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「聖地チベット ポタラ宮と天空の至宝」(その2)─女神と男神、そして合体!

2009-11-10 | ■美術/博物
チベット仏教の特色は、「密教」にあります。護摩行などの密教儀礼を持つ密教は、インドに起源を持ち、9世紀には、中国を経て日本にも最澄や空海によって伝えられていますが、日本と並ぶもう一つの密教の地がチベット。チベット密教は、8世紀以降にインドから直接伝えられたもので、様々な宗派が作られると同時に、壁画、タンカ、金銅仏、密教法具などの「密教美術」が栄えました。

今回の展覧会でもそれらの一部を垣間見ることができますが、なかでも私が一番心をひかれたのは、やはり仏像です。チベットの仏像は、当然のことながら、日本のそれとは表現形式も趣も大きく異なっていました。以前タイに行ったときにも、あちらの仏像があまりにも見慣れた仏像とは違っていたので驚いたものですが、チベットの仏像もそれとひけをとらないくらい衝撃的でした。

たとえば、仏像に男女の区別があること。日本の仏像は、「女性的」なのはあるけれど、仏そのものに「女性」はいない。というか、本来仏には性別はありません。「菩薩」が母性の、「如来」が父性の象徴とされることはあっても、菩薩も如来も、男でも女でもないのですね。

ただ、インド仏教に由来を持つ仏には性別があります。もともとはヒンドゥー教の神々で、ルーツの方はもちろん男女の性別がはっきりしていますから。たとえば、帝釈天(軍神インドラ)、梵天(創造神ブラフマー)、四天王(持国天、増長天、広目天、多聞天)、金剛力士などは男性、吉祥天(ラクシュミー)、弁財天(サラスヴァティー)、鬼子母神(ハーリティー)などは女性です。

チベットの仏像(神像)にも、そうした男女の区別がしっかりあります。しかも、男女の仏様がしっかり抱き合っていたり、いや、それだけではなく、「合体」までしている仏像がいくつもあったのには驚きました。



たとえば、「カーラチャクラ父母仏立像(ぶもぶつりゅうぞう)」(上写真)。4つの顔と24本の腕を持つカーラチャクラ(時輪金剛)が、妃と抱き合っている姿が描かれています。なにせ、手が24本もあるのでどれがどれやらわかりにくいのですが、よーく見てみると、手に手にいろいろな武器を持っている中で、2本の腕だけはしっかり妃の腰に回されているのが分かります。さらによーく見ると、完璧に「合体」なさっている。

しかも、そんなことしながら、足下では、悪魔をちゃんと踏みつけにしているのだから、カーラチャクラ、まったく見上げたもんですな。

こういう「合体型」の仏像を「父母仏(ぶもぶつ)」と呼ぶのは、「父」が慈悲の、「母」が空の智慧(般若)のそれぞれ象徴であり、それが一体となることで、「悟り」の境地に至るという考え方からのようです。決して「快楽」ではないところが密教たるゆえんなのか? そういえば、あんなにしっかり抱き合いながらも、二人?はそんなにうれしそうでもなく、むしろ憤怒の表情を浮かべていたりします。

この像は、チベットのお寺では下半身に衣をまとった姿で安置されているそうです。悟りを成就した修行僧だけがカーラチャクラ像のすべてを見ることができるのだとか。五体投地でカイラスを目指すくらいの厳しい修行を積まなければ本来見られないものを、煩悩だらけの私たちが簡単に目にすることができるってのも、いいのかなあ…という気がしました。



女性の仏像は、「緑ターラー立像」(菩薩の涙からお生まれになったという)など、慈悲あふれる表情の仏像が目を引く一方で、やはり、お怒りの神々もいらっしゃる。口からとがった歯を見せて、かっと見開いた目が空中を見据える「ダーキニー立像」(上写真)などはその典型です。このポーズ、なんともいえず、キマってます! しなやかにくびれた腰、すらりと伸びた脚は煩悩や悪を象徴する人間を踏みしだき、左手にはなぜか脳味噌を構える。頭には5つのドクロの髪飾り。それぞれ、貪欲、ねたみ、愚かさ、幼稚、欲情を表すのだそうです。ドクロは、長いネックレスにもあしらわれています。

こんな造形美をつくり出したチベットの人たちに、心から感謝ですね。

さて、今回の展覧会については、中国がチベットを侵略した歴史や、現在インドに亡命中のダライ・ラマ14世については全く触れていないことに対し、抗議の声も上がっているようです。結局は、中国政府の思惑どおりのチベット展にしかなっていないと言う。

確かにそうなのかもしれませんが、それでも、チベットの歴史と風土、そしてそこに住む人々の英知と美的感覚が生み出した素晴らしい芸術を堪能するには十分すぎるほどだと私には感じられました。政治的な状況はさておき、今回の展覧会が、私たちが「聖地チベット」の姿を知るための一つの入口になっていることは間違いありません。

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