【インフォ・飯屋】

リニューアルに伴い店名も改めました。

虹のしずく 2nd  第4話

2006-06-06 | Weblog
夜明け前から振り出した雨は、少しだけ春のにおいを含んでいた。
入学式も卒業式もこのひとつの季節の中で行われる。昔からずっとそうで、特別にその事を不思議とも思わなかったが、自分の卒業式がリアルな事として目の前にせまって、そんなことにも意味を見つけようとしている自分にふと気が付いて、アミはあわててあたりを見回した。センチメンタルな気分になっている事が恥ずかしかった。足元では、りりいが何事も気が付かないふりで、アミからもらった餌を無心に食べている。
「あんた達も、元気でね。」
人間の言葉がわかるはずはないが、タイミングよくりりいが鳴いた。
「新入生にも可愛がってもらえるといいね。たまには会いに来るから。」
頭をなでるとりりいは食べるのをやめ、気持ちよさそうに目を細めた。
まだ霧のような雨が残っていたが、傘をたたむと雲の切れ間に青空が見えた。

「おはようございます。先輩。」
アミが振り返ると和美がいた。すらりとした長身の和美に制服が窮屈そうに見えた。
「また、背伸びた?」
「ヤダ、あんまり言わないで下さいよ。気にしてるんですから。」
口ではそういっても、それほど気にしているようには聞こえなかった。
「早いじゃない。もう朝練ないんでしょ?」
「時間があると、体育館に来ちゃうんですよ、なんとなく。」
そんな和美がアミには嬉しかった。
「いいキャプテンだ。」
「そんなんじゃないですよ。何にもする事ないし、他にとりえもないし。」
雲の切れ間から朝日が射してきた。
人の気配をかぎつけてか、何処からともなく猫たちが集まってくる。
「みんないたの。ごめんね。もうご飯なくなっちゃった。」
「私も持ってきたから大丈夫です。」
和美はパンとミルクをかばんから取り出す。パンを小さくちぎって掌にのせ、一匹づつに与えていると、ふいに体育館裏を強い風が吹きぬけた。あたりの木々から和美の上に大粒のしずくが落ちてきた。
「ああ、濡れちゃった。」
アミが急いでハンカチを出して和美の肩を拭こうとすると、和美がその手を取って、
「先輩、虹。」
和美の視線の先を見ると、絵に描いたような大きな虹が架かっていた。
「すごい・・・。」
二人は言葉を失って、立ち尽くした。

「和美。もう、時間だよ。」
その声に驚いたように二人が振り向くと、真琴が体育館の脇に立っていた。
「ああ、おはよう。ね、凄い虹。みてみて。」
「うん。さっきから私も見てたんだ。」
一度目を離すと虹はさっきよりさらに大きくなったように見えた。
「同級生?」
アミは、真琴のことを知らないようだった。
「ええ、幼なじみの真琴。今はクラスも一緒なんです。」
真琴にもアミを紹介しようとすると、
「アミさんですよね。和美からいつも聞いてます。」
ぺこっと頭を下げる真琴はいつでも誰に対しても、態度が変らない。
「どうせ、悪口ばかりだと思うけど。」
「そりゃぁもう、凄いんですよ。夏の試合前なんて大変でした。先輩は鬼だ鬼だって。」
「うそ、そんな事言ってないわよ。もう、そんな事いつ言ったのよぉ。」
和美があんまり真顔になって抗議するのがおかしくて、アミも真琴も笑い出した。
「うそうそ。いつも憧れてるって、ね。」
真琴は和美の顔を覗き込んだが、思い切りそっぽを向かれた。
「冗談冗談。機嫌直してよぉ。」
二人のやり取りを笑顔で見ていたアミが虹に目をやると、虹は遠近感を失って、どんどん薄くなっていった。
アミは、その消えかかる虹の向こうをいつまでも見つめていた。
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