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ジャージの二人・三人:映画と小説

2016年09月14日 | 作品・作家評

「ジャージの二人」という映画は、すでに私の”夏用映画”のリストに入っていた。

北軽井沢の別荘でジャージを着て涼しい夏をすごす50代の父(鮎川誠)と30代息子(堺雅人)の話なのだが、この映画はほとんどのシーンが群馬県の嬬恋村なので、てっきり地域の宣伝を狙った村おこし映画の類いだと思っていた。

実はそうではなく、長嶋有という芥川賞作家の小説が原作だったのに気づいたのは今年になってから。

確かに、地域宣伝映画としては、室内にカマドウマ(便所コオロギ)が跋扈するし、携帯の電波は届かないし、散歩に出たら道に迷ったりして、どう見ても”あこがれの別荘ライフ”にはなっていない。

ただ、キャベツ畑を前景にした浅間連峰の風景は美しく、そのシーンだけはうっとりする。

映画としては、ストーリーを追う内容ではなく、それぞれ夫婦関係がうまくいってない父と息子の別荘内でのぎこちない会話が続いていく。
彼らの周囲の人たちもまた対人関係につまづいていたりするのだが、それらが解決したり、さらに込み入ったりするわけではない。

映画内で唯一解決するのは、ジャージに張ってある「和小」(小学校のジャージ)のロゴの読み方が判明することだけだ(まさか「わしょう」じゃないよね。という所から出発する)。

このまったり感がなんともいえず、一度レンタルしてすぐに「毎年、夏になったら観る映画」のリスト入りを果たしたのだが、今年はロケ地の北軽井沢で(持参して)観たせいか、やけに心に染みてしまった(作品への距離がぐっと近づいた感じ)。

それで、原作の存在を知ったのでさっそく読んでみた。

原作は「ジャージの二人」と「ジャージの三人」の二部構成(この二部がともに映画に対応)で、合わせて文庫本になっている。

原作を読んで、不思議に思ったのは、普通なら書かないような日常の動作があえて丁寧に記されている点(これは映画になかった)。

たとえば、パンを食べたあと立ち上がる時、服に着いたパンの粉を払うとか、車の助手席に乗った時、シートベルトの差し込み口を探すとか、確かに日常なにげなくやる動作だが、文学的記述として、何かの布石や暗示、あるいは人物の性格や他者との関係性の描写としての意味があるなら分るのだが、それがまったくないのだ。

この点が不思議で、このような一見冗長な記述にどんな文学的効果があるのか気になってしまった(気になったのは私だけではないようで、文庫本解説の柴崎友香氏も問題にし、解釈している)。

それに一人称で書かれている主人公が作家志望だったり、実際この著者は北軽井沢に別荘(というか山荘・山小屋)を持っていたりするので(別の著作で知った)、小説(創作)というより、作家自身の随筆か日記を読んでいる感覚になる。

だからどうでもいい身辺雑記がそれなりに存在感をもってくる。
これがあの記述の効果なのか。
われわれの日常は、それぞれが有機的に繋がってなんかしておらず、先の用事と後の用事がそれぞれに別個に存在するのだ。
その非連続の事象にそれぞれ律義に対応して生きるのがリアリティ(別荘での生活)なのだ。
文学とは、そのような生(セイ)のリアリティを表現すればいいのであって、なにも人工的な「物語」を作る必要はないといえる(この態度はつげ義春の漫画に通じる)。 
われわれはある事をする時、その周辺の些事もやらざるをえないのだ。
読者はどうでもいいと思っていても、作者がそれをどうでもいいと思っていないなら、 その作者の意図を理解することが読書だ(おおげさに言えば、他者の視点の獲得)。

これにインスパイアされて、私も最近のブログをあえてそのように書いてみた(どの記事でしょう)。

かように原作は原作として味わえた。

ただこの作品は、映画にしてこそ、価値が発揮される。

なぜなら、二人がずっとジャージを着ているのは映像でこそ継続的に表現されるが、テキストだと「ジャージ・ジャージ・ジャージ」って書き続けないと、二人がジャージを着続けていることが失念されてしまうからだ(作者がどうでもいいとみなしているように思えてしまう)。
実際、映画に比べると、原作でのジャージの存在感は小さかった(タイトルが「ジャージ」でなくてもいいくらい)。
だから逆に、映画を先に観ると、原作を読んでいる時も、父(鮎川誠)と息子(堺雅人)はずっとジャージを着続けていた。 

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