醤油庫日誌

やかんの映画ドラマ感想文。

鬼平犯科帳(丹波哲郎)

2017年03月27日 | 【あ行】タイトル
1975年
鬼平は丹波、萬屋、吉衛門の三バージョン観ましたが、一番好きな鬼平はこの丹波版です。
雰囲気は吉右衛門版が良く、毎回の話の当たり外れもなくていいんですが、私が丹波哲郎が好きなので。
丹波の鬼平は、池波鬼平でなく、あくまでも丹波鬼平。
丹波鬼平には「てっつぁん」の成分がほとんどない。
ぐれてた頃なんかなくて、若い時からずっと「長官」だったかのような……。
あ、丹波さんは「おかしら」でなくて「長官」な雰囲気。
火盗長官でも連合艦隊長官でも、とにかく長官成分たっぷりのお方。
「俺が来たからにはもう大丈夫」その根拠なき安心感。
部下を容赦なく叱り飛ばすのも、ンフンフ笑って後ろ手でのそのそ歩くのも、江戸であろうが満州であろうが太平洋であろうが皆一緒。
丹波さんの存在感、この大物感、ハードボイルド感、たまんないです。
何度も言いますが、「てっつぁん」成分がない、つまり、下々にぐっと砕けた物言いをすることがあまりない。
吉右衛門長官は、ここぞというときに砕けた物言いをして情に訴え、相手の心を掴みます。
丹波長官はそういう自分から心を掴みに行くような真似はせず、ひたすら威厳でもって相手を圧倒し感服させる。
ええお人や……と感動させるのでなく、すごいお方や……と降参させてしまうのです。
人情でなく、格の高さで勝負。
ウェット成分が薄く、よりハード、ともいえましょう。
原作に忠実なのは吉右衛門長官なんでしょうが、やかんは丹波さんの長官成分がたまんないです。

ジャンヌ・ダルク

2017年03月27日 | 【さ行】タイトル
1999年 フランス
イライラ、ピリピリした聖処女ジャンヌ。
半狂乱の見開いた色素の薄い瞳とわななく口元。
彼女のヒステリックな叫び声が全編を支配する。
それが意外に納得のいくジャンヌ像なのです。
たしかに信心深い内気な田舎の乙女なら、狂乱の戦場のカリスマにはなれないだろうから。
兵士の先頭に立って、旗印を掲げるジャンヌの絶叫「フォローミィィィ!」には鳥肌がたちました。
ジャンヌのヒステリックな滅茶苦茶ぶりに、歴戦の勇士たちが度肝を抜かれてオロオロします。
小娘とバカにしていた戦士たちの信頼を、ジャンヌが狂信的な蛮勇によって曲がりなりにも勝ち得ていくのです。
血なまぐさい中世の攻城戦は、怖いもの見たさを満足させてくれます。
流血というよりミンチ。
斬る刺すより、叩き潰す。
残虐さといえば、冒頭のカトリーヌの死に様もですが、虜囚となったジャンヌが看守たちにぼこぼこに蹴られ、ビシャッと飯汁を投げつけられるのが余りにも暴力的でした。
ジャンヌの顔が青あざだらけになり、手指も真っ黒に腫れあがる無残さ。
寄ってたかってのしつこい尋問に精神的にも痛めつけられ、錯乱寸前のジャンヌの苦しみに観ているこちらも息苦しくなってくる。
牢獄の独房でジャンヌが苦しみながら自問する「あれはすべて私の幻想だったのか?」
たとえ、幻想や思い込みだったとしても、ジャンヌは人にはできないことをやり遂げました。
イギリス軍を押し戻してフランスの独立を守り、裁判でも碩学の司教神父たちに立ち向かい一歩も引かなかったどころか逆にやりこめた。
間違いなくジャンヌは神がかりの乙女だったと思います。
・ヨランド・タラゴンの剃り上げた前頭部が女王蜂のようで凄味があった。
・コーミー大司教の歪んだ顔が江守徹に似ていて妙に気になった。
・カート・コバーン似のイエス様、気味悪すぎ。
・ジャンヌを守る廷臣ジャンが善良誠実でいい男なんである。
パリ大学で学んだインテリでありながら弓の名手ってどんだけ文武両道なんだ!
控えめでありながら、いつも沈着冷静にフォローしてくれる、まさに理想のパートナー。
・ジルドレもかっこいいぞ!
落ち目になったジャンヌに村に帰れと諭すジルドレの、真情に溢れた態度が泣かせる。