矢嶋武弘の部屋

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世紀の大誤報・天皇狙撃!(前編)

2017年04月20日 02時36分06秒 | 文学・小説・エッセー

その日は秋晴れの清々しい一日だった(1971年10月のある日)。 山村秀樹は結婚ホヤホヤの新妻に車で送られ、いつものように国鉄(今のJR)の北浦和駅から国電に乗り込んだ。通勤・通学のラッシュ時よりやや遅めであったが、電車の中は通勤客などでまだかなり混んでいた。
秀樹は某民放テレビ・Fテレビの政治記者をしていたので、いつも本社には行かず、取材先の国会の「野党クラブ」へ直接通っていた。野党クラブというのは社会党、公明党、共産党、民社党など野党各党を取材するもので、先輩の大場誠司記者と2人だけで担当していたから、仕事はけっこう忙しかった。まあ、若くなければ勤まらないだろう。今じゃとても無理だ(笑)。
10月下旬のその日、大場先輩と秀樹はいつものように手分けをして、野党各党の国会対策委員長らの記者会見に出席した。その日は国連の中国代表権問題の話題しか大したニュースがなかったと思う。
「北京の方がかなり優勢だと聞いているが・・・」 社会党の恰幅の良い楯(たて)国対委員長がそう言った。
「台湾は負けそうですね」 A新聞の年配のキャップが合いの手を入れたが、要するに今の中国政府と台湾政府が国連で“中国代表権”を争っていたのだ。
「歴史は変わるね~。そうそう、これは成田委員長の声明を発表するということだな。どの党も党首声明を出すだろう」 
「北京が勝てばまさに歴史的ですからね。党首声明が当然でしょう」
幹事社のK通信のキャップが念を押すように言ったので、社会党は“党首声明”を出すことになった。
「今日はテレビ各局は“特番”だそうだな。熱が入るね。まあ、頑張っていただこう。ウワハッハッハッハ」 楯国対委員長は上機嫌でそう言うと席を立った。中国代表権問題で北京政府を推してきた社会党は、台湾に勝ちそうな情勢なので気を良くしていたのだろう。
他の野党も党首声明を出すことには異論がなく、中国代表権問題は政治関係者の関心の的になった。それは良いとしても、Fテレビの特番を報道の部屋から直接やると大場先輩から聞いて、秀樹は一瞬、大丈夫かなと思ったのである。

 この当時は、報道の部屋から直接 特別番組をするというのは異例のことだった。大事件や大ニュースがあればやらないことはなかったが、ごく稀なことである。特番も普通は、スタジオから放送したものである。それだけ国連の中国代表権問題が歴史的で、皆の注目を集めていたかが分かるだろう。しかも代表権問題が、劇的な節目を迎えていたことが何となく予感されていたのである。
秀樹はこの日も野党クラブの仕事などに忙殺され、ゆっくりテレビを見る時間はなかった。仕事の合間に記者クラブの共用テレビを覗き見する程度である。しかし、中国代表権問題で北京政府が優位に立ち、台湾政府が苦しい立場に追い込まれたことは分かった。たまに見るテレビ画面で、各局の特番は国連総会で「北京有利」の実況中継を流していたからである。
そして、いつ頃だったろうか・・・ 野党クラブのある記者が叫んだ。
「おい、Fテレビの特番で、天皇が撃たれたという報道があったぞ!」
えっ、それは一大事だ! あわてて、自社席の小型テレビでFテレビのチャンネルに合わせる。そんな報道はしていない。第一報だったのか・・・? 

 実はその頃、Fテレビの報道局は大変だったようだ。秀樹が後で聞いた話だが、たしかに「未確認情報ですが、和歌山国体にご出席の天皇陛下が狙撃されたようです」との第一報を流したらしい。
この和歌山国体は別名“黒潮国体”と言って、当時は国民体育大会と言うと天皇陛下(昭和天皇)が必ずお出ましになった国民的な行事なのである。それに出席された天皇陛下が撃たれるとは、一大事ではないか!
秀樹は先輩の大場記者と共に、自社席の小さなテレビにかじり付いて、続報を待ったのである。天皇が撃たれたら中国代表権問題どころではない。特番自体が全面“差し替え”になるだろう。
その頃、Fテレビ報道ニュースキャスターの奥山太郎は、アナウンス室で“天皇狙撃”の第一報を聞き、飛び上がらんばかりに驚いた。奥山はメインニュースのキャスターを務めていたが、今回の特番の担当ではなかったのだ。 びっくりした彼は取るものも取りあえず報道の部屋に駆けつけ、部員に尋ねたのである。
「天皇陛下が撃たれたのは本当か!?」(続く)

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