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Nothing Upstairs



天才と分裂病の進化論
デイヴィッド ホロビン
新潮社

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最近サボリがちの当ブログだが,こんな面白い本をご紹介できるんだからホソボソとでも続けてく価値はあるよな。著者のホロビンはイギリス,オックスフォード大出身のお医者さんで,かつ医学専門雑誌「Medical Hypothesis」の創刊エディタでもある精神分裂病(この訳語,現在は「統合失調症」と呼ぶことになってるけど,本書では混乱を避けるために「精神分裂病」と翻訳してる。なので以下の拙文でもこれを使います。乞うご理解)の研究者。そしてこの本の要旨は……例によってとっても乱暴にかいつまんで言うと,人類がチンパンジーと共通の祖先から別れて進化する誘因となったのは,現在の我々に精神分裂病を引き起こす遺伝子の突然変異ではなかったか,というものである。

なんのこっちゃわかりませんか? 順を追って説明しよう。まず人類の歴史において大きな業績を残した人(彼らを「天才」と呼ぼう)には,本人かあるいは近親者が精神分裂病を煩っていた例が多い。数々の研究からこの病気はいくつかの遺伝子異常の相乗効果により,脳内におけるアラキドン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸などオメガ3脂肪酸の欠乏が原因であることが解って来た。これに関わる遺伝子は少なくとも2〜4カ所と考えられ,そのすべてを併せ持つとある割合で分裂病を引き起こすが,それ以下の場合,また食生活などの外部環境によってうまく発症が抑制された場合には常人を超えた能力の発現を促す(マウスによる実験で50%以上の知能亢進が確認されている)。

人類の祖先にこの遺伝子異常が現れたのは約14万年〜8万年前のことと考えられ,火の使用や道具の革新,抽象的思考の発生などはこの遺伝子を持つ個体によって創始されたのではないか,というのである。この辺の議論はあのジュリアン・ジェインズの名著「神々の沈黙ー意識の誕生と文明の興亡」と呼応していて興味深い。

そしてこの遺伝子異常が「精神分裂病」としてマイナス方向に作用しはじめたのは,人類がオメガ3脂肪酸を直接に摂取できる肉類(主に魚肉)や野菜中心の食生活から,リノール酸,αリノレン酸など体内でオメガ3脂肪酸に変換する必要のある栄養素しか含まない穀類中心の食生活に移行したころからであり,また事態がより深刻になったのは産業革命後,長期保存の観点から穀類が脱脂され小麦粉などからリノール酸などが除去されたのを契機としていると考えられる。そんなアホな,と思うかもしれないが,分裂病質者が多いと考えられる刑務所で行われた実験では,オメガ3脂肪酸を経口投与されたグループで明らかに暴力衝動が抑制されているのである。

てなわけで,ですな。結論として巷間よくクチにされる「天才とキ○ガイは紙一重」というコトバはそれこそびっくりするほど正鵠を衝いており,また人類史上に出現したそういう「患者」なかりせば,我々ホモ・サピエンスはきっと未だにネアンデルタール人並の暮らししかしていなかった,かも知れないのである。いやぁ戦慄というか目ウロコというか,こんな面白い本が2002年に訳出されていたなんて,誰も教えてくれないんだもんなぁ。

……なお,この本の中身,特にオメガ3脂肪酸がシナプス結合において具体的にどんなハタラキをしているのかてな部分をちゃんと理解したければ,「シナプスが人格をつくる 脳細胞から自己の総体へ 」(ジョセフ・ルドゥー著),「ユーザーイリュージョンー意識という幻想」(トール・ノーレットランダーシュ著)辺りも是非お読みくだされ。面白いよ。


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コメント
 
 
 
その本おもしろいですよね (mapletop)
2009-08-03 22:12:26
わたしも4、5年前に読んでかなり興奮しました。
ただ、その後の研究では著者の主張は否定されがちなようです・・・
わたしもこの本を読んでからはサバやサンマの缶詰めをせっせと食べたものですが(笑)、けっきょくあまり関連はないのかもしれません。
 
 
 
ありゃそうなんですか (xemem)
2009-08-05 09:37:22
まぁモノは宗教ではなく科学なので,今後の実験,DNAの解析などが進めばいずれ肯定なり否定されカタがつくことではあります。
あ,それからmapletopさんがサバやサンマ食っても別に変化がなかったのはもともとその辺の代謝に問題がなかったからなんでは?
 
 
 
分裂症の原因遺伝子 (alpine)
2009-08-05 11:45:51
SCIENCE誌かどこかに載っていたのですが、最新の研究によると分裂症の原因遺伝子はどうも脳のシワを作る遺伝子と深いかかわりがあるみたいです。
ただし、方向は逆で、「脳のシワを作る遺伝子の働きが弱いと分裂症になるっぽい」という結果。知能の発達(シワの増加)で脳の機能が増え統合機能も複雑化したところで一部のシワが減る変異によって統合機能が失調し、莫大な脳の機能を統御できなくなる結果なのかも、というような推察だった気がします。ただ、機能の暴走により天才化するという可能性もあるのかも。
この本の書かれた当時はまだ遺伝子の働き方がわからなかったので合成されるたんぱく質の量だけで論じるしかなかったのでしょうが、今はもう少し詳しくわかるようになっているみたいです。
 
 
 
なるほどシワですか (xemem)
2009-08-06 08:29:04
その「脳のシワを作る遺伝子」ちうののハタラキがもそっと具体的でないと……ちうのは,遺伝子が手で持って脳味噌を畳んでシワを作るわけではないので,そこにはやはり組織形成を方向付ける化学的・物理的な理屈があるはずですから,その辺を解りやすく解説してくれる本が待たれる,というコトロですね。
 
 
 
Unknown (にゃんこせんせい)
2009-09-05 16:56:39
はじめまして。
アインシュタインの脳にシワがほとんどなかったっていう噂を聞いたんですが
天才化に関係あるのでしょうか。
気になります!
 
 
 
脳のシワ (xemem)
2009-09-06 00:38:50
素人考えですが,脳にかぎらずシワというものはつまり大きい表面積をのばして格納するだけの容量がないときにできるものだと思います。
で,脳細胞……と言うかニューロンの相互接続の複雑さは必ずしも大きな表面積が絶対条件ではないんぢゃないかな,と。たとえはノードが100個しかない系と1000個ある系があるとして100個の系では1ノードが残りの99のノードと直結しており,1000個の系ではおのおの隣接する(話を単純化するため線形のモデルを考えますが)2つのノートとしか連結してないとすれば,天才を発揮するのが100個のノードしか持たない方であっても不思議はないんぢゃないでしょうか。
 
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