは、舞台に上がってはいますが、お客様でもあります。なのでご挨拶するのです。
そして一方で、一瞬舞台の流れを断ち切ってウチワのセリフを言う事で、
「助六」の登場はお芝居の流れの一部であると同時に、歌舞伎の最高の一場面を見せるための、一種の儀式だという、
なにかお祭りめいた気分を引き出します。
絶妙の演出だと思います。

こうして万端整ったところに、尺八の音がして、河東節に乗って助六が登場します。

唐傘を使った花道での振りがあります。
ただ、2,3階席からは花道は見えませんので、諦めてそこは、いろいろ想像しながら優雅に座って音を聞いていましょう。立たないで!!

花道で形よく決まる助六に、遊女たちが、頭の紫の鉢巻の由来を尋ねます。
助六は「ゆかりの方(かた)の…」と言って、ちょっと拝むしぐさをします。
これは、二代目団十郎が奥女中の江島さまにお世話になったり迷惑をかけたりしたことを暗に言っているのですが、
細かいことはこっちでは割愛です。
ストーリーには関係ないですが、定型なのと、形がキレイなのでちょっと覚えておくといいと思います。

舞台に来る助六。
居並ぶ花魁たちが「吸い付け煙草」を次々に助六に差し出します。
当時はタバコは、煙管(キセル)で飲んでいたのですが、これは火を付けるのがけっこうめんどくさかったのです。
なので遊女が煙管に火を付けて、客に差し出すというサービスが定着していました。これが「吸い付け煙草」です。
間接キスにもなるという一石二鳥のサービスです。
助六は吉原一のいい男なので、遊女たちは助六の気を引こうと争ってサービスします。

さらに遊女たちは助六に、自分たちの間に座るように勧めたりして至れり尽くせりです。
意休も煙草を所望しますが、煙管がもうありません。助六が、足の指に煙管を挟んで意休に差し出したりとイヤガラセをします。
すごく乱暴ですが、助六は理由があって意休を怒らせてケンカに持ち込みたいのです。
意休はそれがわかっているのでなんとか我慢します。

ところで、助六は親の敵を討とうと奮闘する「曽我五郎」というお侍です。
意休は実はそれを知っていて内心助六を応援している、という設定です。
お客さんはそれを知っているという前提でお芝居は進むので、意休の演技は助六に対立しながら、
じつは助六の言動を包容している雰囲気も持っているのです。

しかし、ふたりが揚巻を巡る恋敵であることに変わりはありません。その点ではガチです。
むしろそっちのほうが敵討より大事かもしれません。
そういう緊張感も楽しい部分です。

そうこうするうちに、くわんぺら門兵衛という、意休の家来が三浦屋から出てきます。
お風呂場で混浴しようと遊女たちを待っていたのにすっぽかされたので怒っているのです。
居合わせた大夫たちが門兵衛を諌めたり笑ったりします。怒り狂う門兵衛。

そこに、「福山かつぎ」がやってきます。吉原に実在したうどん屋「福山」の、出前の若いお兄ちゃんです。
門兵衛が暴れるので福山かつぎにぶつかってしまいます。因縁を付ける門兵衛。
しつこい門兵衛に逆切れした福山かつぎのタンカも見どころです。

これを助六が止めに入ります。
ここで助六のかっこいい自己紹介のセリフもあります。楽しいです。

さらに下っ端の朝顔仙平(あさがお せんべい)も出て来ますが助六にやっつけられます。

なおも意休を罵る助六。ついカッとなって刀に手をかける意休ですが、助六の表情を見て我に返り、喧嘩をやめてしまいます。
とはいえやはり意休もガマンできずに若いもんをけしかけて、ここで派手な立ち回りになります。強いぞ助六。

このへんまでは、大体、古風な「江戸荒事歌舞伎」のショーみたいなもんだと思っていいと思います。
豪快で圧倒的に強くてかっこいい主人公、美しいヒロイン、妙に強そうな悪役、周りでおたおた攻撃して吹き飛ばされる敵役、
みたいなかんじです。

意休たちも遊女達も逃げてしまい、助六も揚巻に会いに行きかけたそのとき、見知らぬ白酒売りの男が助六に声をかけます。
誰かと思ったらこのみすぼらしい白酒売りは、助六、実ハ「曽我五郎」のお兄さん、「曽我十郎」だったのです。助六はびっくり。
一応曽我ものについてリンク貼りますが、=こちら=
まあ、「親の敵を討とうとがんばっているお侍の兄弟だった」という設定だけで、お話は理解できると思います。

遊郭に入り浸って喧嘩ばかりの弟を非難する兄。
もうすぐ父の敵の工藤祐経(くどう すけつね)を討つ時期だというのに。
しかも家宝の刀「友切丸(ともきりまる)」が見つからないのです。たいへんです。
そんなときに何遊んでるんだ!! と怒る十郎。

助六は、実は自分は、その友切丸を探しているのだと説明します。吉原にいるのは人が多いからです。
なのでそこここで喧嘩を売っては刀を抜かせて、目指す刀を探していたのです。
そういう事情なら、と仲直りした兄弟、兄の十郎も一緒になって喧嘩をすることにします。

ここは、普通に見ればわかる楽しい場面なので、気楽に見てください。お兄ちゃんのケンカの売り方が下手すぎて楽しいです。
助六のケンカの売りかたは上手すぎでこれも楽しいです。

二人で三浦屋の見世先でいろいろ暴れていると、揚巻が出て来ます。網笠をかぶった小柄なお侍と一緒です。
自分を待っているはずの揚巻が客と一緒にいるので怒る助六。お兄ちゃんも一緒になって怒ります。
止める揚巻を振り切って、乱暴にお侍の網笠を取る助六。
あらびっくり。母上。

いろいろ面白いやりとりがあって、なんとか助六が事情を説明し、一応納得する母の満江(まんこう)さん。

しかし、あまり喧嘩するのは、ひょっと怪我でもしまいものではありません。
そんなムチャをするものではない、人間ガマンが大切です。
そう教えて、母は助六に紙衣(かみこ)と着せます。
紙で作った着物です。乱暴に動くと破れます。この紙衣を母と思って、破れないように我慢せよ、との教えです。

兄を連れて変える満江。助六も伴おうとしますが、意休の刀が気になる助六は、そのまま残ります。

揚巻と助六が残ったところに、揚巻を探していた意休が出て来ます。とっさに豪華な打掛の陰に助六を隠す揚巻。
今は助六は紙衣を着ていて喧嘩できないのでモメないほうがいいのです。

ここで意休と揚巻が会話をする様子は、客と遊女という関係ではありますが、なかなかいい雰囲気です。オトナのカップルです。
きわどいセリフを言う意休に、床几(しょうぎ、ベンチですよ)の下からちょっかいを出す助六も楽しいです。

助六に気付いた意休は、吉原で遊んでばかりで敵を討とうとしない助六を叱り(周囲の大人全員が全員同じことを思っている)、
扇で打ち据えます。
紙子が破れるといけないので耐える助六。
ここまで好き放題暴れていた助六の「しんぼう場」です。

こういう場面はあまり深く考えず、ウルトラマンが怪獣にやられているシーンと同じ感覚で楽しめばいいのです。
こういうショーです。もっとやれー!! 

「兄弟力を合わせれば敵は討てる、しかし支え合わないなら、このように倒れる」と言って刀を抜き、
手近にあった三本足の香炉を斬ってみせる意休。その刀の刃をすばやく見る助六。まちがいない!!
もちろん意休は、わざと刀を見せたのです。
意休はまた三浦屋の中に戻り、助六は揚巻と相談して。意休の帰りを吉原の出入り口そばで待ち受けることにします。

現行上演、ここで終わりです。

最後まで出すと、白装束の助六が意休の帰りを襲い、斬りあいになり、意休が斬られます。
異変に気付いた吉原の人々が犯人を捜すので、助六は近くにあった天水桶(防火用の大きい桶、水が張ってあります)にもぐって隠れます。
本物の水を使います。
そのあと助六は若いモンに取り囲まれますが、揚巻が打掛の中に助六をかくしてかばいます。
大勢の若いモンを言いくるめて撃退する揚巻。かっこいい場面です。
この場はなんとか切り抜けた助六、またあとで落ち合おう、と言って逃げて行きます。

終わりです。

助六のかっこよさを気楽に楽しみ、江戸荒事の完成形とされる舞台の美しさを愛でるお芝居です。

どうぞお楽しみくださいー。


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1 コメント

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今夜 見に行きますよ~ (Cara)
2010-05-22 13:09:16
解説 大変助かりました ありがたや~ ありがたや~

師匠 またご指導よろしくお願いします

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