ちぇろりすとの独り言

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久々にグル様☆

2005年08月23日 | おすすめクラシック
1・2ヶ月前のMusical Baton(初回)のエントリーで少し取り上げましたが、昨日の夜雷雨が吹き荒れるなか、ふとグレン・グールドの演奏するこのインベンションとシンフォニア(J.S.バッハ)が聴きたくなって、ラックから引っ張りだして聴いていました。最近グル様を聴くことがなかったので彼を聴くのは実に久しぶりのことです

人によってグールドとの関わり方、距離感のとり方は実に様々で、彼の演奏に対してあからさまに嫌悪感を示す人も入れば、熱烈な、いやほとんど盲目的とも言える狂信的なファンもいれば、ある程度距離感をもって楽しむ人もいればで、実に様々だと思います。
ワタシもかつては熱烈なファンでしたが、チェロをやるようになって徐々にピアノから離れていくにつれ、そしてある程度年を重ねるにつれてグールドと一定の距離を保てるようになり、いくらか冷静な耳で彼の演奏を聴けるようになりました。実はそれまではかなり熱烈な信者だったんです。
まだ熱烈な信者であったハイティーン時代は、今と同じように彼の本質をある程度理解して楽しんでいた反面、彼の奇抜な個性に“呑まれていた”面があったことは否定しようがありません。ハイティーンという年頃はそういう天才にどうしても憧れますから。
今は彼の録音はホントに年に数回聴く程度で実に冷静な耳で聴けるようになりましたが、その冷静な耳で聴けるようになった今でも、いまだにワタシにとってのグールドの価値が少しも減衰したわけではないんです。むしろ冷静に聴けるようになったぶん、その評価がゆるぎないものになったように感じています。

ちなみに、ワタシのグールド録音ベスト5は、


①インベンションとシンフォニア
②平均律クラヴィーア曲集全巻
③フーガの技法
④エリザベス朝のバージナル音楽名曲選(バード、ギボンズ他)
⑤新ウィーン学派のいくつかの録音


というところです。これも人によってかなり異なると思います。彼の“18番”であるゴールドベルク変奏曲(J.S.バッハ)の録音がこの中に入ってないのは、別に嫌いというわけではなく、特にワザと避けたわけでもないです。ただ単にベスト5に入らないというだけの話です。


さて、本題に入ります。
実はこのインベンションのCDがワタシとグールドの出会いの曲になります。
ワタシが小学校高学年の頃ちょうどバッハのインベンションを習っていたときに、うちの親が世話を妬いてわざわざ買ってきてくれたものです。よりによって教材としては全く不向きな演奏を買ってきたうちの親って・・・
もちろんその頃はグールドの芸術のありようを理解できるはずもなく、なんかちょっと普通じゃない雰囲気を感じつつもたいして興味を持つことはありませんでした。

それから高校生になり、教育テレビであの浅田彰氏がグールドを神のごとく褒め倒している特集番組を観たのが2度目のグールド体験になります。
このときも、ああ、このおっさん相当な変人だったのね~くらいにしか思わなかった。なんかJAZZっぽくスウィングしててあんましクラシックっぽくないし、音といっしょに変なうなり声が聴こえてくるし、打鍵が二度打ちみたいに(“しゃっくり”現象って言うのかな?)になっちゃってるし、やっぱり変なのぉ~って思ってたかな

それから大学生になって、どこかで浅田彰氏のイリュージョンがワタシに耳打ちでもしていたのでしょうか、初めてジバラで彼のゴールドベルク変奏曲(J.S.バッハ)の最終録音(1981年盤)をゲチュウしたわけです。ようやくここからワタシのなかでグールド萌えが始まりました。それからというもの、今はその存在すら忘れられている感のあるメディア“LD(レーザーディスク)”で発売された『ザ・グレン・グールド・コレクション』という6枚組LDボックスセットを買い、CDボックスセットを買い、彼の書簡集やら関連書籍やらを買いあさることに。このグールド萌えは少なくとも5・6年くらいは続いたかも。
今日のエントリー前半部分の繰り返しになりますが、やっぱりハイティーンの若者にとってあのカリスマ性は大いに魅力的だったのだと今更ながらに思います。まだあの頃はもっと“自意識過剰”で自分が“スーパーマン”になれると思っていたくらいアホでしたから(笑)でもそういう時期って特に男の子だったら誰でもありますよね ワタシにとってグールドはそんな自分の理想像を体現してくれた天才の一人でした
でもね、不思議なことにあの頃よりいくらか年をとった自分が、今のいくらか冷めた耳でグールドを聴いても、彼の魅力が霞んだと思うようなことは全くないです。
メカニカルでクールな面を見せながらも、同時にものすごく人間臭さがにじみ出た、この一見矛盾するとも思える要素が両立しているグールドの個性ってやっぱり素晴らしいなぁ~♪と思うわけです。

特に彼のバッハは
彼の演奏は一度曲自体をバラバラに破壊してそれを新たに再構築したようなところがおもしろいです。だから彼の演奏は一度バラして余計なものを取り除いている分、スケルトンちっくというか、まるでレントゲン写真をみているような、曲の骨格だけ見ているようなおもしろい感覚になれます。でもそこで終わらず、あの軽いタッチの中にすごく人間的な温かみも感じることができるから、それがまたいいのです。

でもワタシが思うにこの温かみを感じるのは中期の演奏くらいまでで、晩年の彼は体温をあまり感じさせない演奏へシフトしていった気がします。だから後年の演奏は聴いていてとても疲れるし、グロテスクで生生しい印象を同時に受けます。ここも普通の演奏家とは180度違う道を歩んでいて興味深い。あの冷徹で人間味がないといわれたカラヤンでさえ、後年は随分人間的な演奏になったと評されましたし、完ぺき主義者のポリーニでさえも近頃は随分丸い音になった気がします。 ところがグールドはその逆で、本当に“無”の世界へ旅立ってしまった。最後のゴールドベルクの録音を聴いて、特にそう思います。先ほど聴いていた1960年代前半のインベンションの録音や、デビューアルバムのゴールドベルクの録音などとは違って、この1981年録音のゴールドベルクは同じバッハでも全く違う。あのグールドをグールドたらしめているような、極端なテンポ設定や、左手の深いカンタービレ、軽いタッチは健在でありながらも、何か聴いていて恐ろしくなってくるようなゾッとする感覚になるのです。(いつもの心地よいゾクゾク感ではないんです)やっとのことで全部聴くような、とにかく聴いていてもの凄く疲れる演奏です。 なぜなのかはわかりません。 

今回久しぶりに聴いたインベンションとシンフォニアの演奏は、どこまでも愛らしく、独特の浮遊感が漂い、時に温かさとメランコリーが同居したようななんともいえないグールド独特のファンタジーも聴くことができ、人間グールドの魅力がこの小品集でめいっぱい堪能できます 本当に芯から心が和む演奏だと思います
ただ、唯一最後の第9番へ短調のシンフォニアの演奏は、まるで最後の録音である1981年盤のゴールドベルク変奏曲の第25変奏g-molの演奏を思わせるような、今にも止まってしまいそうなくらい遅いテンポで弾かれていて、“厭世感”あるいは“虚無感”を思わず感じてしまいます 世の中の無常を悟ってしまったというか、死の灰が降ってあらゆる生物が死に絶えたあとの荒涼とした風景を見ているような・・・。 でもなにか不思議と落ち着くなぁこの曲の演奏も 晩年の演奏とは違ってこのころの演奏はまだ“体温”みたいなものがある。

つくづく思いますが、グールドほど人間的な人間もいないのではないかと思います。“矛盾の塊”だったという点で。いろいろな矛盾を抱えている人ほどその魅力が増大するというのは、よく言われる話ですよね。そういう点でグールドも例外ではありません。彼の魅力は21世紀になっても不滅の輝きを放っていると思います

いやぁ~、それにしてもついにグールドについて語っちゃった(笑)
なんか遅すぎた感もありますが、これも避けては通れない道かも♪なーんてね・・・


<CDデータ>
【演奏】グレン・グールド(Pf)
【曲目】インベンションとシンフォニア全曲/J.S.バッハ
【録音】1963年・1964年 CBSスタジオ(ニューヨーク)
【レーベル】ソニークラシカル 30DC 780

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2 コメント

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力作お疲れさまです♪ (ぽぽろんろん)
2005-08-25 12:39:05
このインヴェンションとシンフォニア、私もこの間買いましたよ!

いいですね!これ。さいこー♪

最初はあのハンマーの跳ね返りが気になりましたが、すぐに慣れました。



>あの軽いタッチの中にすごく人間的な温かみも感じることができる

いい表現です~。サラッと弾いているようであとに残るものがあるというのは凄いことだと思います。

これが

>独特の浮遊感

にも繋がってきますね。



自分がこれを習っていた当時って、どうしても「教材」的な意味合いが強くて、内声部がどうとか左手に主題が来たからどうとか、自分の頭の中でも全部「教育」としての技術として処理しちゃってたんですよね。

将来もっと技術的に難しい曲を弾くためのステップみたいな。

この録音を聴いて、当時自分がどれだけもったいないことをしていたか気付かされましたね(苦笑)

今この曲集を「教材」以外の面を念頭に指導している人ってどれだけいるんだろうとも思っちゃいました。



平均律クラヴィーア曲集も欲しいなぁ。でも高いなぁ…(苦笑)
おお~♪タイムリーですね~ (ya-ya-ma)
2005-08-25 20:14:00
あはは~ やっぱ力作に見えます~?

前からグールドのことを書こうとは思っていたのですが、最近あまり聴いてなかったのと、グールドについてはすでに語り尽くされている感があるので、今更という感じでなかなか手をつけられずにいました



それにしても、あの“しゃっくり現象”は最初ちょと気になりますよね(苦笑)



おっしゃるとおりこの曲集は各声部を歌い分けるための教材として使われるのが常ですよね~♪ワタシも同じでした。シンプルな曲だけど、果たしてグールドのように豊かに歌い分ける人がどれだけいるのかはなはだ疑問ですよねぇ(苦笑)



この記事を書いた日から、毎夜最後のヘ短調のシンフォニアを聴いて黄昏てます(笑) あのバス声部のどこまでも沈んでいくような半音階進行がなんだか非常に落ち着くといいますか。。。いや、あらためてこのCDサイコーDEATH!