矢嶋武弘の部屋

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血にまみれたハンガリー(11)

2017年05月18日 04時26分14秒 | 戯曲・『血にまみれたハンガリー』

第四場(ブダペストのペスト地区の街路。 小銃などを手にした市民や学生が、右往左往している。 ソ連軍戦車が行き来する音。時々、機関銃の発射音が聞こえる)

市民一 「おい、みんな、戦車がこっちの方へ来るぞ! 建物の陰に隠れろ!」(市民達、建物の陰に集まる。 その場に、機関銃を持ったソ連兵が10人ほど登場)

ソ連兵一 「無駄な抵抗は止めろ!」

ソ連兵二 「この一画は、すでにソ連軍の戦車に包囲されているのだ! 武器を捨てて、大人しく出てこい!」

ソ連兵三 「もし降伏しないなら、お前達を“反革命分子”と見なして、全員射殺するぞ!」

市民二 「うるさい! お前達“侵略者”は、とっとと立ち去れ!」

市民三 「お前達は、誰に発砲しようというのだ!」

ソ連兵四 「貴様達は“ファシスト”か。 ファシストなら容赦しないぞ!」

市民四 「なんだと、われわれはハンガリー革命に命をかけるブダペスト市民だ!」

ソ連兵五 「ウソつけっ! 貴様達は反動分子、反革命のファシストだ! われわれは、“ベルリン”に巣食うファシストどもを討てという命令を受けて、ここにやって来たんだ! さあ、とっとと降伏しろ!」

市民五 「なんだと、ここをどこだと思っているんだ! ここはベルリンではなく、ブダペストだぞ! お前達“露助”は、字が読めないのか。その街路の文字を読んでみろ!」

ソ連兵一 「何を下らんことを言っているんだ。 わがソ連軍は、ベルリンに残っているファシストどもを掃討するために来たのだ! さあ、早く銃を捨てて降伏しろ!」

市民一 「馬鹿なことを言うな! お前達は、本当にベルリンに来たとでも思っているのか! 阿呆! バカッ! 間抜け! ここは、ハンガリーの首都・ブダペストだぞ! われわれは、正真正銘のブダペスト市民だ!」

ソ連兵二 「“たわけた”ことを言うな! われわれの指揮官が、ナチスの残党・ファシストを討てと命令したのだ! つべこべ言わずに降伏しろっ! さもないと、全員射殺するぞ!」

ソ連兵三 「戦車も砲撃の準備を完了した。 さあ、ファシストども、武器を捨てて大人しく出てこい!」

市民二 「おい、みんな、こいつらは、本当にわれわれをファシストだと思っているぞ。 なんて馬鹿げた話しだ! ブダペストもベルリンも分からん“低能”な露助の兵隊に、われわれが降伏するとでも言うのか!」

市民三 「この馬鹿なソ連兵こそ、ハンガリーを踏みにじる侵略者ではないか! われわれは断固として戦うぞ!」

市民四 「そうだ! 侵略者を撃退しろ!」

市民五 「われわれが侵略者と戦っているうちに、西側諸国やアメリカの軍隊が、助けに来てくれるはずだ。 さあ、みんな、もう一息の辛抱だ! 悪魔のようなロシアの侵略者を撃退しよう!」

市民一 「自由か、しからずんば死か! ハンガリー革命万歳!! 侵略者を撃て! 撃てっ! 撃てーっ!!」(市民達、小銃を一斉に発砲する。 ソ連兵数人が倒れる)

ソ連兵一 「敵が撃ってきたぞっ! ファシストどもを撃てーっ!!」(ソ連兵達も、機関銃を一斉に発砲する。市民達数人がバタバタと倒れる。 戦車が砲撃する音。建物が倒壊する音。 罵声、叫喚、悲鳴、呻き声などが入り交じり、舞台が暗転)

 

第五場(ブダペスト工科大学の構内。 メレー、ペジャ、他に武器を持った学生達10人ほど)

学生の代表 「畜生、カダルやアプロ達が裏切ったのは間違いないようだ。 あいつらは、ソ連軍に守られながら、ブダペストに入ってくるつもりらしい。 ナジ総理や他の閣僚は、ユーゴスラビア大使館から一歩も外に出られない状態だという。

 市民や労働者達は市内にバリケードを築いて、ソ連軍に抵抗しているが、なにしろ敵は大部隊だし、戦車も物凄い数に上っているようだ。 ハンガリーの国防軍も、各地で手痛い打撃をこうむっているというし、もはや、われわれの抵抗もこれまでかもしれない。

 学友諸君、われわれが工科大学を死守することも、極めて困難になってきたと言ってよい。 あくまでも大学に残って戦うも良し、また大学を離れてゲリラ戦に加わるのも良し、これからの行動は、諸君の自由な判断で決めてほしいと思うのだが・・・」

学生一 「君の心遣いは有難いが、僕らはハンガリーの自由と独立を、最高の理想としてこれまで戦ってきた。 すでに、多くのブダペスト市民が、ソ連軍の爆撃や砲撃によって、尊い命を失っている。僕らもハンガリーの自由と独立のためには、命を惜しむものではない。

 最後の最後までここに踏み止まり、露助の侵略軍と戦うべきではないのか。 たとえ、敗れて死のうとも、最後まで戦えば、理想に殉じた僕らの遺志は、末永く国民の心の中に生き続けるはずだ。 今こそ、自由のために、屈することなく戦おうではないか」

学生二 「同感だ。 ナジ政府が国民に対して、それぞれの部署を守って戦えと呼びかけた。われわれは、正統なハンガリー政府の呼びかけに従い、あくまでも侵略軍と戦うべきだ。 すでに負傷した学友は、安全な所で手当てを受けるのは良いとして、五体満足なわれわれは最後まで戦うべきだ。 まだ、銃や弾はいくらでもある。ハンガリー学生の意地を、露助どもに見せてやろう!」

学生三 「そうだ! 俺の叔父さんも市街戦で死んだ。一人でも多くの露助を撃たなければ、俺の気持は治まらん。 銃や手投げ弾が残っている限り、絶対に戦うぞ!」

学生四 「僕の従兄も、ソ連軍戦車の砲撃で重傷を負った。 戦えるだけ戦って敵を苦しめなければ、僕らは死んだ人やケガをした人達に、どうして顔向けが出来るだろう。 刀折れ矢尽きるまで、頑張るべきだ」

学生の代表 「ありがとう。 諸君の愛国の真情、自由への熱愛、露助どもへの敵愾心は、痛いほどよく分かった。私も勿論、ここに残って戦う。 しかし、われわれはまだ若く、前途に大きな希望を持って生きていく権利はある。

 また、諸君にもいろいろな事情があると思うので、全ての学友に対し、ここに残って戦ってほしいと、決して無理強いをするものではない。 あくまでも、われわれ一人一人の自由な意思で決めてもらおう。私が言いたいのはそれだけだ」

学生五 「分かった。僕も自分の自由意思で戦う」

学生六 「心配無用だ。 ハンガリーが自由を失えば、僕らも自由を失う。だから、侵略者に対して自由を守るために戦うのだ」

学生七 「愛国詩人・ペテフィらが立ち上がったように、今こそわれわれも戦いに立ち上がろう!」

メレー 「奴隷のようにソ連の圧制に屈して息絶えるか、自由な空気を胸一杯吸って生き延びるか、道は二つに一つだ。 この工科大学こそ、自由の砦と思って戦うぞ!」(そこに、物見の学生八が走ってくる)

学生八 「おい、またソ連軍戦車がこちらに向って進んでくるぞ!」

学生の代表 「よし、それでは皆、配置に付いてくれ。 遊撃隊はできるだけ戦車を引き付けておいて、手投げ弾で爆破してほしい。あとの者は、銃で露助の兵隊を片っ端から撃ってくれ」

学生達 「よーし、行くぞーっ!」「戦闘配置に付けーっ!」「露助を一人残らずぶっ殺せーっ!」「徹底的に戦うぞーっ!」(学生達、一斉に立ち上がって退場。 遠くから、戦車の近づく音や砲声が聞こえてくる)

 

第六場(ウィラキ家の応接間。 アニコーとノーラが話し合っている)

アニコー 「殷々と砲声がこだまする度に、胸が張り裂けそうな気持になるわ。 ソ連軍が、ブダペスト市内をほとんど制圧したようね。この先、一体どうなるのでしょう」

ノーラ 「さあ・・・ソルノクに出来たカダル政権が、ブダペストにやって来るのかしら。それとも、ソ連が占領統治を行なうのかしら。 私が心配なのは、オルダスやフェレンツが、無事でいてくれるかどうかということばかり。昨夜(ゆうべ)も心配で、ほとんど眠れなかったわ。 なんとか元気でいてくれるといいのに」

アニコー 「そうね、御無事を神様にお祈りするしかありません。 純真なあの人達に、もしものことがあったら、本当に何と言ったらよいか・・・一緒に神様にお祈りしましょう」(アニコーとノーラが膝をつき、胸に十字を切って祈りを捧げる。 暫くの間)

ノーラ 「お母さん、私、どうしても心配です。 これから、工科大学へ行ってみます」

アニコー 「駄目よ、それは。流れ弾にでも当たったらどうなるの。 あなたにもしものことがあったら、それこそ私はどうすればいいの」

ノーラ 「でも、オルダスからは、もう三日も連絡がないんですもの。 私、居ても立ってもいられないわ」

アニコー 「ねえ、ノーラ、工科大学に行くのだけはよして頂戴。 あなたが行っても行かなくても、神様の御加護で、オルダスさん達はきっと無事であると信じるしかないでしょう。 そう思うしか、今の私達には何もできないじゃありませんか」

ノーラ 「でも・・・お母さんが、どうしても駄目だと言うのなら仕方ないけど、私、どうしてよいのか分からなくなるのです」 (その時、ドアを激しくノックする音)

アニコー 「どなたです?」

フェレンツの声 「僕です、ペジャ・フェレンツです。 開けて下さい!」

ノーラ 「まあ、フェレンツ、いま開けるわ。(ノーラが急いでドアの所に行き、開ける。 左腕に包帯を巻いたペジャが、胸に大きな包帯を巻いた血だらけのメレーを、右腕で抱きかかえながら部屋に転げ込んでくる) オルダス! どうしたの!」

ペジャ 「ソ連軍の銃撃に遭って、オルダスは瀕死の重傷なんだ!」

ノーラ 「ああ・・・オルダス! オルダス!」(ノーラ、ペジャと一緒にメレーを抱きかかえ、長椅子の所まで連れて行き、そこにメレーを寝かせる)

アニコー 「オルダスさん、しっかりして。大丈夫ですか」

メレー 「(呻き声で)やられました・・・」

ノーラ 「オルダス・・・」(ノーラ、長椅子に寄り掛かるようにして泣き崩れる)

ペジャ 「このままでは、オルダスは死んでしまう。 ノーラ、お願いだ、早くこの近くのお医者さんを呼んできてくれ」

ノーラ 「(涙をふきながら)こんな大怪我で・・・オルダス、しっかりして。 私、ノーラよ、分かる?」

メレー 「(ノーラの手を握りながら) ノーラ・・・」

ノーラ 「ああ、オルダス!」(ノーラがまた泣き崩れる)

アニコー 「ひどい怪我、ノーラ、泣いている場合じゃないわ。 さあ、早くデアーグ先生を呼んできなさい」

ノーラ 「ええ、すぐにデアーグ先生を呼んできます」(ノーラ、立ち上がると大急ぎでドアから出ていく)

アニコー 「胸を撃たれたのね」

ペジャ 「ええ、つい先ほど、銃撃戦の最中にやられたんです」

アニコー 「本当に・・・なんということでしょう。 あなたも腕を撃たれたのですか」

ペジャ 「僕のは軽い怪我です。 それより、オルダスは大丈夫だろうか・・・オルダス、ここまで来ればもう安心だ。 今すぐにお医者さんが来るから、しっかりしろよ」

メレー 「僕はもう駄目だ・・・しかし、僕はハンガリーのために戦ったんだ・・・ハンガリーに自由を・・・」

ペジャ 「オルダス、大したことはないぞ。気を強く持て!」

メレー 「ノーラを・・・ノーラをよろしく・・・」

アニコー 「オルダスさん!」

メレー 「・・・・・・」

ペジャ 「畜生、露助の奴らめ・・・僕らの学友も相当撃たれて、死んだり怪我をしているんです。 なんとかして、オルダスの命を取り留めなければ・・・暫くここに留めさせて下さい。僕の家もオルダスの家も、秘密警察がすでに捜索の手を伸ばしているのです。 とても、わが家に帰れるような状況ではないんです」

アニコー 「もちろん結構ですよ。秘密警察に見つからない限り、いつまでもここに居て下さい。 他に逃げ回っている学生さんがいるのでしたら、遠慮なくこの家に隠れるようにして下さい」

ペジャ 「有難うございます」

アニコー 「それはそうと、ソ連がブダペストを制圧したら、この先どうなるのですか」

ペジャ 「カダルが政権の座に就くでしょう。 そして、ナジ首相は国外追放となるか、ソ連軍に拉致されるかのどちらかでしょう」

アニコー 「そんなことは思ってもみなかったことです。 ハンガリー国民の熱烈な支持の中で、政権の座に就いたあのナジ首相が、そんな悲劇的な結末を迎えようとは・・・」

ペジャ 「僕らもこうした事態になるなんて、ほとんど予想もしていませんでした。 残念です、極めて残念です」 (その時、ドアをノックする音。 直後に、ノーラがデアーグを連れて部屋に入ってくる)

ノーラ 「デアーグ先生に来てもらいました」(デアーグとノーラ、メレーの側に寄る)

デアーグ 「おお、これはひどい怪我のようだね」

ペジャ 「先生、是非よろしくお願いします」(デアーグ、暫くメレーの容体を診察する)

デアーグ 「これは重体だ。 オルダス君とか言ったね・・・オルダス君、オルダス君・・・意識もはっきりしないようだぞ、これは危ない。 よし、私の車ですぐに第六病院へ連れて行こう! ここからはちょっと遠いが、他の病院はいま、怪我人が一杯で収容できないのだ」

ノーラ 「先生、お願いします! 是非、この人を助けてやって下さい!」

アニコー 「私からも是非お願いします。この人は娘の許婚(いいなずけ)なんです。 この人にもしものことがあったら、娘も私も・・・」

デアーグ 「よし、分かった。 さあ、オルダス君を・・・」(デアーグが促すと、ペジャとノーラがメレーを抱きかかえる。 舞台暗転)

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