ニシノユキヒコの恋と冒険 川上弘美さん

川上弘美さんの文章は繊細で美しい。この「ニシノユキヒコの恋と冒険」は恋愛小説として素敵な出来映えだと思いますが、それは
繊細で美しい文章だから成り立つものなのかと感じています。

ニシノという男性も、それに関わっている女性達も、決して激しくはなく、美しくもない、恋愛とも呼べないような関係を繰り広げています。

何も特別ではなく、読者の誰もが経験した事のあるような、何処にでもあるような、後から考えると恥ずかしくなるような。でも、美しい文体から、心にすんなり入ってくる。

ニシノという男は、どうやら仕事は出来るのでしょうね。社長になってるくらいですから。身なりも立ち居振る舞いもしっかりしているが、女性関係は、いわゆる世間でいう「だらしがない」という事になるのでしょう。

確かに、実際にこんな恋愛をしている男も女も多くはないでしょう。でも、彼の行動、言葉は、多くの人が持っている心の中を代弁しているだけなのではないですか？

興味本意で女性を誘い、少し真剣に成りそうな時には自分自身にブレーキをかけ、相手が逃げて行きそうになれば、真剣に追っかける。現実社会では、そんなに簡単にはいかないかもしれませんが、心のなかはいつもこんな感じだと私は思うのです。