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天才棋士現わる(3)―人はなぜ藤井聡太に熱狂するのか―

2017-07-16 07:51:47 | 思想・文化
天才棋士現わる(3)―人はなぜ藤井聡太に熱狂するのか―

藤井聡太君が忽然と日本社会に登場し、今まで将棋に関心がなかった人たちでさえ、一局一局の結果に関心を持つようになっています。

プロデビュー以来29連勝を達成し、30年間破られることになかった記録を破った時には号外が出る有様でした。

藤井君が対局の時に食べる「勝負メシ」にどこの店の何を食べるか、までもが毎回テレビで中継され、彼が食べた「勝負メシ」に一般の
お客さんの注文が殺到しています。

将棋界では異例のことらしいのですが、プロになったばかりの棋士のセンスやクリアファイルなど、発売とともに売り切れてしまいます。

これはもう、「藤井聡太という社会現象」といってもいいでしょう。

その経済効果は十数億円とも言われ、「フジイノミクス」という言葉さえ生まれました。

しかし、思えば、彼はまだ14歳、中学三年生の少年です。自分が中三のとき何を考え何をしていたかを振り返ると(そもそも比べること
自体が無理なのですが)、藤井聡太という一人の少年棋士が社会に与えた衝撃のすごさを改めて感じます。

体操、水泳、スケート、卓球、ゴルフ、音楽などの分野で、十代の若さで世界の場で活躍している“天才”少年・少女は珍しくありません。

最近、こうした天才的な子どもたちがどんな環境で育てられているかを特集したテレビ番組がありました。

これらの映像を通して分かるのは、こうした若き(あるいは幼い)天才たちに親が、3~5才くらいから時間もお金もかけて徹底的な英才
教育を受けさせていることです。

たとえば、小さな女の子のために、親が家の敷地にゴルフ場を作って練習をさせたり、専属コーチを海外から呼んで、子ども指導に当たら
せている事例も紹介されました。

こんなことは、通常の家庭ではとうてい不可能です。

親がコーチとして子供につききりで猛特訓をしている場合もありますが、これとて通常のサラリーマン家庭では無理です。


トップレベルのフィギュア・スケーターを目指すには、国内だけでなく海外での練習や試合に自費で行かなければなりませんので、とてつ
もなくお金がかかります。

一人のスケーターを育てるのさえ大変なのに、複数の子どもたちに親が惜しみなくお金を使っているスケート一家さえあります。

また、親自身が、かつてオリンピックや国体に出場したことがあるアスリートで、子供にもその種目の育成に力を入れている事例も、珍し
くありません。

こうしたアスリートの卵は、DNA(遺伝子)として最初から才能が与えられている上に、身近に良き指導者をもつ、という環境に恵まれ
ています。

音楽の分野では、たとえば音楽一家、といった家庭もあります。このような家庭では親や兄弟が音楽家で、小さい時から音楽に親しむ環境
が整っていて、ごく自然に音楽の道に進んだ人も珍しくありません。

こうして見てくると、若い“天才”が現れる背景には、親の経済力、子どもに賭ける熱意、優れたDNA、恵まれた家庭環境など、幾つも
の好条件がそろっている場合が多いのです。

しかし、これらの好条件がそろっていればそれぞれの分野トップになれるかといえば、必ずしもそうとは限りません。

何といっても、本人が厳しい練習に耐えてゆかなければなりませ。映像では、こんな子供にそこまで厳しくしなくても、と思ってしまうほど、
親やコーチは過酷な試練を課します。

子どもたちはトップになることを親から動機づけられており、本人も泣きながら、それでも必死に訓練に耐え、技量を向上させてゆきます。

好条件と本人の死に物狂いの努力があっても、世界で通用するトップ・アスリートや演奏家になるとは限りません。

その中で、ごく一部の、ずば抜けた才能を示し国内外の競技で優勝などの好成績を収めて初めて世間は、認めてくれるのです。

そのような時、私たちは若き天才の活躍に興奮し、称賛し、しばらくはメディアで大いに話題になりますが、それらは一時的な現象で、やが
て人々の関心はうすれてゆきます。

しかしf藤井君の場合は、ちょっと事情が違います。NHKスペシャルで『徹底解剖 藤井聡太~進化する14才~』(2017年7月8日放送)
という藤井君の特集を組みましたが、このようなことは希です。

しかも、NHKは藤井君がプロ棋士になったばかりの昨年の12月から長期取材を始めていたのです。

藤井君への熱狂が、何かと話題になる水泳や体操や卓球などではなく、将棋という、世間ではごく一部の人しか関心をもたない、実に地味で
マイナーな将棋が一挙に人々の注目を集めた点が驚くべきことなのです。

それでは、たった一人の、しかも、中学三年生が、なぜ、これほどまでに日本中の注目を集め人々を熱狂させるのでしょうか?

その第一弾は、昨年12月末に行われた、プロ棋士としてのデビュー戦で、将棋界最年少の藤井四段が現役最長老の加藤一二三九段(77才)
と対戦し、見事に勝ったことでした。

一般的には、いくら天才少年でも、やはり長い経験をもつ加藤九段には勝てないだろ、と思われていたのに、実際、勝ってしまった時、将棋界
はいうまでもなく、世間一般にも大きな驚きを与えました。

しかし、この勝利は、舞楽や能楽でいうところの「序破急」の「序」、「起承転結」で言えば、まだ「起」、つまり事の始まり、序章に過ぎな
かったのです。

というのも、新人の場合、それまでの性格や将棋の特徴が知られていないので、高段者を破ることは珍しくないからです。

しかし、藤井君のすごさを世間に見せつけたのは、それから、あれよあれよという間に連勝を重ねていったことです。

もうこれは、たまたま、偶然、という次元の問題ではなく、彼が本当の天才であることの確かな証だったのです。『天才現る!』の衝撃です。

連勝記録に並ぶかどうかの対局には、あらゆるメディアが注目し、藤井君の勝利を大きく報じました。

いよいよ、連勝記録を破るかどうかの一戦を、私もずっと観ていましたし、大げさに言えば世間は固唾を飲んでその行方を見守っていました。

そして、運命の29連勝がかかった対局でも、苦しい場面を何とか挽回し、ついに勝ちました。

この時、ステージは「序」に続いて「破」の段階、あるいは「起」で見せた勝利を継承した「承」の段階に入ったと言えます。

藤井フィーバーは頂点に達しました。

しかし、世間の熱狂ぶりとは裏腹に、藤井君はあくまでも冷静で謙虚で、淡々と自分の勝利は「僥倖」です、あるいは自分の実力を考えれば
「出来過ぎです」と、シレッと言うあたりが、これでも偉業を成し遂げた中学生の言葉か!と、さらに世間に驚き与えました。

日本中が藤井聡太に熱狂した一つの理由は、こうした偉業を中学生が、ごく自然に成し遂げたという客観的な事実と、その勝利を驕ることなく、
まるで、悟りの境地に達した大人が発するような冷静で謙虚な言葉とのギャップではないでしょうか。

藤井フィーバーを巻き起こしたもう一つの背景は、多くの親が心の奥底でひそかに抱いていた、”我が子もひょっとしたら”という希望を藤井君
に見出したからではないでしょうか? (これはもちろん、私の個人的な“読み”です)

残念ながら、“ひょっとしたら”は現実には、まず起こらないのですが、そこは親心というものでしょう。

というのも、藤井聡太君の場合、親が将棋の棋士であったわけでもなく、また子供に熱心に将棋を教えたわけでもなく、さらに経済的に非常に
豊かな家庭というわけでもありません。

ある意味、どこにもあるようなごく普通の家庭で藤井君は育ったのです。

彼が幼い時、感覚を育むこと、好きなことを好きなだけやらせることを基本とした「モンテッソーリ・子供の家」に通っていたと聞けば、こうし
た幼稚園への問い合わせが殺到したり、あるいは町の「将棋教室」(これは通常、ごく少額で教えもらえ、授業料はとらない)へ子供を入れる親
が激増してたちまち満杯になる、あるいは藤井君が小さい時遊んだ遊具(キュブロ)の注文が多すぎて、今や半年待ちとなっている、などの現象
に現れています。

つまり、特に裕福で親が既にエリートであるような家庭でなく、ごく普通の自分たちの家庭でも手の届く範囲で、これまたごく普通の自分たちの
子供も、“ひょっとしたら”(くどいようですが“ひょっとしたら”は皆無とは言いませんが、限りなくゼロに近いのです)、かすかな希望を藤
井君に託しているのでしょう。

私も親として、こうした親の切なくはかない期待は十分共感できます。

ともあれ、私もにわか将棋ファンとして、藤井少年の「急」、「転結」を見届けてゆきたいと思います。

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夏の葉物野菜が終わり、畑には画面右から サトイモ、サツマイモ(安納芋、鳴門金時、ベニアズマ)が雑草
と共に、元気に育っています。



夏野菜の代表トマトも順調に育ていますが、近くにカラスの巣があり、どうやらこのトマトはカラスの餌場に
なっているようで、次々と食べられています。





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