風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

夢の淵をあるく

2016年12月05日 | 「新詩集2016」


  

ながい腕を
まっすぐに伸ばして
陽ざしをさえぎり
さらにずんずん伸ばして
父は
雲のはしっこをつまんでみせた

お父さん
いちどきりでした
あなたの背中で
パンの匂いがする軟らかい雲に
その時ぼくも
たしかに触れたのです

*

  

崖の下から海がひろがる
寄せてくる波が岩に砕けている
風に押し出されそうになって
踏んばる足に力がはいる
まだ奈落に逆らう力がある
それが生きる力であるかのように
勘違いする余裕もあった

崖は陸地と海を切断し
ときには生と死をきり分ける
追い詰められたひとたちが
そこから海へ向かって消えたという

崖はいつも女をまっさかさまにする…

そんな詩のことばが浮かんでくる
なん十年たっても
まだ一人も海にとどかないという
まっすぐに海までの
測っても測れない距離がある

ときには引き返そうとして
ひとは空に向かって
まっさかさまに落ちる
崖の上にも深い海はある

*

  夢の淵

おなじ夢をよくみる
岩場の深い淵に立っている
とても飛び降りられる高さではない
以前にもそんな夢をみた時期があった
どうにでもなれと
思いきって飛び降りてみた
すると崖は
あっけなく消えた

目覚めるために
あしたの詩を書いている
深い淵のように
見えないものがいっぱいある
崖の上に立って投げるのは
言葉ことば言葉
なかなか海までは届かない
夢と現実のはざまで
立ち止まったままでいるから
夢の淵からも
なかなか飛び降りることができない

*

  目覚めよと呼ぶ声がきこえる

黄色い魁の
小さな灯がともる
一日がすこし明るくなる
ひんやりと花の奥にひそむ
はるかな香りに
浮き立つ

夢の中から夢が

花の木の下では
凍えながら眠りつづける
ぼくの蒼白な虫たち
ぽつぽつと灯をともし
咲いては落ちる
無明の音を聞いている




コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 始まりを告げるものは | トップ | かたちになるまで »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
感想 (あやか)
2016-12-08 21:01:42
はじめてコメントさせていただきます。
すばらしい詩ですね。夢と現実の、はざまの光景を、よく表現なさっており、深い感動を
覚えました。
私もよく夢を見ます。海や森や浜辺や崖の情景が多いです。ーー詩にかいていらっしゃるとおりです。
でも、夢から醒めたときも、独特の爽快さがありますね。
これからも、すばらしい詩を期待しています。
ありがとうございます (yo-yo)
2016-12-09 07:53:18
あやかさん
嬉しいコメント、ありがとうございました。
励みになります。
詩を書くことにおいては、夢と現実の境い目はないような気がします。
しばしば夢からすばらしい啓示をうけることもありますね。
あやかさんのブログにも伺いたいのですがリンクができません。
これからもよろしくお願いします。

冬の夜に (あやか)
2016-12-09 19:27:10
私自身は、ブログは持っていません。ーーーごめんなさい。
ただ、最近、すこし、インターネットを検索するようになり、
すばらしいブログを拝見すると、つい何か感想を書き込みたくなります。
また、機会がありましたら、このブログの珠玉の詩を拝読させていただきたいと思います。

☆あやか☆より
いつでもどうぞ (yo-yo)
2016-12-10 08:12:49
☆あやかさんへ

ていねいな返信、ありがとうございます。
いつでもお気軽に立ち寄ってください。
お待ちしています。

「新詩集2016」」カテゴリの最新記事