花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

腹痛と腹部不快感のこと

2017-08-10 | 医学あれこれ
重複した研究会のいずれに出席するかとさんざん迷った挙句、耳鼻咽喉科でも漢方でもない畑違いの消化器内科関連の講演会に出向いた週末があった。作成中の論文に関連し消化管症状について認識を深めねばと考えた為である。特別講演は『機能性消化肝障害の新たなる治療戦略』(演者:慶応義塾大学学部 医学教育統轄センター、鈴木秀和教授)であった。
 機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders; FGIDs)の診断基準には従来からRome基準が用いられている。過敏性腸症候群(IBS)はFGIDsの一つであり、器質的な異常を認めないのにも関らず、腹痛あるいは腹部不快感、便通異常が持続する機能性消化管疾患であるが、新しいRome IV基準では「腹痛または腹部不快感」から腹部不快感が削除された。重篤な症状の「腹痛」から重篤でない「腹部不快感」までの一連の症状において文化的異質性 (cultural heterogeneity) の要素を除くべく、鍵となる症状「腹痛(abdominal pain)」に今回絞られたのである。だが「腹痛」の感じ方、捉え方においても本邦と欧米では差がありますと、質疑応答の際に他の質問に関連して述べておられた。
 肉体的な疼痛は誰でも一度は何処かに感じたことのある感覚である。「心の疼きや痛み」などとは異なり、腹痛は古今東西等価交換できる余計なものが入り込まないシンプルな感覚に思いがちである。しかし「腹痛」という言葉で切り取られる感覚は、痛みの認知プロセスにおいてすでに文化枠組的な制約を受けている。これは腹痛のみならず、腰痛であっても耳鼻咽喉科領域の耳痛であっても事は同じだろう。西洋医学の日常診療においても、背負っておられる個々の文化的異質性は絶えず念頭におかねばならない大切な留意点である。



ジャンル:
ウェブログ
この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 空蝉│大暑に源氏物語を読む | トップ | 夏の終わりに »