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やっぴBLOG

「パフューム」─香水・香料の歴史への糸口として

2007-03-04 | ■映画
この映画、評価がはっきり分かれるようですが、「香水の歴史」を知る上での一助にはなるのかもしれません。

香水といえば、今でもフランスが思い浮かびますが、この映画の舞台は18世紀のパリ、そして南フランスのグラースという町です。グラースは、今でも香水のメッカとして知られています。もともとは皮革産業で栄えた町ですが、香水の原料となるラベンダーやバラ、ジャスミンなどの栽培に適していたこともあり、中世にこの地にやってきたフィレンツェ人が香水産業の基礎を築いたと言われています。

人はなぜ香水を使うのか。およそ2つの目的があるように思います。1つは他人特に異性を引きつけるため、そしてもう1つは言うまでもなく「臭い消し」のためです。

香水の歴史をさかのぼれば、そこには「香料」が登場します。古くは古代エジプト時代、ミイラづくりの際の消臭や殺菌のために、また、神殿で焚かれて神秘的な雰囲気を醸し出すために没薬、白檀、乳香などの香料が用いられていました。「シバの女王」で知られるシバ国は、香料の産地として栄えたといわれています。また、古代ギリシャ時代には、香料が初めて「美容」のために使われました。カツラや顔にすり込むなど、「化粧品」としての用途です。

香料は、このように文字通り「香り」を生かすほかに、食物に加えられるものもありました。代表的なのが香辛料(スパイス)です。ローマ時代には東方から香辛料が輸入され、宮廷の豪華な料理に花を添えていました。食物としての香料はさておいて、フレグランスとしての形が作られるのは、中世ヨーロッパにおいてでした。それを可能としたのは、もちろん当時世界最先端の文化を誇っていたイスラム文化でした。つまり、イスラムからもたらされた「アルコール」(この言葉自体がアラビア語から来ています)が香水の製造に欠かせないものだったのです。

この映画でも、ダスティン・ホフマン演ずる香水調合師バルディーニが、主人公のグルヌイユにアルコールの使用法を注意するシーンが出てきますが、香料を調合してアルコールを加えることによって香水を作るという製造法は、現代香水の元祖とも言えます。この製法によって、英国エリザベス女王に捧げられたのが、「ハンガリアン・ウォーター」です。ローズマリーを主原料とした香水だったらしい。"perfume"(パフューム)の語源は、ラテン語の"per fumum"つまり「煙を通して薫ずる」という言葉だそうですが、このような製法はこの映画でももちろん垣間見ることができます。

フランスの香水の歴史は、フィレンツェのメディチ家からフランス王アンリ2世のもとに嫁いできたカトリーヌ・ド・メディチによるところが大きい。彼女は、フォークや傘、アイスクリームなど様々なイタリア文化を初めてフランスに持ち込んだ人ですが、香水についても、お気に入りの調香師をフランスに連れてきていました。彼が開いた香水店が、パリの香水専門店第1号となるのです。

実は、フランスでも、香水は「臭い消し」の目的が強かったようです。当時の人はほとんど風呂に入る習慣がないため、体臭がきつかった上に、身につけるものは「なめし皮」ですから、皮革独特の動物臭がひどかったと言います。そういう「悪臭」を隠すためにこそ香水が必要だったわけです。

別のところでも書きましたが、19世紀初めナポレオンがプロイセン(今のドイツ)に遠征したとき、ケルンで製造されていた「ケルンの水」という香水が大量にフランスに持ち込まれました。「ケルンの水」はフランス語で「EAU DE COLOGNE」(オーデコロン)というわけです。

ちなみに、香水は、その濃度によって次の4種類に分類されるのだそうです。

パルファン 濃度:15%~25% 、持続時間:7時間程度
オーデパルファン 同10~15%、同5時間程度
オーデトワ 同5~10%、同3時間程度
オーデコロン 同3~5%、同1時間程度

19世紀になると、産業革命の進展に伴って有機化学工業もさかんとなり、アルコールをはじめ、香水の原料は化学的に合成できるようになります。映画のような「1万個」のバラの花が、必ずしも必要ではなくなるのです。香水の価格は下落して庶民にも手が届くようになり、合成香水が民衆の間にも広がっていきました。

さて、この映画ですが、原作はドイツでベストセラーになった同名小説だとか。本で読んでいた方が面白い種類の映画なのかもしれません。映像は確かに美しい。舞台となる18世紀のパリや周辺都市の情景を生き生きと切り取って見せてくれます。昼の明るい日差しと対称的に、夜になると街はほとんど真っ暗闇に包まれるという見せ方は、恐怖感をあおられます。女性が襲われるシーンなどけっこうハラハラするシーンもあるのですが、そういえば加害者の方が主人公なんだよな、とつい冷静になってしまったりして。冒頭にややグロテスクな部分が出てきますが、18世紀のパリの市場なんてあんな感じなんだろうなと、あれは逆にリアルな感じがしました。

とにかく、最初から最後まで、主人公に感情移入できないのはいかんともしがたい。そもそも主人公のセリフが少ないというだけでなく、嗅覚が人並み外れて優れている、という点が自分としてはどうも実感できないからなのかもしれません。

ラストの30分ほどは評価まっぷたつ。私は思わず苦笑。恐るべしエジプトの香料。得体のしれない魔力が潜んでいた…という点で、そこだけはまるで「ハムナプトラ」の世界でした。

 
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1 コメント

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読みいってしまいます。 (あけのぼ)
2007-03-07 20:39:42
最近ふと、13デイズがみたくなって(公開時にも見ました)調べていたら、ここに漂着しました。
映画だけではわからなかった事が色々載っていて興味深く、よけいに見たくなってきました。大人になって(もう35歳やなー)歴史がドンドン好きになっていきます。オヤジになったんかなぁ・・・と思ってましたが、そう言えば高校のときに既に横山光輝先生の漫画の三国志に夢中になってたことを思い出しました。で、中国史に興味を持っていたのですが、楽しみにしていた世界史の授業で、いざ三国時代!と思ったら教科書ではなんと2行!悲しかったなぁ。でも古文の”こうもんのかい”(漢字も内容も忘れてしまったw確か項羽と劉邦のエピソードだったような?)が面白かった。
最近、映画パヒュームがちょっと気になっていたのでこちらを覗くと、これまた時代背景や香水の話が面白く読みいってしまいました。やっぴさん、文章うまいですねー。以前仕事で文章を書くことが多かったこともあり、その知識と文章力に感心しました。やっぴさんのような先生に教えてもらえる生徒が本当にうらやましい。
現在、うつ病にかかってしまい退職後、無職(人生の苦難の時期だなぁ)なんですが、機会があればまた寄らせていただきます。HP製作大変かと思いますが、こういう人間も興味を持ってみさせていただいているので、どうかがんばってください。

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