駄文的な、余りに駄文的な

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穴(小説)

2016-10-18 23:06:41 | 小説

おわぁああぁぁあぁ

穴の奥から声が聞こえた。

おわぁああぁぁあぁ

まただ。

洋子はそう思った。

また声が聞こえる。


幼少の頃からそうだった。
洋子だけに聞こえる声。
洋子は穴という穴をみる度に、その奥から何者かの声が聞こえていた。

公園の砂場の穴から、マンホールの下側から、時には自分の膣の奥底からもその声がした。

声は耳をふさぎたくなるほど大きい事もあれば、蚊の鳴くように小さな事もあった。
それは穴の大小に関係はなく、どういった場合に大きく、また小さくなるのかは、長年声を聴き続けた洋子にもわからない。

幼少時は誰にでも聞こえるものと思っていたが、物心が着くに従って、この声が自分にしか聞こえないものなのだと理解していった。

何故自分にしか聞こえないのか。
その事に興味を持った時分もあったが、特にこれといった答えを得る事も出来ず、いつしか、単なる日常の一部として興味を失ってしまった。

穴からは声が聞こえるもの。それが日常であるし、別にその事は自分の人生にさしたる弊害をもたらすものでも無いからだ。


おわぁああぁぁあぁ……ゐ

ある日洋子は耳を疑った。

排水溝から聞こえる声が、いつもと少しばかり違って聞こえた為である。

洋子が知っている穴からの声は決まって
「おわぁああぁぁあぁ」
であったはずだ。

おわぁああぁぁあぁ……ゐ

まただ。

聞き間違いではない。

こんな事、40と数年生きてきて初めての事だった。

洋子は初めて穴の奥の声に恐怖を覚えた。

平穏無事、退屈ともいえるような毎日に初めて異変が訪れたのだ。


延々と続くはずの日常が、唐突に終わる予感に、洋子は怯えた。

おわぁああぁぁあぁ……ゐ
……ぁ…

まだ先がある!

穴の中からのみ聞こえていた声はもはや穴だけに留まら無かった。

おわぁああぁぁあぁ……ゐ
……ぁ…

ブラウン管から

おわぁああぁぁあぁ……ゐ

エンピツの先から

おわぁああぁぁあぁ……ゐ
……ぁ…

母親の目の奥から。

あらゆる場所から聞こえてくる声は、家の中から、外から、駆け回り、輪唱し、ぐわんぐわんと大きくなっていった。

もはや洋子に逃げ場はない。


おわぁああぁぁあぁ……ゐ
……ぁ…そぼ

ああ、そうか。
この声は幼なじみだ。

その事に気付いた時には、洋子の鼓膜は既に破れていた。
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