矢嶋武弘の部屋

日一日の命 まだ生きてま~す

老兵は消え去るのみ 人前に出るのを 恥と思え!

サハリン物語(1)

2017年04月08日 03時01分55秒 | 小説『サハリン物語』

<空想、夢想、幻想、妄想の物語>

この小説をリューバ・カトレンコさんに捧げる

 【主な登場人物】

<カラフト王国>
ヒゲモジャ王  ソーニャ王妃  スパシーバ王子(王室の長男。マトリョーシカの父) ナターシャ姫(王室の長女。のちにヤマト国・スサノオノミコトと結婚) オテンバ姫(スパシーバ王子の従姉妹) 
イワーノフ宰相 ジューコフ将軍 ゲジゲジサタン(重臣。裏切り者) ほか多数 

<ロマンス王国>
ツルハゲ王  カチューシャ王妃  リューバ姫(王室の長女。マトリョーシカの母) 
ラスプーチン宰相 ジェルジンスキー将軍 スウォーロフ宰相(ラスプーチンの後任) プーシキン(ラスプーチンの息子) カリンカ(リューバ姫の侍女)

<サハリン王国>(後の統一王朝) 
マトリョーシカ女王 パーヴェル宰相 アレクサンドル(マトリョーシカの夫) マリア(マトリョーシカの侍女) ベラ(マトリョーシカの友人、アレクサンドルの妹) ナディア(マトリョーシカの友人)

<ヤマト帝国>
イワレヒコノミコト(皇帝) タギシミミノミコト(イワレヒコノミコトの長男)
カワミミノミコト(イワレヒコノミコトの次男、後の皇帝) イスズヒメノミコト(皇帝の夫人) タケルノミコト(イワレヒコノミコトの三男) スサノオノミコト(タケルノミコトらの従兄弟)
フジワラノフヒト宰相  フジワラノフササキ宰相(フジワラノフヒトの次男)  マミヤリンゾウ将軍  ミヤザワケンジ将軍

<シベリア帝国>
イワン・レーニン前皇帝 スターリン皇帝(イワン・レーニンの後任) トロツキー将軍(西部軍総司令官) ピョートル(スターリンの次男) チェーホフ将軍  ガガーリン将軍  モロトフ(外務担当の重臣)

<ゲルマン帝国>
ヒトラー皇帝  リッベントロップ(外務担当の重臣)  

 

  第一部・スパシーバ王子とリューバ姫

むかしむかし、アジアの東の果てに大きな島がありました。名前をサハリンと言います。島には南北に2つの国があり、北はロマンス王国、南はカラフト王国と言いました。2つの国は仲が悪く、しょっちゅう戦争をしていました。
あんまり戦争をしていたので、両国とも疲れてしまい、ある時、ロマンス王国のツルハゲ王が、カラフト王国のヒゲモジャ王に和平を申し入れました。ヒゲモジャ王も、これ以上戦争をしていると国が破滅すると考え、息子のスパシーバ王子に和平交渉を行なうよう命じました。スパシーバ王子はまだ22歳の若さですが、賢くて行動力があったので、ヒゲモジャ王の自慢の息子でした。いずれ自分が死んでも、スパシーバに任せておけば、カラフト王国は安泰だと王様は考えていたのです。
スパシーバ王子が和平交渉の代表になったと聞いて、ツルハゲ王も最愛の娘であるリューバ姫を代表として派遣することを決めました。リューバ姫は一人っ子でしたが、こちらも王様の自慢の娘で、まだ20歳の若さでした。

両国の和平交渉は、南北のだいたい中間地点で行なわれることになり、スパシーバ王子とリューバ姫には、それぞれ何人もの家来がついて行きました。また、万が一の事態に備えて、両国の兵隊も武器を持って後方から見守ることになりました。 会談場は粗末な建物ですが、地元の中立的な立場の有力者のものだけに、安心して交渉にのぞめることができます。
始めに、会談場に入ったのはスパシーバ王子の方でした。リューバ姫の一行は、北部の豪雨の影響で少し遅れているようです。王子は手持ち無沙汰になり、家来たちと雑談を交わしていましたが、内心は重要な和平交渉だけにかなり緊張していました。しかし、その緊張ぶりを家来たちに悟られたくなかったのです。
やがて、リューバ姫の一行が到着しました。スパシーバ王子らは椅子から立ち上がり、一行を出迎えます。すると、まばゆいばかりの若い美女が王子の前に立ち現われました。それが、リューバ姫だったのです。 彼女は到着が遅れたことを深く謝り、スパシーバ王子ににっこりと微笑みかけました。その余りの美しさに、王子はただ呆然となり腰が抜けそうになりました。彼はなんとか持ちこたえましたが、それがスパシーバ王子とリューバ姫の初対面だったのです。

和平交渉が始まっても、スパシーバ王子は最初のころリューバ姫の魅力に囚われて、心が落ち着きませんでした。彼は精神的動揺を隠すのに手いっぱいという感じでした。しかし、徐々に心が落ち着き平静さを取り戻していったのです。 
会談の最大の争点は、ロマンス・カラフト両国の国境線をどこに引くかということでした。双方の押し問答が続いたものの、結局、カラフト側が特にこだわっていた北緯50度線で決着がつきました。その替わりというか、カラフト側はロマンス側により多くの賠償金を支払うことで合意に達したのです。そもそも、和平交渉を呼びかけたのはロマンス王国だったので、国境線では譲歩せざるを得なかったのでしょう。
会談は朝早くから夜遅くまで、丸3日間続きました。スパシーバ王子やリューバ姫、両国の代表団ともかなり疲れました。でも、和平交渉が落着したので、終わった時には双方とも一安心といった感じで、誰の顔にも笑みが浮かびました。最後にスパシーバ王子とリューバ姫が握手を交わしました。心にゆとりが出来たせいか、彼の方は再び彼女の華やかな微笑みに魅了されたのです。こんなに美しい姫君なら、自分はすぐにでも求愛したいと王子は思ったのでした。

両国の和平が成立すると、国境を越えての往来もかなり自由になります。人的な交流や物資の交換も盛んになるでしょう。それは両国をより繁栄させるに違いありません。王子も姫も同じようにそう思いました。
ただし、ロマンス王国は戒律が厳しい所で、他国の異性とは付き合ってはならないという掟がありました。ロマンスとは名ばかりですね(笑)。しかし、和平が成立したことで、スパシーバ王子の心には希望が芽生えたのです。 両国の代表団が別れる時、彼はリューバ姫に思わず「それでは、また」と言ってしまいました。この時代、異国の異性に対して、このような言葉をかけるのは良くないとされていました。でも、スパシーバ王子はそう言ってしまったのです。リューバ姫は怪訝(けげん)そうな顔つきをして立ち去りました。

スパシーバ王子がカラフト国の王宮に戻ると、父のヒゲモジャ王は大いに喜んで息子を出迎えました。その傍らには母のソーニャ王妃、妹のナターシャ姫もいて、満面に笑みをたたえ王子の労をねぎらいました。ロマンス国との和平交渉に成功したので、スパシーバはまるで凱旋将軍のように迎えられたのです。
ヒゲモジャ王が息子の働きに満足したのは言うまでもありませんが、特に国境を北緯50度線に決めたことを大きな成果だと褒めたたえました。これはカラフト国の思いどおりになったからです。
大役を終えてスパシーバ王子はほっと一息つきましたが、やがて心に込み上げてきたのはリューバ姫のことです。あんなに美しい人を彼は見たことがありません。若い王子は来る日も来る日も、彼女のことを想うようになりました。どうしてもリューバ姫に会いたい。そして自分の想いを伝え、彼女と結ばれたら良いな~と恋い慕うのでした。

でも、その想いを父や母に伝えても、両親は決して認めないでしょう。王子が他国の姫君と結ばれるなんて、この時代は許されないことでした。“政略結婚”という考えさえなかったのです。カラフト国の王子は、あくまでも自国の女性と結婚しなければなりません。 このため、王や王妃は年頃のスパシーバの相手として、何人もの若い女性をさり気なく王子に引き合わせていました。
その中には、遠縁にあたるオニャンコ姫、重臣の娘であるブヨブヨ嬢やモームス嬢らがいましたが、スパシーバ王子はどうしても“その気”になれませんでした。特に、オニャンコ姫は熱心に王子に近づいてきましたが、彼の方はいつも冷めた気分で、彼女をうっとうしく感じるほどでした。
和平交渉から帰ってきてもこういう状況でしたから、ある日、スパシーバ王子は妹のナターシャ姫に思い切って相談することにしました。2歳年下のナターシャとはとても仲が良く、彼女はいつも兄のことを思ってくれていたからです。スパシーバにとって、最大の味方は妹でした。ナターシャっていい名前だな~(笑)。

その日の午後、スパシーバはナターシャを自分の部屋に呼びました。彼はリューバ姫と和平交渉で会った時の話や、その後の姫への想いを包み隠さず妹に打ち明けたのです。それを黙って聞いていたナターシャは、一呼吸おくと「兄さん、あなたの想いはとても純粋で私の胸を打ちました。それで、これからどうしようというのですか」と、兄に尋ねました。
スパシーバはすぐに「リューバ姫の気持を聞いてみないと何とも言えない。僕は近いうちにロマンス国へ行き、彼女に会って自分の想いを伝えたいと思う」と述べました。 これにはナターシャも少し驚いて、「兄さん、カラフト国の王子がどうやってロマンス国に入るのですか? もしそれと分かったら、両国にとって大きな問題になるでしょう。それに、お父様やお母様がお許しになるはずがありません。お父様やお母様は、兄さんの許婚(いいなずけ)探しに一生懸命ではないですか。とても難しいと思います」と語った。

すると、スパシーバはやや声を潜めて「実は良い考えがあるんだ。このことは父上や母上には絶対に内緒にしておいてほしい」と述べ、自分の計画を正直に妹に打ち明けました。 それを聞くうちに、ナターシャは兄の熱意と真剣さに打たれ、感動さえしたのです。兄がどれほどリューバ姫のことを想い、彼女と会うためにあらゆる方策、手立てを考えていたかが分かったのです。
「ナターシャ、僕は君に全てを話した。分かってくれるね」と、スパシーバは妹に語りかけました。「兄さん、私はこれまであなたのことをいつも思ってきました。どうして、私が兄さんの計画の邪魔をするでしょうか。 それに、リューバ姫への想いが純粋で真実なことがよく分かりました。妹として、兄さんに尽くすのは当然です」 このように、ナターシャは愛する兄に自分の真心を伝えたのです。
「ありがとう、ナターシャ。僕はこれでもう勇気百倍だ。すぐに計画の実行に取りかかろう」 スパシーバは弾んだ声でそう語り、妹の手を強く握り締めました。

スパシーバ王子の計画とは次のようなものでした。カラフト国とロマンス国の和平が実現し、交易や人の往来が盛んになってきたので、この機会にロマンス国に忍び込み、偵察する許可を父のヒゲモジャ王から得るというものでした。 そのためには、商人に“変装”することが最も便利で、スパシーバは家来を通じてその手立てをすでに講じていました。もちろん、最大の目的はリューバ姫に会うことですが、これは絶対に秘密にしておくのです。
ナターシャと話した翌日、スパシーバ王子はヒゲモジャ王に自分の計画を打ち明け熱心に説明しました。すると、王は暫く考えたあと、スパシーバに許可を与え次のように述べました。「王子よ、お前は和平交渉でもよく頑張った。この機会にロマンス国を偵察するのは良いことだ。将来のために、大いに参考になるだろう。言うまでもないが、身分がばれないように」 ヒゲモジャ王もロマンス国の内情をとても知りたがっていたのです。国王としてそれは当然でしょう。

王の許可を得て、スパシーバはただちに出発の準備に取りかかりました。家来2人と商人5人、それに自分も含めて総勢8人のキャラバン(隊商)が編制されました。そして、一行が首都・トヨハラを出発したのは、あの和平交渉から半年あまり経った頃です。 スパシーバも家来たちもすっかり商人の身なりに変装したので、見送るナターシャは思わず笑いが込み上げました。王や王妃も息子を激励しましたが、やはりおかしかったのか笑みがこぼれました。しかし、後でこの知らせを聞いたオニャンコ姫やモームス嬢らは、王子に想いを寄せていたので、がっかりしたということです。スパシーバの帰国予定は全く分かりませんから。
当時のロマンス国の首都はノグリキと言いましたが、トヨハラから何百キロも北方にあり、馬などに乗って行くにしても大変な道のりだったのです。でも、一行は元気良くトヨハラを出発しました。
季節がちょうど夏を迎える頃だったので、いたる所でハマナスの花が咲き始め、サハリン島の美しい山並みが8人の心を慰めました。スパシーバ王子は故郷の景色に感謝するとともに、リューバ姫への想いを募らせるのでした。

スパシーバ王子らの一行は、およそ3週間ほどで北緯50度線の国境に達しました。カラフト・ロマンス両国の関係が正常化したため、国境の検問は思ったほど厳しくありませんでした。積荷の検査なども簡単で、一行は楽々と国境を越えたのです。積荷の検査といっても、カラフト国の特産品や衣類、食料などがほとんどでしたから何の問題もありません。通行料もわずかなものでした。
いよいよロマンス国に入りましたが、首都ノグリキに向かう道はわりと平坦で人通りも少なく、カラフト国内より道のりは楽でした。 一行はオホーツク海の潮風を受けながら、黙々と歩を進めます。そして、10日余りたってノグリキに到着しました。この後、スパシーバらはすぐに役所に出向き、交易の条件などについて話し合いました。
その頃、ロマンス国の行政は、宰相のラスプーチンが一手に握っていました。今の時代と違って行政そのものも単純簡潔でしたから、ラスプーチンが全てを把握し支配していたのです。彼はツルハゲ王の信任も厚く、また能力も優れていたので、独裁的な力を発揮していました。

スパシーバはすぐにそれを知り、数日後、ラスプーチンに謁見を申し入れました。彼の方もカラフト国の隊商と会うのは、やぶさかではありません。必ず“利益”の出る話だからです。謁見は簡単に認められ、スパシーバら3人がラスプーチンの館を訪れました。
一目見て、ラスプーチンは才気あふれる男だなとスパシーバは思いました。彼はカラフト国との交流を強く望んでおり、そのためには出来るだけのことをしようと言いました。 スパシーバがロマンス国の王室に特産品などを献上したいと申し入れると、ラスプーチンはこころよくそれを了承し、近いうちに王室に案内すると約束しました。
ロマンス国の実力者との話が順調にいったので、スパシーバらは御礼に高級な衣類、特産品、そして幾らかの“礼金”を贈りました。ラスプーチンはそれらを気持よく受け取り、最後に「それでは、王室への案内を待っていてほしい」と述べ、席を立ちました。
スパシーバはラスプーチンの能力や権勢はよく分かりましたが、どこか油断のできない人物、野心家のように思えました。 しかし、後日、この男が大動乱の“元凶”になろうとは、さすがにその時は思いも及びませんでした。

ラスプーチンと会ってから2日後、彼の使者がスパシーバ王子の所に来て、明日午後 王宮に参上してほしいと伝えました。使者の話では、王室関係者の中にリューバ姫も含まれているとのことです。これを聞いて、スパシーバは急に胸が高鳴りました。 あの和平交渉から半年以上がたちましたが、彼は一時もリューバ姫のことを忘れられなかったのです。ようやく彼女に会えると思うと、その晩 スパシーバは期待に胸がふくらんで、ゆっくりと眠ることができませんでした。
翌日午後、スパシーバらの一行は王宮に参上しました。その王宮はカラフト国のものより質素な感じですが、落ち着いた雰囲気をかもし出していました。控え室で待っていると、やがて係りの者が入ってきて、「どうぞ、こちらへお越しください」と丁寧に案内してくれたのです。
スパシーバらが奥の一室に案内されると、そこにはリューバ姫と何人かの家来が待ち受けていました。彼女は半年前よりも、さらに美しくなったようにスパシーバは感じました。 和平交渉を成功させたからか、王宮では交易や商談の話はリューバ姫が担当しているようで、彼女はいたって落ち着いた様子で一行の話を聞いてくれたのです。でも、スパシーバ王子が商人に変装していることは、さすがに彼女もまだ見抜けません。そんなことは予想もできないからね!(笑)。

交易や商談の具体的な話は、ラスプーチン宰相との間ですでに合意されていたので、今回の王宮訪問は一種の“表敬”のようなものです。スパシーバらはカラフト国の特産品や高級な衣類などを、リューバ姫らに献上しました。
頃合を見はからって、スパシーバはリューバ姫にこのように言いました。「王女様、どうしてもあなた様にお渡ししたい物と話がありますので、お人払いをお願いできますか」 姫は別に気にもかけず、家来たちを退席させました。また、スパシーバの随員らも席を外したのです。
二人だけになると、スパシーバはカラフト国特産の最高級の着物をリューバ姫に献上し、それから、頭や顔などに施した商人風の服装を全てはぎ取りました。彼はにっこり笑うと、姫に「私です。覚えておいでですか」と語りかけました。 その時のリューバ姫の驚きといったら、形容できないほどのものでした。彼女は一瞬青ざめ、席から立ち上がったのです。

現在のユジノサハリンスク(豊原)

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小説
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