自分の手で扉を開く決心がついた
それは少し前の事
自分の内部から阿姫の気配が消えていた
阿姫はどこにもいなかった
もちろん阿姫の振りをしようと思えばできない事ではない
けれどもそれは相手に対して偽っているようなもの
少なくとも私にはそう思えた
阿姫の口調を真似れば真似るほど息が苦しくなった
何故ならば
それは自分ではないから
偽りの自分だから
大好きな人たちに嘘はつけなかったんです…
皆が誰かを演じているこの世界
けれども流石に
誰かを演じる自分を演じる事はできなかったんです
元々仮想空間であるこの世界
かつてそこには確かに魂があった
魂がなくなった今
そこに存在する器もすでに存在する意味はなく
扉を開いてしまう前に
挨拶をしなければと思った
けれど、その挨拶でさえも
文をしたためようとする手が動かなかった
極一部の親しい方を除き
挨拶無しにこの世を離れる事をお許しください
あの器を放置するつもりはございません
きちんと扉を通らせてあげようと思います
抜け殻だけ残すなんて、そんなの可哀相
それが私という人間の、阿姫に対するせめてもの償い
阿姫を愛してくれた人たち
今までありがとう
愛してくれてありがとう
そしてごめんなさい
阿姫は幸せな子でした
いつかまた、誰かが私に降臨する事があれば
またこの大陸に戻ってくるやもしれません
けれどもそれはきっと全くの別人
似ても似つかぬ恐ろしい様相を呈していることでしょう
私信
マエルさん
あなたが帰ってくると言っていた春まで生きていられなくてごめんなさい
中の人は全くもって変わりありませんので
メールでもいただけたらお返事はきっと必ず
8月のアリーナでお会いできたら…
今でもそんな事を思ってます