矢嶋武弘の部屋

日一日の命 まだ生きてま~す

老兵は消え去るのみ 人前に出るのを 恥と思え!

新・安珍と清姫(1)

2017年04月19日 16時21分17秒 | 「かぐや姫物語」、「新・安珍と清姫」

空想、夢想、幻想、妄想の物語・2013年10月19日スタート>

むかしむかし、今から1000年以上もむかしのことですが、奥州の白河という所に安珍(あんちん)という若い僧がいました。安珍は年のころ23~4歳ぐらいでしょうか、毎年、紀州の熊野権現(くまのごんげん)に山伏姿で参詣していました。そして、この年もお参りする時期がやってきたのです。
安珍にはハムレットドン・キホーテという親友がいましたが、2人とも今年はどうしても“熊野詣で”に同行したいと言ってききません。もちろん初めての同行です。彼らは出家僧ではないので、安珍は困ってしまいました。できることなら、連れて行きたくないのです。ある日のこと、出立を前にして3人は顔を合わせました。
「安珍、われわれをぜひ熊野に連れて行ってくれ。君には決して迷惑をかけないから」と、ドン・キホーテが強い口調で言いました。ハムレットも続けて懇願します。
「2人ともどうしても熊野へ行きたいのだ。僕らは在家信者だから不都合かもしれないが、参詣すること自体は悪いことではない。それに最近は、在俗の人も続々とお参りしていると聞いたよ。だから、君に同行することを認めてほしい」
2人の親友が熱心に頼むので、安珍も黙って聞かざるを得ません。それに最近はたしかに、在家の人たちも大勢 参拝するようになりました。熊野詣でが流行ってきたのですね。2人がさらに執拗に懇願するので、安珍もとうとう同行を認めてしまいました。
「分かったよ。同行は認めるが、何事も僕の言うとおりに従ってほしい。それはいいね?」
ハムレットもドン・キホーテももちろんそれに異存はありません。2人は念願の熊野詣でが認められて大喜びです。3人はすぐに旅の予定について話を進めましたが、やがてハムレットが意外なことを切り出しました。
「実は、メフィストフェレスもぜひ連れてってほしいと言うんだ。あれも友人だから、どうだろうか?」
「えっ、メフィストも・・・」 安珍は嫌な気分になりました。

 メフィストフェレスは3人共通の友人ですが、ひねくれた性格なので安珍はどうしても好きになれません。ところが、ドン・キホーテがこう言いました。
「いいじゃないか。メフィストも行きたいのなら、連れてってやればいい。仏教というのは衆生済度(しゅじょうさいど)でみんなを救うものだろう? ああいうひねくれた男を救うのも、仏教の役目さ。俺はいいと思うよ」
ドン・キホーテがそう言うので、安珍は反対しづらくなりました。メフィストフェレスには話が愉快な面もあるので、他の2人は同行に賛成のようです。結局、安珍が折れてメフィストも連れて行くことになりました。こうして4人は旅立つことになり、ある夏の日の朝、奥州の白河を立って行きました。(注⇒ 一説には、延長6年・西暦928年夏と言われている。) ただし、この熊野詣でが大変な事態になるとは露知らず・・・
ところで、安珍は今年が4回目の熊野詣ででした。いつも世話になっているお寺に泊まったり、山伏なので野宿することもありました。また、各地の国造(くにのみやつこ)など権力者の館に泊めてもらうこともあったのです。仏教がこの国に定着したため、山伏の修験道(しゅげんどう)は広く尊ばれたようですね。
このように安珍は経験があるので珍しくありませんが、ハムレットら他の3人は初めての参詣なので張り切っていました。今で言えば、テント生活などアウトドアライフに喜びを感じるようなものです。3人は一応 安珍の“弟子”という形で同行しましたが、付き人のようなものですね。夏休みの素晴らしい旅行と言ったところです。
4人の人物をもっと詳しく紹介しましょう。まず、安珍は天台宗の僧侶ですが、生まれは貧しい農家の次男坊でした。早くから寺の小僧となり仏門に入りました。そういうケースはいくらでもありますが、他の僧と違う点があるとすれば、眉目秀麗そのものでした。
はあ~? “眉目秀麗”だって? そんな言葉は今は使わないでしょう(笑)。要は稀に見る美男子、好男子、ハンサム、イケメンそのものだったのです。それが後に、かえって彼に災いするとは何が幸いなのか分かりませんね。安珍が醜男(ぶおとこ)だったら、こんな物語は成り立たないのです。

 また、彼は体の引き締まった筋肉質の男でした。修行僧とはいえ、どこから見ても惚れ惚れとするような青年ですね。次にドン・キホーテですが、性格が大らかで想像力が豊か、何事にもこせこせしない人柄でした。この4人の中では一番の“快男子”と言えるでしょう。
逆にハムレットは緻密で慎重な男でした。注意深くてやや暗いところがありますが、根は真面目で誠実な性格です。最後にメフィストフェレスですが、この男は前にも言ったようにややひねくれており、人を小馬鹿にするところがありました。しかし、陽気で気さく、話し上手な男です。
安珍以外の3人は、荘園(しょうえん)領主の富田家に仕えていましたが、その頃は荘園が日本各地にどんどん広がっていました。このため、富田家の「領主様」は3人に、他の荘園もよく観察するようにと命じていたのです。熊野詣でとはいえ、領主は本来の仕事の命令をきちんと伝えていたのですね。なお、3人は「領主様」と呼ぶのが口癖でした。
安珍らの一行はつつがなく旅を続けていました。ここでもう一人の主人公・清姫についても述べたいのですが、もう少し待って下さい。ここは安珍らの旅をいま少し追いかけたいと思います。
一行は坂東(今の関東)の地に入り順調に歩を進めました。安珍以外の3人は領主様に言われたように、他の荘園の状況をつぶさに観察したのです。農民のことはもちろん、作物や農機具、馬や牛など家畜についても詳しく調べました。帰ったら領主様に報告しなければなりません。
こうして熊野詣での前に、ハムレットらは坂東の情勢を調べたのですが、その中で気になることが一つありました。それは「坂東平氏」と呼ばれる一族が内部抗争を繰り広げているといった噂でした。なんでも平将門(たいらのまさかど)という男が一族の者と不和になり、領地争いに発展したという話です。
詳しいことは分かりませんが、相当に根深い対立のようなので、将来 大きな争乱が起きるかもしれないと地元の人たちが言っていました。ドン・キホーテやハムレットらはその話にかなり興味を寄せましたが、仏道にひたすら精進する安珍は無関心でした。

 安珍らの一行が坂東を後にし箱根を越えた頃は、夏も本格的な暑さを迎えていました。汗っかきのドン・キホーテはしょっちゅう額をぬぐい、涼しげな表情を見せる安珍に感心していました。修行のせいでしょうか、彼は暑さ寒さに強かったのです。
ハムレットは荘園の観察に最も熱心で、それは彼の几帳面な性格から言って当然でしょうが、領主の富田様から特に期待されていたのです。ある晩、ドン・キホーテとメフィストフェレスが彼を冷やかしました。
ドン・キホーテ「ハムレットはいいよな。領主様から信頼されているし、それにお嬢さんに好かれているとなれば、将来はバラ色だよ。うらやましい。ハッハッハッハッハ」
メフィスト「そうだそうだ。ハムレットは菖蒲(あやめ)さんから好かれているし、富田様も君を大事に扱っている。菖蒲さんはそう美人ではないが、気立てはとてもいいし文句はないぞ。ヒッヒッヒッヒッヒ」
菖蒲(あやめ)というのは富田様の次女で、今年17歳になります。その頃は17歳と言うと女性の適齢期で、もうボヤボヤしていられません。彼女はハムレットを慕っており、彼もまた菖蒲が好きでした。相思相愛ですね。 ハムレットは2人の冷やかしを聞き流していましたが、矛先をかわすように安珍に声をかけました。
「ねえ、安珍。君が話していた清姫という人はいま幾つだったかな?」
安珍「ああ、彼女ね。たしか十八になると思うけど・・・」
すると、今度はドン・キホーテが安珍に向かって言いました。
「なに、もう十八になるというのか。安珍、お前もそろそろ決めないといかんな」
ドン・キホーテは年は同じだというのに、安珍や同僚に対してズケズケと物を言いますね。しかし、大らかな性格なので皆の反感を買うことはないようです。
「安珍、清姫を嫁にもらうか、いっそのこと還俗(げんぞく)して婿養子に入ったらどうなんだ。その方がお前にとって幸せではないか。今度、清姫に会う時が正念場だぞ」

安珍がすぐに言い返しました。
「いや、妻帯も還俗もできない。これは珍念(ちんねん)和尚様と約束したことであり、それを破ることはできない。僕はひたすら仏道に精進しなければならないのだ」
ドン・キホーテ「ふん、そんなに言うなら勝手にしろ! それがお前にとって幸せとは思えないがな~」
ドン・キホーテはこれ以上話しても無駄だと言わんばかりに、肩をすくめ黙ってしまいました。すると、ハムレットが安珍に“助け舟”を出すかのように割って入りました。
「安珍、君が正しいと思うよ。珍念和尚様との約束を守り、仏道に励むことが君の務めだ。そのことを、今度こそ清姫にはっきりと言ったらいい」
安珍が黙ったままうなずくと、今度はメフィストフェレスが口を出してきました。
メフィスト「いや~、それは無理だと思う。たしかに仏道に励むのは良いが、こう言っては失礼だけど安珍はまだ“甘い”ところがあるよ。それに誰よりも眉目秀麗、稀に見る好男子だからな。女の子が放っておくわけがないさ。ハッハッハッハ」
これには安珍がムッときました。
「おい、メフィスト、僕を甘く見るなよ。たしかに自分は若造だが、僧としての自覚はある。だから今度清姫に会ったら、仏道に専念することをはっきりと伝えたい。そういうことで、君たちも僕を応援してもらいたい」
安珍はこのように述べましたが、ドン・キホーテら3人はもう押し黙っています。安珍のお手並み拝見といったところでしょう。実は彼は3年前、初めて清姫に会った時にその可愛さに魅了され、冗談半分に「あなたをお嫁さんにもらいたい」と漏らしていました。しかし、純真な彼女はそれを冗談ではなく、本気だと思っていたのです。
それから毎年1回 安珍は清姫に会っていましたが、彼女はその度に輝くような美しさを増していきました。

ところで、珍念和尚は安珍の師僧で、彼を子供の頃から教え導いていたため、安珍は師の一字「珍」を頂いたほどです。したがって、珍念和尚の教えに逆らうことなど思いも及びません。安珍はひたすら仏道に精進し、還俗はもちろんのこと妻帯もしない覚悟でした。
これにドン・キホーテはいつも反論していました。メフィストフェレスも同様です。2人は妻帯しても仏道に精進できるし、これからはそういう時代がくると主張しました。しかし、安珍の信念は変わらず、またハムレットもそれを支持する意見を言いました。このため、4人の議論はいつも2対2に分かれ、平行線をたどったのです。
こうして一行は尾張国を通り、順調に伊勢路へと入りました。ここまで来ると、熊野三山はもう目と鼻の先といった感じです。夏の暑さもそろそろピークに達し、汗っかきのドン・キホーテは手ぬぐいが手放せません。しょっちゅう汗をかいていました。それでも、安珍をはじめ4人は若さのせいでしょうか、少しもひるむ様子もなく元気良く旅を続けていました。きっと“熊野詣で”が励みになったのでしょう。
さて、ここでようやく、もう一人の主人公・清姫について語る時がやってきました。その頃、彼女は紀伊国の真砂(まなご)の庄司清次(きよつぐ)の館にいました。清次は清姫の父であり、彼女は一人っ子だったのです。
前にも言いましたが、清姫は18歳になりすっかり大人に成長していました。もともと色白で可愛い顔立ちをしていましたが、今や女としての美しさに輝いていたのです。彼女には一つの夢がありました。それはもうお分かりのように、稀に見る好男子、美男子の安珍と結ばれることでした。それだけが清姫の唯一の願い、夢となっていたのです。
ところで、彼女には3人の親友がいました。ヒュパティアベアトリーチェ、それに与謝野晶子(よさのあきこ)の3人です。清姫らは幼い頃から一緒に学び、一緒に遊んだ仲です。このため2年ぐらい前だったでしょうか、清姫は安珍が“思い人”であることをすでに3人に話していたのです。
ヒュパティアらは、初めは冗談だと思って聞き流していました。それはそうでしょう。安珍は1年に一回しか現われず、しかも山伏姿の修行僧でした。友人らは、清姫が本気になって安珍を慕っているとは思わなかったのです。

ここで清姫の友人3人を紹介しておきましょう。まずヒュパティアですが、彼女はこの地域では有名な書家の娘で、父親の影響もあってか幼少より学問に励んでいました。4人の中では最も聡明で知的な人と言えるでしょう。
次にベアトリーチェは、地元の有力な素封家の娘です。彼女の性格は円満で穏やか、人との争いを好みません。親が決めた許婚(いいなずけ)の所へ、近いうちに嫁いでいく予定です。逆に与謝野晶子は情熱的で、一度言い出したら梃子でも動かない一途なところがあります。つい最近、ある青年と内縁関係を結びました。
清姫はどうやら晶子に似ていますが、国造(くにのみやつこ)のお嬢さんということでなに不自由なく育ち、世間知らずの一面があったようです。全てが思い通りに行くという慢心があったようですね。
さて、安珍らの一行が伊勢路を進んでいる頃、清姫ら4人は久しぶりに会って“おしゃべり”を楽しみました。若い娘たちの集いなので、話が弾みます。ベアトリーチェの婚約と与謝野晶子の内縁話がもっぱら話題となり、ヒュパティアが晶子にいろいろ質問します。ヒュパティアから見れば、内縁関係というのは好ましくないことだったのでしょう。その点、彼女は律義で潔癖でした。
晶子は詰問されているようで嫌気が差し、話題を清姫のことに振りました。
「ところでお清、あなたの彼は・・・なんて言ったけな、え~と、そうそう安珍様、彼はいつこちらに来るの?」
「安珍様はもうすぐこちらに来ます。そして、うちの館に泊まるのです」
清姫が改まった口調で答えたので、しばらく沈黙が続きました。
晶子「そうか、今度こそ決める時だね。お清、しっかりやって!」
ヒュパティア「安珍様は修行で来られるのでしょう。修行僧だということを、あなたは肝に銘じるべきだわ」
ベアトリーチェ「お清、あなたはご両親に話をしたの? お父様、お母様の了承を得なければ駄目ですよ」
どうやら、晶子とヒュパティア、ベアトリーチェの間で対応が違うようです。

ジャンル:
小説
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