駄文的な、余りに駄文的な

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時計の男

2017-01-26 19:50:50 | 小説
時計が嫌いなんです、と男が言った。男は腕には幾つもの腕時計を巻き、首からはおびただしい数の懐中時計を下げていた。彼のオーバーオールのポケットからもかちこちと、時を刻む音が聞こえてくる。恐らくは、目に見える以上の量の時計を維持しているのだろう。「毎晩、彼女らの時間を合わせなければなりません。」男は話を続けた。「私は彼女らに自分の時間を奪われてしまっているのです。」

「ならば、全てをお捨てになれば良いだけの話ではないですか。」私は言った。それとも捨てられない訳でもあるのだろうか。

「捨てる?あなた捨てるとおっしゃられましたか?」
男は青白い顔を紅潮させ、かぶりをふった。
「よくもまあそんな恐ろしい事が言えますね。あなた、時計を捨てた人間がどうなるか、知らない訳ではないでしょう。」
男は語気荒げに取り乱したが、最後の方はしりすぼみに小さく、ささやくようだった。

私と男の二人しか居ない部屋は一時の静寂に包まれた。

あなたが、何をしたいのか解らない。
私は、時計のひとつを凝視しながらゆっくりと言った。

「それがわかれば、この様な話はしません。私は彼女らを愛し、慈しみ、憎み、畏れているのです。」
男はそれだけ言うと、一礼をし、去って行った。

部屋には静寂だけが残された。

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