矢嶋武弘の部屋

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明治17年・秩父革命(15)

2017年08月14日 04時59分46秒 | 戯曲・『明治17年・秩父革命』

第5場[11月7日夜、大日向村・本郷部落の龍興寺。 困民軍幹部の宿営地になっており、菊池貫平、坂本、伊奈野、島崎、新井寅吉、大野喜十郎らの他に、地元の菊池恒之助がいる。]

坂本 「十石峠からここまで、アッという間に制圧しましたね」

貫平 「うむ、極めて順調に事が運んだ。この辺の農民はほとんどが負債に苦しんでいるから、我々にとても協力的なのだ。 借金返済の延期と税の減免は、以前から佐久自由党が強く求めてきた。その運動を続けてきたからこそ、いざと言う時にはこういう成果となって表われるのだ」

伊奈野 「食料の炊き出しだけでなく“さらし”などの衣類、酒なども提供してくれたよ。ここの人達は我々の面倒を本当に良く見てくれるので、胸が熱くなった。心の底から有り難いと思っている。日頃苦しんでいる貧しい農民のために、何でもやってあげるつもりだ」

貫平 「ハッハッハッハッハ、伊奈野さんは情に厚いからな。 これもここにいる恒之助君らが大いに奮闘してくれたお陰だ。なあ、恒之助君」

恒之助 「いえ、皆が自由で平等な社会を強く望んでいるからですよ。この佐久地方を解放し、我々の自治政権を打ち立てましょう。それが井出さんらも求めていたことではないですか」

貫平 「うん、井出君は今どうしているか分からないが、彼や私らが望んでいるのは、公正で平等な社会を実現することだ。それが革命的“ロマンチシズム”だと笑われようとも、社会主義的だと非難されようとも我々の夢なのだ。 富める者から奪って貧しい者に分け与える、つまり天下の貧富を平均にする世均し(よならし)こそが我々の理想なのだ。そのためにこれまで戦ってきたではないか。明日以降も、その戦いをさらに進めていきたい」

島崎 「素晴らしい考えだ、ますます闘志が湧いてきたぞ」

大野 「金持どもの家を打ち壊し、金を農民達に分け与えましょう」

坂本 「そうだ、世均しを徹底的にやっていこう。秩父にいた頃は、そこまで考えが及ばなかった」

新井 「俺達の戦いは正義の戦いだ、それを邪魔する奴は叩きのめすだけよ」

伊奈野 「そうだ、革命の大義のためには血を流すこともやむを得ない」

貫平 「恒之助君、敵の出方はまだはっきりしていないのか?」

恒之助 「ええ、警官隊は高野町から臼田村の方へ逃げて行きましたが、肝心の軍隊の動きがまだはっきり掴めていません。しかし、高崎から鎮台兵が出ているというので、早ければ明日には、佐久の北方に現われるかもしれません」

貫平 「うむ、そうすると警官隊は手も足も出ない状況だから、軍隊が到着するまでは、我々がこの地域を完全に支配したことになる。 よしっ、明日は佐久の歴史に残るような栄光の戦いを思う存分やってやろう!」

全員 「おう~!」「異議なーしっ!」「徹底的に戦うぞー!」「金持どもを全部やっつけるぞー!」

 

第6場[11月8日午前、大日向村の矢沢部落にある豪農・浅川家の土蔵前。 坂本、伊奈野、小林、藤吉らに指揮された30人ほどの農民が、土蔵から銀貨や天保銭、刀剣、槍、衣類などを持ち出してくる。土蔵の前には、数十人の農民が群がっている。]

坂本 「諸君、この浅川家というのは、高利貸しもやる悪質な豪農だと聞いている。浅川が溜め込んだ多くの財貨を、今こうして白日の下にさらすことができた。 これらの物は全て、浅川が農民諸君から搾り取ったものだ。富める者から奪い取って、皆さんに分け与えるのが困民党の使命だ。これから皆さんに配るから、前に並んでほしい」(多くの農民が列をつくると、小林や藤吉らが衣類や刀剣類、天保銭などを配り始める)

伊奈野 「我々はこれから、この一帯の金持や高利貸しの家を次々に襲撃する。皆さんも刀や槍を持って加わってほしい。 警官隊はいち速く逃げ去ってしまったので、何も怖がるものはない。正々堂々と暴れてやろう!」

小林 「これが正義の戦いなのだ! 俺達を苦しめて“ぬくぬく”と肥え太った輩(やから)を、徹底的に叩きのめしてやろう!」

伊奈野 「日頃の“うっぷん”を晴らす絶好の機会だ。困民軍の白い旗の下にみんな参加してくれ!」

坂本 「それでは隊列を組んで、小海方面に押し出そう! 龍興寺の前には、我らの頭領である菊池総理がお待ちかねだ。菊池さんはこの地元を代表して、秩父でも大いに戦ってこられた。菊池総理の指揮のもと、我々はこれから長野、山梨一帯に戦いを広げていく。 さあ、出陣だ! 全員、武器を持って進撃しよう!」

農民達 「おう~!」「出撃だっ!」「戦うぞーっ!」「金持をやっつけろーっ!」「困民軍、万歳!」(坂本、伊奈野、小林らを先頭にして、農民達が行進を開始)

 

第7場[11月8日夜、南佐久郡の岩村田警察署。 ここに長野県警本部が臨時に置かれており、井上署長、桑名警部補以下大勢の警察官がいる所に、高崎鎮台の吉野大尉、前川中尉らの率いる兵隊が“合流”してくる。]

吉野 「遅くなりました。高崎鎮台第3中隊を指揮する吉野です」

井上 「ご苦労さまです。碓氷峠を越えて来られて大変だったですね」

吉野 「いや、これしきのこと、日頃訓練を積んでいるので“さほど”のことはありません」

井上 「頼もしいかぎりです、これで我々も勇気百倍になります。暫くお休みになって英気を養って下さい」

吉野 「かたじけない。腹ごしらえをさせてもらってから、作戦行動に移ります。現在の状況はどのようになっていますか?」

桑名 「この地図を見ながら、ご説明しましょう」(桑名が机上に地図を広げると、井上、吉野、前川がそこに集まる)

桑名 「暴徒どもはいま、この海瀬(かいぜ)から甲州街道を南下した小海(こうみ)方面に進出しており、南北両相木村の一帯は敵の支配下に置かれています。 村役場や豪農、金貸し業者などの家が次々に打ち壊しに遭っており、金銭や刀剣類などが強奪されているのが現状です」

前川 「敵の人数はどのくらいですか?」

桑名 「はっきりしたことは分かりませんが、5~600人はいると思われます」

吉野 「おおよそで結構ですが、火縄銃はどのくらい持っていそうですか?」

桑名 「たぶん60挺から70挺ぐらいでしょう」

前川 「それなら大したことはない、こちらには最新式の村田銃が120挺もある。それで、暴徒は今後どのような行動に出ると見られますか?」

井上 「それは我々の出方にもよりますが、南下して千曲川沿いにこの川上村の方に向うか、あるいは真っ直ぐに山梨県に入るかのどちらかでしょう」

吉野 「騒乱地域を広げてはならないので、いずれにしろ明日、この小海方面で暴徒をせん滅しましょう。いかがですか?」

井上 「もとより、それが一番良いと思います。我々長野県警は150人の警察官を動員していますので、そのうち100人の主力を、この臼田の一帯にすぐに配置したいと思っています」

吉野 「結構でしょう。それならば我々は、臼田を通って対岸のこの入沢地域に進み、今夜はそこで宿営して明日出撃します。それで宜しいですか?」

井上 「むろん結構です。暴徒をせん滅するために、お互いに緊密な連絡を取り合っていきましょう」

桑名 「我々100人の主力部隊は私が指揮しますので、宜しくお願い致します」

吉野 「こちらこそ宜しく。 前川中尉、長野県警のご協力で、明日は暴徒を一網打尽にせん滅できそうだね」

前川 「ええ、陸軍の名誉にかけて明日中には賊徒を退治しましょう」

 

第8場[11月9日早朝、南佐久郡・東馬流(まながし)にある井出直太郎家。 困民軍の本陣となっており、菊池、坂本、伊奈野、島崎ら幹部の他に、藤吉らもいる所へ斥候係りの農民1が駆け込んでくる。]

農民1 「大変です! 敵の軍隊が高野町に現われた後、境田を通って真っ直ぐにこちらへ向っています」

坂本 「なにっ、そんなに早く軍隊が現われたのか」

伊奈野 「敵の軍勢はどのくらいだ?」

農民1 「百数十人はいると思いますが、その他にも警官隊が100人ほど加わっているようです」

島崎 「ここで逃げれば困民軍は総崩れだ。勝ち負けはともかく、敵の主力と一戦交えなければならない!」

藤吉 「もとより、我々兵士もその覚悟で戦ってきたのです。精一杯、迎え撃ってやりましょう!」

菊池 「うむ、これが最後の一戦になるかもしれないが、困民軍の旗を掲げて戦おう。たとえ敗れたとしても、貧民の救済に立ち上った我々の決起は永久に歴史に刻まれるだろう。 坂本さん、伊奈野さん、すぐに部隊の配置をお願いしたい。千曲川の流れを上手く利用して両岸に部隊を展開できないだろうか?」

坂本 「それは敵の布陣を見なければ、何とも決めようがありません。とにかく、今すぐ出撃の用意をしましょう」

伊奈野 「先鋒は鉄砲隊だ。わしは鉄砲隊を指揮するが、坂本さん、島崎さんらは抜刀隊を率いてそれに続いてもらえまいか?」

坂本 「それで良いだろう、さあ行こう」

菊池 「よし、出撃だ!」(全員、立ち上がると本陣を出ていく)

 

第9場ーA[11月9日午前、東馬流の農村地帯にある“天狗岩”の周辺。 吉野大尉、前川中尉率いる高崎鎮台兵と、桑名警部補率いる警官隊が“混成”した隊形で困民軍を待ち構えている。]

前川 (望遠鏡を覗きながら)「中隊長殿、暴徒どもの姿が見えました! 白い旗や幟(のぼり)を立てています」

吉野 「うむ、どのような状況か?」

前川 「数十人ほどの鉄砲隊を先頭にして、後ろに抜刀隊が続いています。隊形はほぼ一列縦隊で進んできていますが、後方は暴徒の群れが広がっているようです」

吉野 「よし、それならば暴徒どもをもっと引き付けよう。千曲川の西岸にいる別働隊が、敵の側面から攻撃しやすい所まで引き寄せるのだ」

前川 「別働隊の立川少尉は、十分に心得ていますね?」

吉野 「勿論だ、敵を包囲する陣形を取るよう指示してある。別働隊が敵の側面から背後に回れば、相手は逃げ場を失って“袋のネズミ”になる。 桑名警部補、我々が一斉射撃を始めたら、あなた方も散開する形で攻撃を仕掛けて下さい」

桑名 「了解しました。暴徒が混乱に陥ったら、我々も拳銃とサーベルであいつらを一人残らず打ちのめしてやります。 同僚の警察官が何人も殺されているんですよ、今日こそその“弔い合戦”です」

吉野 「お気持はよく分かります。今日一日で暴徒を完全に鎮圧しましょう・・・おお、敵の先陣がはっきりと見えるようになったな、もう少し引き付けよう。村田銃の威力を存分に発揮する時が来たぞ」

桑名 「その最新式銃の射撃はまだ見たことがありません。きっと凄いものでしょうね」

前川 「哀れな奴らだ、もうすぐ木っ端微塵に粉砕されるとはな・・・中隊長殿、敵は射程距離に入りました」

吉野 「うむ、火縄銃ではとてもこちらには届かんだろう。 全員、射撃の用意!」(兵士達、銃を構える)

桑名 「敵もこちらに気付いているでしょうが、問題になりませんな」

吉野 「もう少し引き寄せろ、もう少し・・・よし、撃てーっ!!」(兵士達、一斉に銃を発射。ババババーン、ダダダダーンという猛烈な射撃音が鳴り響く)

第9場ーB[同時刻。伊奈野、大野長四郎、大野喜十郎を始めとする困民軍側。藤吉もこの中にいる。何人もの農民が銃撃に遭って次々に倒れる。]

伊奈野 「敵が撃ってきたぞーっ! 俺達も撃ち返せーっ!!」(鉄砲隊が応射する)

喜十郎 「駄目だ、こちらの銃ではほとんど届かない」

長四郎 「危険だが、もう少し前へ出るしかないだろう。鉄砲隊、前進!」(鉄砲隊が前進を始めると、高崎鎮台兵の一斉射撃が再び起きる。凄まじい射撃音)

伊奈野 「伏せろーっ!」

喜十郎 「うわっ、やられた・・・」(喜十郎が倒れる)

長四郎 「喜十郎、大丈夫か!」

藤吉 「喜十郎さん!」(長四郎と藤吉が喜十郎の側に駆け寄る)

喜十郎 「は、腹を撃ち抜かれた・・・俺に構わず、い、行ってくれ・・・」

長四郎 「う~む、畜生」

農民1 「あっ、西の方向から別の兵隊が現われました!」

伊奈野 「この野郎、俺達を取り囲もうというのだな・・・」

藤吉 「参謀長! あちらからも警官隊が迫っています!」

伊奈野 「うっ、巡査どもか、あいつらなら弱いはずだ。鉄砲隊、巡査どもを狙え!」

第9場ーC[同時刻。桑名警部補らの警官隊が、困民軍の側面に接近する。激しい銃声が断続的に起きる]

警官1 「暴徒がバタバタと倒れています!」

桑名 「きゃつら、浮き足立ってきたな。いいか、敵がもっと混乱したら、抜刀隊に拳銃をぶち込め! それから突撃だ」

警官2 「鉄砲隊が近づいています!」

桑名 「構わん、あいつらは鎮台の兵隊さんにやられるだけだ・・・うむ、だいぶ乱れてきたぞ、みんな拳銃を構えろ! 射撃、用意! 撃てーっ!」(警官隊、一斉に拳銃を発射)

桑名 「よしっ、サーベルを抜け! 突撃だーっ!・・・うっ、畜生・・・」(桑名、困民軍の銃弾に胸を撃ち抜かれ倒れる)

警官3 「隊長殿!」

警官4 「大丈夫ですか! 隊長殿・・・」(警官3、4が倒れた桑名に駆け寄る)

桑名 「こ、これしきのことで・・・おのれ・・・みんな、暴徒どもをたたっ斬れ!・・・」(桑名がうつ伏す)

第9場ーD[同時刻。伊奈野、大野長四郎、藤吉ら困民軍側。]

農民1 「参謀長、敵にほとんど囲まれました!」

伊奈野 「どこか脱出できる所はないのか!」

長四郎 「う~む、四方を包囲されたな・・・」

藤吉 「このままでは全滅です! 本陣の方へすぐに撤退しましょう」(その時、鎮台兵の銃撃で困民軍の幾人かが倒れる)

伊奈野 「やむを得ん、後方に血路を開くか」

長四郎 「南に逃げるしかないだろう」

伊奈野 「よし、全員、退却!」(困民軍、雪崩を打って退却。鎮台兵の執拗な銃撃に次々に倒れる人達・・・藤吉も足を撃たれるが、引きずるようにして逃げ落ちる) 

 

第10場[11月9日午前、南佐久郡・海ノ口村の戸長役場。 菊池、坂本、伊奈野、大野長四郎ら困民軍の幹部の他、藤吉らが入ってくる。役場には柿沼戸長ら村人数人がいる。]

菊池 「柿沼さん、北相木村の菊池ですが、少しご厄介になりますぞ」

柿沼 「ええ、どうぞ。あなた方がやって来ることは、村人から聞いていましたよ」

坂本 「戸長さん、とにかく200人分の食事の“炊き出し”をお願いします。腹が減って叶わんのですわ」

柿沼 「了解しました、すぐに用意しましょう」

伊奈野 「それから、各農家から一人ずつの“人足”もお願いします。いろいろ運ぶものがあってね」

柿沼 「ええ、いいでしょう。さっそく手配します」

菊池 「かたじけない、助かります。柿沼さんとは久しぶりにお会いできたというのに、このようなことでお願いするとは因果なものですな、ハッハッハッハッハ」

柿沼 「構いませんよ。 ところで、菊池さんらはこの後どうするつもりで?」

菊池 「ご覧のような出立ちでやってきましたからね、これから山梨方面にでも出て、協力してくれる農民達と一緒に戦っていくしかないですな。 始めたことをクヨクヨしても仕方がない。やるだけやるしかないでしょう」

柿沼 「相変らず豪放な方だ、昔と全く変わりがありませんね」

菊池 「私は生れつきの“ロマンチスト”でね、それでよく“しくじって”きたが、今度も失敗ということですかな、ハッハッハッハッハ」

柿沼 「いえいえ、あなたのような人がいないと、世の中は変らないでしょう。どれ、さっそく炊き出しや人足の手配をしましょう。 みんな、村の衆に言って用意させてくれ」(村人達が承諾の意を表した後、役場を出ていく) 

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