小選挙区で特に支持する政党や候補者がいない場合、どうするか? 棄権や白紙では有力候補への信任になってしまう。なんとか自らの1票を活かしたい。今日の朝日新聞にはこうある。
〈まず、自分が求める候補者の資質や政策に基づき、最も合うと思う候補者を選ぶ方法だ。他人の行動を踏まえ、合理的に利益の最大化をめざす「ゲーム理論」が専門の船木由喜彦・早稲田大政治経済学術院教授は、この方法を「誠実投票」と呼ぶ。
そういう候補者がいたとしても当選が極めて難しいと判断した場合、勝機がある別の候補者に投票することで一票を生かす「戦略的投票」(船木教授)がある。例えば、A、B、C、Dの4候補者のうち、自分が支持する候補者Cが最下位で、他の3人から大きく引き離されている場合。「誠実投票」でCに票を投じると「死票」になる可能性が高い。このため、AとBが接戦で、Bが自分の考えにより近い候補者であれば、Bに投票する方法だ。〉
前稿では、立候補者側にナッシュ均衡を援用した。舟木教授は投票者側から捉えている。「戦略的投票」がそれである。「誠実投票」では玉砕となる。「相手がどう出ても自らが損をしないように行動する時の均衡状態」、つまりナッシュ均衡の逆用だ。自らの主張に適う最善の「誠実投票」も、自らの主張に“殉ずる”次善の棄権や白票も捨てて、自らの主張をウェイティングする“次々善”の選択。これが「戦略的投票」である。
「孫子」は九地篇で、
〈敢えて問う、敵、衆にして整えて将に来たらんとす。之を待つこと若何。 曰く、先ず其の愛する所を奪わば、則ち聴かん。兵の情は速やかなるを主とす。人の及ばざるに乗じ、虞(ハカ)らざるの道に由り、其の戒めざる所を攻むるなり。〉
と説く。寡兵を以て衆兵に対するには速攻、敵の急所を衝けという。不備、不測、無防備に付け入れ、と。2大政党制を前提とした小選挙区制は衆兵同士の差しの勝負である。寡兵は想定外、勝負にならない。なお伍するには寡兵同士が合従連衡するに如くはないが、それが適わねば擬似的なそれをつくるほかない。衆兵が「虞らざるの道に由」るのだ。それが逆“ナッシュ均衡”である。
ともあれO沢氏の豪腕によって採用された小選挙区制が諸悪の根源である。以前は中選挙区制。大中小の語並びで「小」と名付けたのであろうが、実態は『単』選挙区制である。1人しか当選しない。死票累々、民意切り捨て、最低の制度だ。
番度(バンタビ)問題となるのが低投票率。小選挙区制の歪みが極大化する。同じく今日の紙面で朝日は「小選挙区制のもと、第1党は全有権者の3分の1以下の得票率でも、圧倒的な議席数を占める傾向がある。低投票率はそうした選挙結果の乖離に拍車をかけている」と指摘する。以下、抄録。
〈2014年の衆院選の投票率は小選挙区で52・66%で、戦後最低だった12年の59・32%をさらに下回った。自民党は単独過半数に到達。「安倍1強」を盤石にした。ただ、低投票率とあいまって、全有権者に対する得票の割合を示す絶対得票率は小選挙区で24・49%、比例区で16・99%にとどまった。明確に支持を示した人は小選挙区で4人に1人、比例区では6人に1人だった自民が全議席の6割を占めた計算だ。〉
「4人に1人」「6人に1人」で民意といえるのか。そんなもので単独過半数とは国家的詐欺に等しい。かといって、旧に復するにも多数を取らねばならぬ。難儀なことだ。だから、「戦略的投票」で“次々善”の選択をしようということになる。
今夕から台風21号が列島を縦走する。投票率は下がるだろう。凶と出るか、吉と出るか。アンバイ君がほくそ笑む顔なぞ見たくはない。民意が吹き攫(サラ)われる狂風ではなく、国家的詐欺を追い返す神風となるか。後者であることを切に願う。 □