矢嶋武弘の部屋

日一日の命 日々新たなり
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サハリン物語(4)

2017年10月31日 03時36分29秒 | 小説『サハリン物語』

 その頃、カラフト領内では、ロマンス・シベリア連合軍が快進撃を続け、着々と戦果を収めていました。ロマンス国のプーシキンの活躍も目覚しかったのですが、シベリア帝国軍はついにスターリン総司令官が陣頭指揮をとることになりました。 スターリンは途中から軍を二手に分け、サハリン島の東海岸と西海岸へ進めました。東へ向かったのがアントン・チェーホフ将軍らの部隊で、西へはユーリイ・ガガーリン将軍らが向かいました。 
このチェーホフ将軍は風変わりな人で、以前、何カ月もサハリンに滞在したことがあるのです。どういう目的で滞在したのか分かりませんが、よほどサハリンに興味を持ったのでしょう。したがって、彼はこの辺の地形などをよく知っていました。チェーホフの部隊は、東部の要衝・シスカ(ヤマト語で敷香)をあっという間に落とし南へ進撃していったのです。 一方、ガガーリン将軍の部隊は西部の拠点・エストル(ヤマト語で恵須取)を攻撃し、カラフト側のかなりの抵抗があったものの、そこを攻略して一路 南進していきました。 この頃になると、シベリア軍がロマンス軍に替って前面に出るケースが増えましたが、これも兵力の差が歴然としていたからでしょう。

一方、カラフト軍は善戦したものの、ロマンス・シベリア連合軍の圧倒的な軍勢の前に後退を余儀なくされました。 そして、連合軍が東部のシルトル(ヤマト語で知取)へ迫った時、国王の許可が出てスパシーバ王子がようやく戦場に駆けつけました。待ちに待った戦いだったので、彼は闘志満々です。さっそく、一隊を率いて最前線に出動しました。
その頃、スパシーバはリューバ姫が懐妊したことを知りました。大いに喜んだのですが、嬉しさにゆっくりと浸る余裕はありません。とにかく、カラフト国は重大な危機を迎えているのです。シルトルを突破されると、首都・トヨハラ(ヤマト語で豊原)まで200キロ余りの平坦な道のりですから、首都陥落の恐れが出てきます。 この時はまだ、ヤマト帝国の援軍がどうなるか分かっていませんでしたが、何としてもこの辺で敵の進撃を食い止めねばなりません。そういうこともあって、カラフト国は大部分の兵士をシルトルに配置したのです。戦いにかけるスパシーバ王子の決意も大変なものでした。

ロマンス・シベリア連合軍がシルトルのカラフト側の陣地に攻めてきました。スパシーバ王子は居ても立ってもいられません。弓矢で激しく応戦した後、彼は一隊を引き連れてひるんだ敵に襲いかかりました。敵兵は態勢を崩して多くが逃げ始めます。スパシーバは馬上から剣を振るって追走しました。 ところが、逃げる敵の後方から、新たな敵兵が現われ盛んに矢を射かけてきます。その時、敵陣深く進入したスパシーバの右肩に、1本の矢がグサリと刺さりました。体を崩した彼は馬にまたがっているのがやっとです。もう剣を振り回すこともできません。 これ以上、敵方に進むのはかえって危険だし、討ち取られる恐れがあります。やむを得ず、スパシーバは馬首をひるがえしました。彼は馬にしがみつくようにして、敵兵の間を駆け抜け自軍の陣地の方へひた走りました。右肩が焼けるようにズキズキと痛みます。ようやく彼は陣地にたどり着きました。一呼吸置いて、家来に矢を抜いてもらうと激痛が走り、肩から血がどっと溢れ出ました。 重傷を負ったスパシーバは、右の利き腕が動きません。これでは戦うこともできず、彼はしばらく後方に退くことになりました。とにかく、治療に専念するしかありません。毒矢でなかったことだけが幸いでした。

スパシーバ王子はトヨハラの王宮に戻りましたが、ちょうどその時、ヤマト帝国に行っていたイワーノフ宰相の一行が帰ってきました。ヤマトの全面的な軍事支援の朗報を聞くと、彼は傷の痛みも忘れるほど喜びました。ヒゲモジャ王を始め全員が喜んだのです。あとは、援軍が来るまでなんとか持ち堪えねばなりません。
身重のリューバ姫、妹のナターシャ、それに従姉妹のオテンバ姫らが、スパシーバ王子の傷の手当てをかいがいしく行ないました。そのオテンバ姫というのは男勝りの女の子で(と言っても、もう20歳になっていました)、スパシーバに、ぜひ戦場に連れていってくれとせがむのでした。彼は「君は女の子だろう。まだ若い」と言って断るのですが、彼女の方はなかなか言うことを聞きません。スパシーバと顔を合わせるたびに頼み込むのです。こういう勇敢な女の子、いや失礼、女性もいるんですね。愛国心に燃え上がっているのです。
彼女たちの懸命な手当てによって、スパシーバの怪我は思ったより早く快方に向かいました。少しぐらい痛んでも、右腕が動くようになったのです。日一日と良くなっていきました。ところが、そこに悪い知らせが届きました。あれほど頑強に戦っていたシルトルが、ついに敵の手に落ちたのです。

シルトル陥落でますます勢いに乗ったロマンス・シベリア連合軍は、さらに南下して東海岸の要衝・オチアイ(ヤマト語で落合)に迫りました。ここは首都・トヨハラからわずか40キロ余りの所です。オチアイを死守せよというのがカラフト軍への至上命令となりました。しかし、西海岸を席巻したガガーリン将軍らの部隊も合流し、連合軍はさらに兵力を増大させて迫ってきました。ここを突破されれば、トヨハラは完全に危機に瀕します。怪我からまだ十分に回復していないスパシーバ王子でしたが、じっとしていることができずオチアイに出陣したのです。そして、彼の後にはあのオテンバ姫も初陣を飾ることになりました。
連合軍の方は、この辺を詳しく知っているチェーホフ将軍が総指揮をとります。ロマンス軍では、すでに数々の功名を立てたプーシキンが先陣を受け持っていました。彼はラスプーチン宰相の息子という立場もありましたが、今や実力で軍のトップクラスにのし上がっていたのです。 

オチアイの戦いは苛烈を極め、連合軍は初めて“火矢”を放ってきました。カラフト軍の陣営が混乱してきたので、スパシーバ王子は意を決して一隊を引き連れ突撃に出ます。彼の後にオテンバ姫が従っていました。目指すは敵の指揮官ですが、敵兵が猛然と襲いかかってきました。スパシーバは剣を振り回し敵を撃退します。オテンバ姫も初陣とはいえ、女性とは思えない果敢な戦いぶりで進撃していきました。
やがて、先方から華やかに武装した敵の指揮官が現われました。これぞプーシキンだったのです。彼は一目で相手がスパシーバだと分かりました。以前、リューバ姫について例の“和平交渉”に参加した時に、スパシーバのことをよく覚えていたからです。 プーシキンはにわかに闘志が湧き上がりました。リューバ姫を忘れられない彼は、今こそ“恋敵(こいがたき)”を討ち取らなければなりません。彼は一直線にスパシーバの方へ向かってきました。「われこそは宰相ラスプーチンの子、プーシキンだ! 立ち合え!」と叫ぶと、遺恨の一太刀をスパシーバに浴びせました。スパシーバも一剣をもって応戦し、ここに2人の宿命の対決が繰り広げられたのです。

闘志をむき出しにしたプーシキンに対して、スパシーバ王子はやや気合負けしている感じでした。と言うのも、彼が以前、リューバ姫に想いを寄せていたことは彼女から聞いていたからです。プーシキンの激しい攻撃にスパシーバはたじたじとなりました。しかし、気を取り直して立ち向かうのですが、剣と剣で撃ち合ううちに負傷した右肩がずきずきと痛んできたのです。形勢はプーシキンの方が極めて有利になりましたが、その時、少し離れた所からオテンバ姫が助太刀に飛んできました。彼女も剣を振り回しプーシキンに襲いかかります。こうして、3人の目まぐるしい戦いが続きましたが、やがて敵味方の兵士も入り混じってきて乱戦となったのです。スパシーバは辛うじて難を逃れました。プーシキンは離れ際に「今度こそ勝負をつけてやるぞ! 覚えておけ!」と叫んで去りました。スパシーバの方も、次は絶対に負けるものかと心に誓ったのです。
オチアイの攻防はなお暫く続きましたが、ロマンス・シベリア連合軍の圧倒的な兵力の前に、カラフト軍は徐々に劣勢となり陣地に閉じ込められました。やがて、チェーホフ将軍の命令で連合軍の総攻撃が始まると、頑強に抵抗していたカラフト軍も総崩れとなり敗走を余儀なくされたのです。カラフト軍は一路 首都・トヨハラへと落ち延びたのでした。

その頃、ヤマト帝国では、カラフト国救援の準備を進めていましたが、かなりの“遠征”になるため、兵の徴集や装備などに手間取っていました。とにかく、サハリン島は遠い所にあるのです。兵士や武器の他に、どうしても「軍船」が必要です。その軍船ですが、ヤマト帝国は“海洋国家”だったため、昔からかなりの数を保有していました。また、朝鮮半島に何度も遠征したことがあるため、海軍力には自信がありました。しかし、朝鮮とサハリンでは、拠点のある博多から見ると余りにも距離が違います。準備に手間取っても仕方がないでしょう。
それもあってか、大将軍のタケルノミコトと副将軍のスサノオノミコトは、軍の幹部に大いにハッパを掛けました。一日も早く、カラフト国を救援しなければなりません。そうでないと、カラフト国は滅亡してしまうのです。

首都決戦が近づいてきました。王宮のあるトヨハラにはカラフト軍のほとんどの兵士が集結、万全の態勢で敵を迎え撃とうとしていました。一方、ロマンス・シベリア連合軍は“首都決戦”だというので、ツルハゲ王やラスプチーチン宰相、スターリン総司令官ら首脳も現地に到着しました。ツルハゲ王はこの時、何としても愛する娘・リューバ姫を奪還しようと意気込んでいたのです。
カラフト側もヒゲモジャ王を始めみな必死でした。この王宮が陥落すれば国の滅亡は現実のものとなってきます。ヤマト帝国の援軍を待つ間、何としても首都と王宮を死守しなければなりません。もし陥落すれば、人心が一挙に離れていく恐れもあります。王自身が武装したのはこの時が初めてでした。
やがて連合軍の猛攻撃が始まりました。指揮を執ったのはガガーリン将軍です。彼はチェーホフ将軍のライバルですが、このところ戦功ではチェーホフに遅れを取っていました。そこでスターリン総司令官に直訴して指揮を認められたのですが、スターリンはその辺の将軍たちの心理をよく把握していたのです。

カラフト軍陣地に雨あられと矢が降り注ぎました。物すごい量です。カラフト側から、勇猛なジューコフ将軍が一軍を率いて打って出ましたが、連合軍の大兵によって押し返されました。スパシーバ王子も一隊を引き連れて勇戦しましたが、部下の死傷者を増やすばかりです。 連合軍の包囲網が一段と厳しくなりました。やがて、陣地の一角が崩れ、そこへ連合軍の大部隊が突入してきました。スパシーバも奮戦しましたが、徐々に追い詰められ王宮へ後退を余儀なくされたのです。カラフト側の防衛ラインは至る所で寸断され、多くの兵士たちが王宮の敷地内にまで逃げ込んできました。
ヒゲモジャ王は婦女子や老人を避難させなければと考えました。彼はソーニャ王妃とナターシャ姫を呼び、リューバ姫らをすぐに安全な場所へかくまうように指示したのです。王と別れるソーニャ妃は少しためらっていましたが、娘たちの安全を図るしかありません。しかも、リューバ姫は“身重”なのです。ソーニャ妃とナターシャ姫は王宮脱出と避難の準備に取りかかりました。
それから間もなくして、ロマンス・シベリア連合軍の大部隊が王宮へと迫ってきました。いよいよ首都決戦の大詰めです。

さて、連合軍の猛攻撃が続く中で、王宮内では幾つかの異変が起きていました。まず、身の危険を感じて逃亡する人がかなり出てきたことです。しかし、こういう状況ではそれはよくあることです。婦女子や老人が避難するのと同じようなものです。問題は、カラフト王国を見限ってロマンス側に寝返る者が出てきたことでした。これはまさに“裏切り行為”です。
重臣の中に、ゲジゲジサタンという者がいました。彼は王政の経済・財務を担当していましたが、金に貪欲で卑しい性格の持主でした。ただ、家柄が良く数理にめっぽう明るい男だったので、そういう役職に就いていたのです。 前に話したブヨブヨ嬢というのは彼の娘で、ゲジゲジサタンは上手くいけば娘をスパシーバ王子に嫁がせようと企んでいたのですが、王子の方が彼女に全く関心を示さず、リューバ姫を娶ったことに一種の怨みを持っていました。
それだけではありませんが、ゲジゲジサタンは目はしが利く男なので、カラフト王国はもう駄目だと判断し、ロマンス側に寝返ることを決めたのです。王宮内の事情に詳しい彼は、リューバ姫らが避難することを察知し、身内の者にその後を追わせました。そして、ソーニャ王妃やリューバ姫らが避難した“隠れ家”を突き止めたのです。隠れ家はトヨハラと南部の要衝・オオドマリ(ヤマト語で大泊)のほぼ中ほどにありました。

ゲジゲジサタンはそれを知ると、ある晩 大胆にも王宮を抜け出し、変装してロマンス側の陣営を訪れたのです。彼は投降すると言って身分を明かし、重要な情報をぜひ伝えたいと述べました。これにはロマンス側もびっくりしましたが、カラフト国の重臣が投降し寝返ったことには大喜びです。さっそく、ゲジゲジサタンをラスプーチン宰相の所に案内しました。
ラスプーチンは寝入りばなだったので不機嫌な表情でゲジゲジサタンを迎えましたが、彼の話を聞くと小躍りして喜びました。リューバ姫の居所が分かった! これ以上の吉報はありません。ようやく姫を取り戻す機会がめぐって来たのです。 ラスプーチンは一転してゲジゲジサタンを手厚くもてなし、謝礼に“何か”を手渡しました。ゲジゲジサタンも大満足です。こうして、表の首都決戦の裏で、リューバ姫奪還の隠密作戦が着々と進められていきました。

 ラスプーチンは、リューバ姫の所在が分かったことをツルハゲ王に報告しました。王も大いに喜びましたが、ゲジゲジサタンの通報で彼女が身重であることを知り、やや複雑な気持になりました。前にも述べたように、ロマンス国は戒律の厳しい所だからです。他国の男性とは結婚してはならないのです。しかし、何としても姫を奪還しなければなりません。隠密作戦に全力をあげるようラスプーチンに指示しました。 これは特命事項なので、彼は息子のプーシキンを実行部隊長に任命しました。リューバ姫を奪還する作戦なので、プーシキンはもちろん大張り切りです。彼は10数人の手勢を引き連れ、目指す“隠れ家”へと向かったのです。
王宮をめぐる戦いは連合軍が圧倒的に優勢でしたが、ここが落ちればもう後がないので、カラフト軍側も死に物狂いで戦いました。このため、王宮はなかなか陥落しません。業を煮やしたスターリン総司令官はガガーリン将軍を呼びつけ、「あと3日で必ず落とせ!」と厳命を下したのです。 ガガーリンは「それでは、火を放ってもよろしいですか」と尋ねました。由緒ある王宮だったので、彼は“焼き討ち”をためらっていたのです。「かまわん。一日も早く落とせ!」と、スターリンが即座に答えました。

一方、プーシキンの部隊はリューバ姫らの隠れ家に着き、それを取り囲みました。彼の部下が「みんな、早く出てこい! 出てくれば命だけは助けてやるぞ!」と叫びました。家の中にいたソーニャ王妃らはみな大変なショックです。ここで捕まったら、命だけは助かっても、どんな“辱しめ”を受けるか分かりません。王妃たちに従っていたのはほとんどが女性でした。男性は王宮で戦っていましたからね。
その時、オテンバ姫が決意を告げました。「私は戦います。その間に王妃様らは逃げてください」 彼女の決然とした言葉に、侍女のアクシーニャ、親友のジャジャウマ嬢やベルカら他の若い女性が次々に「私も戦います」と述べました。結局、オテンバ姫らが戦っているうちに、王妃やナターシャ姫、リューバ姫たちはオオドマリ(大泊)へ向かって逃げることで一致したのです。
そして、オテンバ姫らは裏口から外へ出るなり、「ロマンス国の奴らめ、かかってこい!」と叫びました。プーシキンの部隊はリューバ姫らを“生け捕り”にすることが目的です。決して殺傷することが目的ではありません。しかし、オテンバ姫らが手に武器を持って現われたので、状況は一変しました。オテンバ姫は馬上で剣を振り回しながら、自ら敵勢に向かっていきました。ジャジャウマ嬢らも続きます。こうして戦闘が始まりました。

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