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『パナマ文書の正体・元国税庁調査官が暴く』-オフショア金融・タックスヘイブンとの関係を紐解き読む

2016-06-02 23:41:15 | 最近読んだ本・感想
 

 「パナマ文書」とは、「タックスヘイブン」での会社設立の援助を業とする、パナマの法律事務所の《顧客秘密情報》が納められた文書ファイルである。それが南ドイツ新聞社に持ち込まれたが、あまりにも文書量が多いため、一新聞社だけでは手に負えず、世界中から専門家やジャーナリストを募り、分析を進めているという。その過程で文書の解析の一部が先日発表されたところで世間を騒然とさせた。、世界の第一線に立つ政治家や実業家に交じり、日本人の名も含まれているから、国内でも大騒ぎになっているが、実際の問題はそれよりはるかに大きく、《合法的脱税》などという軽々しい言葉では済まされない《グローバル化した資本主義》に巣くう、より深刻で悪魔的な問題であるということが分かる。

        ○        ○         ○

 「タックスヘイブン」(租税回避地)の話は今に始まったことではない。経済がグローバル化され、資本が国境を越え自由に行き来するようになると同時に、企業はより条件のいい場所を求めて拠点を海外に移していく。
 だから、「パナマ文書」が世間にさらされる前から、《合法的な脱税(租税回避)は多かれ少なかれ、富裕層や大企業では当然のように行われているのではないか》ということは誰もが思うところだった。しかし、実際に具体的な名前と共に文書が公開されると、やはりインパクトが違う。

                               
                                                【 本書の裏表紙から 】

  この本では、上に名前の挙がっている人たちが、どのような方法(スキーム)で「タックスヘイブン」を利用して、どんな得をしているのか、3、4の例を紹介している。

 まずはソフトバンクの孫正義社長や楽天の三木谷浩史会長の場合

  出資や投資という名目で《優遇税制》のきく海外企業に「タックスヘイブン」を通じ資金を移動し、利益を得るとともに節税をしていたという。そして彼らは、「すべて合法的で脱法行為はしていない」とコメントしている。


 2つ目のパターンは、イギリスのキャメロン現首相やアイスランド前首相の脱税スキーム

  ペーパーカンパニーを作り、それを隠れ蓑に投資をしたり資産隠しをして脱税をしている。全首相のグンロイグソンの方は道義的責任から辞任に追い込まれたが、キャメロンの方は居座って伊勢志摩サミットのG7会議にも出席し、他の面々と顔をそろえて『タックスヘイブンに関して有効な手を打てるように協力していく。』とうそぶいている。「タックスヘイブン」に最も恩恵を受けている連中が、こんなことを言っても誰も信用しない。


 3つ目は、プーチン、習近平などの権力者や周辺のエリート層、それに北朝鮮の独裁者である

  彼らは国家財政も自分の力で左右できるほどの大きな権力を握っていることが、上の政治家グループとは違うところだ。名前が挙がったことくらいでどうということは全くない。それぞれの手口が本で紹介されている。
 興味を持つのは「北朝鮮は経済封鎖を受けているのに、なぜ経済成長しているのか?」という疑問に関してだが、「ユーロダラー」を媒介に「タックスヘイブン」をうまく利用していることに1つの理解を得た。


  今回の「パナマ文書」とは直接関連はしないが、面白いというかその狡猾さにあきれるのが、「武富士の老業者であり元会長の《節税》策」である

  武富士の場合は、《海外の財産(自分がオランダの会社に投資した株)を海外在住の人(自分の息子)に贈与しても税金がかからない》事を利用したものだが、当初国税局は《税金逃れのため住民票だけを香港に移したのだから日本の贈与税を適用できる》と判断し課税したのだが、それを不服とした武富士が国を訴え、勝訴して2000億円を取り戻したという。

 「セコム一族の相続税半減策」も同様の手口で相続税を半分以下にした手口が「パナマ文書」から明らかにされている。


      

       
 こうした事が《世の中にはセコイやつがいて、彼らだけが得をしている》で済むならまだしも、その尻拭いをさせられているのが我々庶民である。
 どういうことかというと、
 
 『現在、相続税(上の表にあるように税率は55%そこそこ)の税収は1兆円ちょっとである。これは消費税の税収の10%以下である。
  日本には1700兆円にもおよぶ莫大な個人資産があることを考えれば、これはいかにも少なすぎる。
  現在、全国の相続資産に対する相続税の割合は2%である。 (中略)
  簡単に言えば、富裕層から相続税が取れないから、庶民から税金を取ろうということになる。

  』
   さらにわかりやすく具体的に説明すると、

 『2015年から相続税の課税最低限が6000万円から3500万円に引き下げられた。(中略)(3500万円というのは大都市近郊の駅近くに普通の家を持っているような庶民で、
  数十億、数百億の遺産をもらっている人は、タックスヘイブンを使うので相続税を払わない。そのしわ寄せで、庶民が相続税を負担するようになったのである。

  』(本書P-67

                                 

 矛盾が生じているのは、相続税ばかりではない。

 『年収200万円の収入の人は収入のほとんどを消費に回すので税負担はほぼ8%である。しかし、年収1億円の人は収入の大半は預金や投資に回すので、
  収入に対する消費税の負担率は8%よりはるかに低い。(中略)富裕層や大企業から直接税を撮れないので(取れないのでなく取ろうとしないでむしろ負けてやろうとしている
  広く浅くとれる消費税で賄おうとしていることである。
   ようするに金持ちがタックスヘイブンを使ってまともな税金を払わないから、我々庶民の負担がおおきくなるということである。
   金持ちはますます肥え太り、我々の生活はますます苦しくなる。
  』(同、P-67)



                      


 筆者は、国税局の元調査官であるから、この辺の話は具体的でわかりやすく説得力もある。筆者はさらに続ける。

 『タックスヘイブンの弊害は大企業や富裕層の税金が大幅に引き下げられたということがあるのだが、そのことが必然的に大企業、富裕層の税金を
  安くせざるを得なくなる。
』(上の表のように、先進国では軒並み法人税が引き下げられている

 そして、

 『先進主要国は法人税率を下げる代わりに、課税する対象の企業を広げるなどして税収減をカバーしようとしてきた。それは大企業の税金を下げる代わりに、
  今まで課税対象にならなかった低所得の中小企業にも課税するようになった。

  』(本書 P-121)

 『大企業や富裕層がまともに税金を払わず、庶民の課税を強化されればどうなるか?
  当然のことながら、貧富の差は拡大する。

  』 (同)



 ここまで見てくると、「タックスヘイブン」に関して大きな疑問がわいてくる。厄介なことに、タックスヘイブンを利用する租税回避は、表向き《合法性》をまとっているということだ。(「パナマ文書」の出どころはそのための《法律事務所》だ!

  疑問1つは、この本にもあるように「どうして「パナマ文書」にアメリカや日本の関係者が少ないか」という点

  この点に関しては、この本に解説がある。

  アメリカに関しては、様々な理由から《たまたまアメリカ人が、世界各地にある法律事務所の中で「モサック・フォンセカ」を選ばなかった-つまり顧客でなかった》というだけの事である。(P-25〜27)

  日本についても同様に、(「ケイマン諸島」を使うことの多い日本としては)「ヴァージン諸島」を得意としている「モサック・フォンセカ」を利用しなかったにすぎず、「タックスヘイブンを利用していない」ということではないということらしい。 (Pー92)

                   
                       【 日本が良く利用するという「ケイマン諸島」はここでは出てこない 】


  2つ目の疑問は、それならどうして《脱法行為》すれすれのことが許されるのか-いったいそのような《仕組み》や《お金の無法地帯》を【誰が作ったのか】、あるいは【どのように誕生したか】、ということである。

 この点の一定の答えは、本書の「第4章」以降に書かれているのだが、一般に【「タックスヘイブン」は上の表にあるように南洋に浮かぶ小さな島=経済力のない小国】を連想するが、そうではなく、バックには「大英帝国の影」があるという。

 この本の著者も、参考文献に挙げている『タックスヘイブンの闇』(ニコラス・ジャクソン著、朝日新聞出版 2011年刊行)という本があるのだが、今回このブログを書くためにインターネットを見ていたら、たまたま原著者のインタビュー映像にお目にかかった。(下記:YouTubeアドレス参照
 このビデオ映像を見たら、上の2番目の疑問の答えが分かるような気がした。(著作は現在《読み中》)

 『オフショアー金融センター』、『ユーロダラー』、『基軸通貨』などの金融経済の用語を理解しなと分かりにくい面もあるかもしれないが、一見の価値は充分あるあると思われるので、是非見ていただきたいと思う。(時間は24分と短時間にうまく集約されている。)



  (そんなわけで、この続きは『タックスヘイブンの闇』(原題:「宝島:オフショア金融とタックスヘイブンがもたらす損害を暴く」)の書評という形で、次回までお預けにしたいと思います。


      


       『デモクラシー・ナウ』(『タックスヘイブンの闇』の原著者へのインタビュー)の関連記事(ビデオ映像)





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