ポケットの中で映画を温めて

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『午後8時の訪問者』を観て

2017年04月16日 | 2010年代映画(外国)
『午後8時の訪問者』(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督、2016年)を観てきた。

診療時間を過ぎた午後8時。
小さな診療所のドアベルが鳴らされるが、若き女医ジェニーはそれに応じなかった。
翌日、診療所近くで身元不明の少女の遺体が見つかり、診療所の監視カメラにはその少女が助けを求める姿が収められていた。
彼女は誰なのか。何故死んだのか。
ドアベルを押して何を伝えようとしていたのか・・・
(Movie Walkerより一部抜粋)

あの時、研修医のジュリアンはドアを開けに行こうとした。
それを、ジェニーが止めた。
理由は、ジュリアンの時間外勤務のこともあったが、それより、代診の自分の方が彼に対して優位性を示したかったため。

ドアを開けていれば、少女のその後の事態は当然に変わっていた。
それをジェニーは悩む。
その後、なんどきも後悔の念から、どうしても開放されない。

この黒人の少女は、どのような犯罪に巻き込まれたのか、それとも事故だったのか。
そして、いったいどこの誰なのか。
ジェニーは罪悪感から、少女が誰にも知られず無縁仏になってしまうのが辛く、彼女の足取りを探し始める。

作品の内容は一見、サスペンス調のようにも思えるが、ダルデンヌ兄弟の視点は、今までがそうだったように社会に注がれている。

ジェニーは、待遇も良い大きな病院での勤務が決定していたにもかかわらず、この事件で、診療所を引き受けることに決心する。
ジェニーが往診に行く先々での患者とのやり取り。そこでは、その家庭の状況や家族そのものが垣間見える。
研修医を辞めて、田舎に引き籠るジュリアンの本当の理由。肉親との間に抱える葛藤。
家庭内の葛藤はジュリアンばかりではなく、患者の少年ブライアンにも共通し、重要な事柄となっている。
そして、作品として何気なく提示してあった移民問題が、観終わってみると大きな主題となって表れる。

ダルデンヌ兄弟のコメントが、この映画のメッセージ性を教えてくれ、重要な意味をもつ。
「ジェニーが閉じた扉は、ヨーロッパが移民に対して閉ざした扉を意味します」

ダルデンヌ兄弟の映画は、どの作品を取っても絶対に損をした気分にさせない。
正しく今回もそのような思いと共に、ジェニー役の“アデル・エネル”の印象が鮮明に残る。

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