大木昌の雑記帳

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共謀罪(1)―本当の狙いは?―

2017-05-14 06:39:55 | 政治
共謀罪(1)―本当の狙いは?―

政府・与党は何が何でも、強行突破しようとしている「共謀罪」(組織犯罪処罰法改正案=テロ等準備罪)は、制度的・原理的
にも実際的にも問題が多すぎます。

共謀罪を簡単にいうと、組織的犯罪集団の2人以上で実行を計画し、うち1人でも準備行為をすれば、全員が処罰されるという
もので、現行案では対象犯罪は277あります。

まず、この法案が何のためか、政府側の見解に出発点から問題があります。

政府は、国際組織犯罪防止条約の締結のために、現行法では不十分だから、新たに組織犯罪防止のための法律が必要である、と
述べてきました。

ここに、第一の問題・矛盾があります。日弁連や有力な法学者は、現行法のままか、微修正で加盟できるとしています。条約は、
各国の裁量を広く認めており、具体的には各国の事情に合わせて法整備をすればよい、としています。

次に、条約は、本来、マフィア対策(特に資金面での)のために各国が協調しよう、との趣旨で設けられたものです。

つまり、マフィアのマネーロンダリングや人身売買、麻薬取引など金銭目的の犯罪を主眼としており、テロ対策が目的ではあり
ません。

政府は、過去三回にわたって共謀罪法案を国会に提出していますが、その際、テロ対策としなかったのは、この条約がテロ対策
条約ではないことを知っていたからです。

実際、今回の法案も最初、テロ対策は強調されていませんでしたが、法案の中身の審議の際、「テロ」という言葉がどこにもな
いことを指摘され、慌てて「テロ等準備罪」とし、「等」の中に何でも対象となるよう、表現を変えたのです。

安倍首相は、過去の経験から「共謀罪」に対しては国民の反対が強いので、テロ防止法がなければ2020年のオリンピック・パ
ラリンピックは開催できない、と説明してきました。

突然、「共謀罪」がオリンピックと関連づけられ、テロ対策法であるかのように名称を変えたのです。

これまでオリンピックが開催された国で、国際組織犯罪防止条約に加盟していなかった国でも特に問題はなかったし、この条約
に加盟していてもテロが起き時には起きるので、あえて安倍首相が「共謀罪」とオリンピックと結び付けることには、制度的・
原理的に正当性がありません。

それでも、共謀罪が「テロ対策」だと言い続けて、強引に突っ走っているのは、国会で一定の審議時間が過ぎれば、最後は強行
採決してでも、数の力で押し切れる、と考えているからでしょう。

数の力で強引に通過させることで、一時的に批判を浴びるかも知れないが、安倍内閣の高い支持率がある限り、国民は結局、安
倍政権を支持し続けるだろう、と高をくくっているように見えます。

今や、安倍首相は、何でもできる、という万能感に浸っているようです。

国民も随分、見下されたものだと思いますが、街頭でのインタビューなどをみていると、共謀罪について何も知らない、と答え
た人が結構いました。

このあたりも政府は見ているのでしょう。

次に、内容をみてみましょう。

すでに多くの法律家や識者が指摘しているのは、「「共謀罪」が「内心の自由」を侵害する危険性が大きいことです。

「内心の自由」とは、心では何を思っても自由、という近代社会における最も根源的な人権のことです。

たとえば、たとえば憲法学者の木村草太氏は次のように指摘しています(『東京新聞』2017年5月11日朝刊)。

    共謀罪の対象となる「組織的犯罪集団」と認定される要件は、犯罪の目的、団体の組織性と継続性があればよく、
    過去の犯罪歴や指定暴力団などの要件はありません。
    共謀罪ができれば、警察は、犯罪を計画した疑いがあれば捜査できる ようになり「不当逮捕」の範囲はどんどん
    狭まる。処罰範囲よりも捜査範囲の拡大によるインパクト方が大きい。

言い換えると、この法案では、警察が「疑わしい」と判断すれば捜査の範囲をどこまでも広げることができる、という危険性
をはらんでいということです。

では、犯罪の準備であれ実行であれ、具体的な行為に出る前の段階で、警察はどのようにして「疑わしい」と判断するのでし
ょうか?

ここに、もう一つの問題があります。つまり警察は常時、人々の行為だけでなく、通信(SNS、電話、インターネット、ス
カイプなどの電子通信)を監視・盗聴してゆくことになります。

これこそ、木村氏がその危険性を指摘する、「捜査範囲の拡大」です。

したがって、政府がどのように説明しようと、一般市民への適用や不当な乱用を排除する手掛かりは条文にはありません(注1)。

計画を心の中で合意しただけで処罰するのは、憲法が保障する「内心の自由」の侵害にあたります。

これを正当化するには、具体的かつ社会に重大な危険を及ぼす計画・準備行為を必要条件としなければなりませんが、今回の
法案からはそれを読み取ることはできません。

もうひとつ、今回の共謀罪には、日本の法体系を根本から覆してしまう可能性があります、

山口大名誉教授(近現代日本政治史、現代政治社会論)の纐纈厚氏は、
    共謀罪の最大の問題は刑法の原則を大きく逸脱する点です。現行の刑法では既遂での摘発が原則。加えて未遂でも処罰
    できる。ところが共謀罪の原案によれば、重大な犯罪に限り、「準備行為」でも処罰の対象とされる。共謀罪の特徴は
    計画や合意だけで犯罪が成立すること。それで「準備行為」をしていない者も処罰の対象となる。言論の自由にとって
    深刻な脅威となる(『東京新聞』2017年4月8日)。

と反対の理由を述べています。

つまり、日本の刑法では、実際に行為をした場合(既遂)にのみ罰則の対象になるのが大原則ですが、「共謀罪」は、心に思っ
ただけで、逮捕・処罰することができるのです。

纐纈氏は、共謀罪の本当の目的について、本質を突いた指摘をしています。

    米中枢同時テロ以降、先進諸国では監視社会の強化につながる法整備が進められています。監視や管理による国民情報
    の把握、警察権力強化への重大な一里塚として「共謀罪」が想定されているととらえるべきです。「特定秘密保護法」
    「安保関連法」との文字通り三位一体で、安倍首相の言う「戦後レジームからの脱却」、事実上の「戦前レジームへの
    回帰」が法的に担保されることになります(同上)。
    
纐纈氏は、これら三つの法律は三位一体で、一方で政府は大切な情報を秘匿し、他方で国民のプライバシーを監視する危険性が
あるというのです。

次回は、共謀罪がもたらす可能性のある問題、政府(特に法務大臣)の答弁などに見られる、説明のあいまいさや矛盾など、を
検討します。

    
(注1)まだ、多少、の変更はあると思いますが、これまでの成案全文は
http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2017/03/kyobozai20170228.pdf でみるこができます。


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