矢嶋武弘の部屋

日一日の命 日々新たなり
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サハリン物語(5)

2017年10月31日 03時37分08秒 | 小説『サハリン物語』

その間、ソーニャ王妃やリューバ姫を乗せた馬車が全速力で発進しました。それを見たプーシキンの部下が追いかけようとしますが、オテンバ姫らが行く手を阻んで剣を振り回します。怒ったプーシキンは彼女らを排除しようと襲いかかりました。激しい戦闘が繰り返される中、馬車はどんどん遠ざかっていったのです。
男勝りのオテンバ姫らはよく戦いましたが、さすがに強力な敵勢にはかないません。やがて、オテンバ姫もジャジャウマ嬢も切り伏せられました。馬車を取り逃がしたプーシキンらは、怒りの余り彼女らに“止め”を刺しました。オテンバ姫もジャジャウマ嬢もまだ20歳の若さでしたが、勇敢な彼女らのお陰で、ソーニャ王妃らは救われたのです。 余談ですが、後でこの悲報を聞いたスパシーバ王子は、従姉妹のオテンバ姫を想って号泣しました。彼女を初めて戦場に連れて行ったのは王子だし、彼を兄のように慕っていたオテンバ姫でした。スパシーバはこの仇を必ず討つと心に誓ったのです。

さて、トヨハラの攻防戦ですが、連合軍のガガーリン将軍は王宮の“焼き討ち”を決断しました。彼は火矢と松明(たいまつ)を大量に用意し、夜戦でカラフト軍を壊滅させようと考えたのです。スターリン総司令官との約束で、3日以内に王宮を陥落させなければなりません。そして、3日目の夜、ガガーリンは総攻撃を命じました。
連合軍の大部隊が一斉にカラフト軍に襲いかかります。火矢が雨あられと王宮に降り注ぎ、由緒ある建物は炎に包まれました。必死に消火作業をしても、火を消し止めることはとても無理でした。やがて王宮は火炎地獄の中に消滅していったのです。
この模様を見ていたヒゲモジャ王は全員に撤退を命じました。余計な抵抗をしても、いたずらに犠牲者を増やすだけです。もはや勝敗は明らかでした。カラフト軍は撤退を始め、ヒゲモジャ王らも王宮の裏手から馬車で逃走します。行く先は、王妃らが避難したオオドマリ(大泊)しかありません。こうして、カラフト軍は首都・トヨハラを放棄し、一路 オオドマリへ向かったのでした。

オオドマリはサハリン島の最南端にある港町です。アニワ湾に面していて、ここから先は宗谷海峡になり、さらにその先はヤマト帝国の北海道になります。つまり、カラフト軍は最南端に追いつめられ、まさに“背水の陣”を敷くことになりました。ここで負ければカラフト王国は消滅し、敵に殺されるか、あるいはヤマト帝国に“亡命”するしかないでしょう。絶体絶命のピンチに立たされたのです。
やがて、ロマンス・シベリア連合軍の大部隊がオオドマリ付近にやって来ました。スターリン総司令官は近郊を視察し、これなら勝てると自信を深めたのです。 彼は領土的野心の強い人だったので、カラフト国を滅ぼした後は北海道まで兵を進めることを考えていました。まことに恐るべき将軍だったのです。
その頃、ヤマト帝国では、カラフト国を救援する態勢がようやく整いました。タケルノミコト大将軍が号令を発し、3つの船団を組織したのです。第1船団はタケルノミコト自身が指揮し、第2船団はスサノオノミコト副将軍が司令官に、そして第3船団は部将のマミヤリンゾウが指揮官に抜擢されました。マミヤリンゾウ指揮官は何回もサハリン島に行ったことがあり、その地のことを実に詳しく知っていました。そこで、彼は船団の指揮官に抜擢されたのです。

まず、第2船団が出発しました。しかし、この時代は通信手段が発達していないので、カラフト国がどれほど危機に瀕していたかはスサノオノミコトも知りません。ただ、急いで行こうということでした。唯一の有効な通信手段は「伝書鳩」です。 ハトは1000キロ先からでも巣に戻ってきますので、5000年以上も昔から通信手段に使われていました。スサノオノミコトは沢山のハトを用意し、寄港先から随時、タケルノミコト大将軍に伝書鳩を飛ばしました。こうして、本拠地のヤマトと連絡を取りながら、第2船団はようやく北海道の稚内に到着したのです。1カ月以上もかかりました。カラフト国とはもう目と鼻の先です。
その頃、オオドマリのカラフト軍陣地に対して、連合軍の猛攻がすでに始まっていました。今度はガガーリン将軍に代わって、チェーホフ将軍が総指揮を執っていたのです。また、チェーホフの配下にあのプーシキンが入りました。彼はつい先だって、隠れ家からリューバ姫を取り逃がした失敗を痛感していました。父のラスプーチン宰相からも厳しく叱責されたのです。このため、プーシキンは余計に闘志をみなぎらせ、何としても戦功をあげようと燃えていました。そして、今度こそリューバ姫を取り返そうと決意を固めていたのです。

参照・アニワ湾⇒ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E5%BA%AD%E6%B9%BE

 そのリューバ姫ですが、そろそろ臨月が近づいてきました。侍女のカリンカが何かと面倒を見ていましたが、カラフト王国の行く末がいかにも心配だという様子です。スパシーバ王子も父親になるので喜びはひとしおですが、姫の初産が気になる毎日でした。彼は姫に余計な心配をかけまいと、戦争の話はつとめて控えていました。戦況が悪化しているのは誰の目にも明らかでしたから。
しかし、そこへヤマト帝国の援軍がついに来たという朗報が届きました。待ちに待った朗報です。カラフト軍の陣営は喜びに湧きかえりました。ようやくヤマト軍が現われたのです。 オオドマリ港に着いたスサノオノミコトの軍勢は、ヒゲモジャ王を始め、イワーノフ宰相らカラフト国の人たちの熱烈な歓迎を受けました。ヤマト軍の先遣部隊は3000人近くいました。これだけでも、全カラフト軍に匹敵する兵力です。ロマンス・シベリア連合軍に対して、ついにカラフト・ヤマト連合軍が形成されることになりました。 
そうは言っても、敵の勢力の方がまだ相当に優位であることには変わりありません。スサノオノミコトとカラフト軍のジューコフ将軍らが、さっそく作戦会議を開きました。そして、当面は防御をいっそう固め、ヤマト軍の第2陣、第3陣の援軍を待つ方針を決めたのです。

大将軍のタケルノミコトはスサノオノミコトからの伝書鳩で、カラフト軍がオオドマリ一帯に封鎖されていることを知りました。彼は遠征の途上でいろいろ考えました。 このまま全軍をオオドマリに送っても、敵の封鎖を突破できるのだろうか。敵は2万人以上の兵力で、オオドマリをがっちりと包囲しているではないか。 となると、1万人以上のヤマト軍の兵力をそこに集結させても、包囲網を突破するのは容易なことではない。何とかならないか・・・
タケルノミコトは必死に考えました。こうなると、むしろ敵の“背後”から攻撃する手立てはないものか。もしそれが可能なら、敵の勢力を南北に分断することができる・・・ そして、彼は奇想天外な戦法を思いつくのですが、それはまた後で話しましょう。
さて、オオドマリの戦いですが、ヤマトの援軍が来たことを知って、スターリン総司令官の闘志は逆に燃え上がりました。こうなったら、カラフト・ヤマト両軍を一挙に壊滅させ、その勢いで北海道へも進撃しようと考えたのです。まことに恐るべき総司令官でした。

 さて、カラフト・ヤマト連合軍ですが、スサノオノミコトが総指揮を執ることになったものの、彼は実戦の指揮官に部将のミヤザワケンジを抜擢しました。ミヤザワケンジ指揮官は以前 カラフト国に来たことがあり、この地のことをよく知っていたのです。
スパシーバ王子は組織上、ミヤザワケンジ指揮官の配下に入り戦場に出ることになりました。ある日のこと、彼が一隊を率いて出撃すると、向こうから敵の小部隊が現われました。よく見ると、先頭の指揮官はあのプーシキンではないですか! スパシーバは燃えました。男勝りながら可愛いかった従姉妹のオテンバ姫が、あの男に殺されたのです。わずか20歳の若さであの世に行った彼女の仇を、なんとしても討たねばなりません。
スパシーバはもう他の事は何も考えず、まっすぐにプーシキンに向かっていきました。彼の方もすぐにスパシーバに気がつき、2人は激しく剣を交わしたのです。プーシキンもリューバ姫を取り逃がしたことなどで、積年の恨みを晴らそうとします。2人は一度戦ったことがありますが、あの時は、スパシーバが右肩の負傷の影響で不利な状況でした。 しかし、今は違います。傷が癒えたスパシーバは渾身の力を込めて剣を振り下ろしました。プーシキンの剣がガクッと垂れると、切っ先が彼の腕に刺さりました。手応え十分! スパシーバは勢いを得てさらに剣を振り下ろします。プーシキンは完全に防戦に立たされ、思うように剣が振れません。 スパシーバは討ち取れると思いましたが、その時、敵の兵士が彼に襲いかかってきました。その間隙をぬって、プーシキンは馬を走らせ逃げます。 「プーシキン! 戻ってこい!」 スパシーバが叫びますが、彼の方は何も答えず逃走しました。もう少しであの男を討ち取ったのに・・・ スパシーバは残念でなりませんでしたが、両者の対決は次に持ち越されたのです。

戦いが続く中で、リューバ姫がついに陣痛を起こしました。なにせカラフト軍の陣営内なので、ある隅の場所に垂れ幕を下ろし、その中に産婆や侍女のカリンカら女性が入りました。男性は入室禁止です。スパシーバ王子は幕の外で待機しました。リューバ姫の呻き声が続きます。それがだんだん高まったと思うと・・・やがて、元気の良い産声が聞こえました。無事、出産です。王子は我慢できず垂れ幕の中に入ってしまいました。いけないな~(笑)。 玉のように可愛い女の子です。王子はすぐにその赤ちゃんに「マトリョーシカ」と名付けました。こうして、後の女王・マトリョーシカが誕生したのです。

 タケルノミコト大将軍とマミヤリンゾウ指揮官の大船団が、とうとうオオドマリに到着しました。これでヤマト帝国の軍団は全て勢ぞろいしたのです。遠征の途上でタケルノミコトは、このままではオオドマリの敵の包囲網を突破するのは難しいと考えていました。たとえ突破できても、味方にも大きな損害が出るのは目に見えています。それならどうするのかと、彼はいろいろ考えてきたのです。
到着後、タケルノミコトはヒゲモジャ王を始め、カラフト・ヤマト両国の要人や軍幹部を集め作戦会議を開きました。この席でタケルノミコトは次のように述べたのです。 要約すると「戦局を有利に導くには、今のままの包囲網突破にこだわっていたら無理である。敵の方が兵力は上である。カラフトの東海岸でも西海岸でも良いから、どこかへ上陸作戦を敢行し、敵の補給路を断ち切ったうえ、南北から敵を挟み撃ちにすれば、必ず勝機は見出せる」というものでした。
斬新な作戦計画に、集まった人たちは驚きました。確かにこのままでは、優勢な敵に対して勝つ見込みはほとんどないのです。それどころか、このままではカラフト国は“ジリ貧”になり、ゲジゲジサタンのような裏切り者がどんどん出てくるでしょう。そうなれば国は滅亡するだけです。今や、起死回生の策が必要になっているのです。

 大方の人はそう思っていても、タケルノミコトの作戦計画をどのように実行するかとなると、いろいろな不安や疑問などが湧いてきて、なかなか議論が進みません。業を煮やした彼は、ヒゲモジャ王以外の文官を全て退去させ、武官・軍人だけで会議を続けることにしました。その裏には、文官の中にゲジゲジサタンのような“裏切り者”が潜んでいることを恐れたのです。つまり、敵に内通されるのを最も恐れたのです。
武官・軍人だけの会議になって、ようやく具体的な議論に入ることができました。どこに上陸作戦を敢行するかが最大の焦点です。幾つかの候補地が挙がりましたが、結論が出ません。 すると、それまで黙っていたヒゲモジャ王が次のように述べました。「私は西海岸のマオカが良いと思う。あそこは霧がよく発生するし、位置から見て敵の補給路を遮断するには最適ではないか」
王の発言に、カラフト側の人たちはみな納得したようです。しかし、ヤマト側はマオカのことをよく知りません。ただ、マミヤリンゾウ指揮官だけがその地形などをよく知っていました。マオカとはヤマト語で「真岡」と言いますが、カラフト南方の西海岸にある港町でした。

 こうして見ると、海から上陸して敵の補給路を断ち切るというタケルノミコトの戦略は、正しかったと言えます。しかし、それ以外の有効な手段はなかったとも言えるでしょう。それほど、カラフト・ヤマト連合軍は敵に追い込まれていたのです。
タケルノミコトの武装船団はまず、できるだけ遠くへと出航しました。これは、すぐに西方へ向かえば敵に感づかれる恐れがあったからです。ロマンス・シベリア連合軍も、敵がどこかの海岸から攻めてくる可能性はあると見ていました。しかし、それがどこかは全く予測がつきません。東西の海岸線は長く、あらゆる場所に兵員を配置するのは物理的にもちろん無理です。せめて、東海岸か西海岸か分かれば良いのですが、それを知ったとしても戦線が延び切っているため対応は難しかったでしょう。
こういう事情もあって、スターリン総司令官はチェーホフ将軍に総攻撃を命じました。一日も早くオオドマリを落とさなければなりません。チェーホフは全軍を集め、決定的な戦いを仕掛けることを決めました。それは“夜襲”です。このため、大量の火矢や毒矢が用意されました。戦術は大兵力を一点に集中し、敵陣を突破すること。一点突破の全面展開です。さらに、何週間も前から掘っていた秘密地下トンネルが開通する目処が立ち、そこから奇襲部隊を敵陣内に投入することなど、最終決戦の段取りが決まりました。

その頃、タケルノミコトが率いる武装船団は、ようやくマオカ海岸に近づいていました。すぐにも上陸したいところですが、万が一、敵が待ち伏せしているようなことがあれば、大きな損害を受ける可能性もあります。タケルノミコトがマミヤリンゾウ指揮官らと相談すると、「満潮で霧が立ち込めている時」が最適だというのです。気象条件がそうなれば言うことはありませんが、そう上手くいくことは滅多にありません。こちらも一日も早く上陸したいのですが、暫く様子を見ることにしました。
やがて満潮時ではないものの、霧が深く立ち込めてきました。マオカは霧の発生が多いんですね。ヒゲモジャ王が言うとおりでした。満潮と霧が重なる最適の条件ではないものの、タケルノミコトはもう待っていられません。彼は全船団に対して、マオカ上陸作戦の決行を命令しました。

 マオカは当時から要衝の港町だったので、数十人ほどの守備隊が常駐していました。しかし、濃い霧の中から無数の船団が現われると彼らは仰天し、信じられない思いでした。それでも初めは弓矢を構え、上陸した敵兵に矢を射かけましたが、やがて一目散に逃げるしかなかったのです。タケルノミコトの上陸作戦は難なく成功し、カラフト・ヤマト連合軍の大部隊は喚声を上げながら陸地の奥へと進撃していきました。周りにいるカラフト人たちは、やんやの声援を送りながら連合軍を見送ったのです。これで、カラフト国は救われるだろうと彼らも思ったのでした。

 さて、オオドマリ攻防戦ですが、チェーホフ将軍はある晩を期して“夜襲”を決行することになりました。前にも言った兵力を一点に集中し、敵陣を突破するというものです。秘密地下トンネルが完成し、そこから奇襲部隊が突入することも可能になりました。 
一方、カラフト・ヤマト陣営も総攻撃があることを予測し、対策をいろいろ練っていました。これはずっと防御戦を強いられていたので、当然と言えば当然でしょう。敵がある箇所に兵力を集中してくることも予想していました。また、夜襲も当然だと思っていました。
一種の「籠城戦」だったので、こういう場合は、攻める方が守備側より相当に大勢の兵力を擁していないと、なかなか成功しません。最も怖いのは火をかけられることですが、これも当然予想して消火に全力を挙げる態勢を整えていました。“消火隊”には非戦闘員である婦女子も加わっていたのです。そういう意味で、ほぼ万全の防衛態勢を組んでいたと言えるでしょう。 ヤマト軍の協力が最も大きな要因ですが、陣営としては、タケルノミコトの上陸作戦が必ず成功し、やがて敵の背後を襲撃すると信じていました。それまでは、何がなんでも持ち堪えようということです。

 いよいよ、ロマンス・シベリア連合軍の総攻撃が始まりました。闇の中を火矢が雨あられと飛んできます。あちこちから火の手が上がりました。守備側はナターシャ姫やカリンカらも消火作業に加わり、まさに“総力戦”といった感じです。 やがて、敵の大部隊がある陣地へ向けて集中攻撃を開始しました。これは十分に予想されていたので、守備側も兵力をそちらに集中します。暗闇の中で敵味方が入り乱れる激しい戦闘が続きました。 その時、カラフト軍のジューコフ将軍が率いる別働隊が、敵の“側面”を急襲しようと突撃しました。将軍自らの陣頭指揮で、カラフト軍の士気は高まっていました。その中にはスパシーバ王子も加わっていたのです。

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