山崎裕二 活動誌 ブログ版

日々の活動の様子を綴っています。

地方自治法 第180条が規定する委任専決処分に係る解釈

2016-12-13 11:45:47 | 地方自治六法関連

 委任専決処分とは、地方自治法

 第180条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。

 2 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。  

の規定により、長が議会の委任を受けて、議会の権限に属する軽易な事項について、議会に代わって意思決定をし、これに基づいて処分することほかをいいます。

 いくつかのイシューをまとめていきます。

▼委任議決の提案権

 議会が長に委任する場合は、議会がその議決により、委任事項を指定する必要があります。この点に関しては、行政実例 昭和30年12月17日 北海道議会事務局長宛 行政課長電信回答によると、

 問 第180条の提案権は、長にもあると思うがどうか。

 答 長は、議長に対して事件を特定して本条の議決を依頼することができる。

となっており、委任事項の決定に関する提案権は議員にのみ専属するとの考え方を示しています。

▼軽易な事項

 委任専決処分は議会の権限に属する事項のうち、軽易なものに限ります。このことから、当該権限を議会に属せしめている法令の趣旨が専ら議会自らがこれを行うことを予定しているもの、あるいは、議会がその意思または意見を表明しなければ、意味をなさないものなどは委任できないといえます。

 具体的には、議会における選挙、決定、議会の同意、意見書の提出、諮問の答申、請願の採択、証人喚問などは委任できないと解釈できます。

 また、議会が委任事項を議決により決定する場合、当該事項が軽易な事項であるか否かをも判断して行うこととなります。この判断はいわゆる自由裁量ではなく、委任する事項は客観的にも軽易なものでなければなりません。

 なお、この点に関する判例としては、東京高等裁判所 平成13年8月27日判決があります。すなわち、

 議決の内容からすれば、都議会は、都が提起する訴訟事件に係る和解と都が応訴する訴訟事件に係る和解とでは、その軽易の程度が異なるものと考え、都が提起する訴訟については、訴訟の目的の価額をその軽易の判断基準として、それが1000万円以下のものに限り知事の専決処分とすることとし、他方、都が応訴した訴訟事件に係る和解については、応訴事件であるがゆえにこれがすべて軽易なものであるとし、都議会にゆだねられた上記裁量権に基づいてこれを知事の専決処分としたようにうかがわれる。

 しかし、都が提起する訴訟事件が除外されているとはいえ、およそ都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを知事の専決処分とすることは、あまりに広範囲の和解を知事の専決処分にゆだねるものといわざるを得ない。応訴事件に係る和解のすべてが軽易な事項であるとすることは、「和解」を原則として議会の議決事件とした法96条1項12号及び議会の権限のうち特に「軽易な事項」に限って長の専決処分にゆだねることができる旨を規定している法180条1項の趣旨に反するものであって、本件議決は、都議会にゆだねられた上記裁量権の範囲を逸脱するものというべきである。

としています。つまり、原則として、軽易な事項であるか否かは、議会判断に依拠しますが、金額の制限を全く設けることなく、長の専決に委ねることは議会の裁量権の範囲を逸脱していると摘示できます。

▼長による議会への報告

 同法 第180条第2項の規定にもとづいて、長が委任事項について専決処分したときは、これを議会に報告しなければなりません。

 なお、報告時期については、行政実例 昭和31年4月2日 佐世保市議会事務局長宛 行政課長電信回答によると、

 問 自治法第180条により、市長の専決処分の事項を指定するとき、市長は次の議会に報告しなければならないと期限を付して指定することは適当でないと解するがどうか。

 答 第180条の専決処分についても、次の会議において、議会に報告することが法意と解せられる

とあり、当該専決処分を行った後、最初に開かれる定例会または臨時会において、報告すべきとの判断です。

▼専決処分指定事項の廃止の可否

 専決処分事項の指定取り消しについても蓄積があります。すなわち、行政実例 昭和35年7月8日 自治丁行発第6号 宮城県議会事務局長宛 行政課長電信回答によると、

 問 長提案になる専決処分事項の指定についての議案を議決したが、それが処分されないまま経過し、かつ、諸般の情勢により取り消しする必要が生じた場合、議会は、先になした専決処分事項の指定を取り消しする議会ができると思うがどうか。

 答 …、議会は、将来に向かって指定を廃止する旨の議決をすることはできるものと解する。

▼専決処分の委任に条件を付すことの可否

 新たな条件付きの限定や指定事項であっても、報告だけでなく、議会の議決を付すことが可能かどうかについても、見解が出ています。行政実例 昭和37年7月4日 自治丁行発第51号 山梨県総会事務局長宛 行政課長電信回答によると、

 問 地方自治法 第180条の規定により、既に議会で指定した事項について

 1 「閉会中に限り専決することができる」ものとして、新たに条件を付することは差し支えないか。

 2 同条 第1項には、「…これを専決処分にすることができる」とあり、したがって、指定されている事項を専決処分するか否かは、長が必要と認めた場合は、議会の議決に付することができると解してよいか。

 答 1および2はできない。


1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (篠塚信太郎)
2016-12-13 21:42:00
素晴らしい調査研究です
参考になりました

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。