大木昌の雑記帳

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オリンピック競技場問題―「海の森競技場」を巡る茶番劇―

2016-10-29 05:56:42 | 思想・文化
オリンピック競技場問題―「海の森競技場」を巡る茶番劇―


2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下、単にオリンピックと略称)は、最初から、うさんくさい話がつきまとっています。

まずは、4年前(2013年=平成24年) の招致のためのプレゼンテーションで、安倍首相が、福島の汚染水は、「湾内にコントロール
されている(under control)」と、公の場で嘘の発言をしたことです。

この問題に関して、本ブログの2013年9月16日の記事(汚染水問題(続)-日本が払わされる「倍返し」-)で詳しく論じています。

今も、汚染水は “アンダー・コントロール”どころか、巨額の費用をかけて設けた凍土壁も効果がなく、汚染水の一部は海に垂れ
流し状態です。

続いて、いわゆるオリンピックのエンブレムに関連した、盗作(あるいは“パクリ”)疑惑のため、一度、採用された案が結局、不採
用となりました。

次が、いわゆる国立競技場の設計をめぐる問題でした。これは、落選はしたものの、イギリス在住のザハ・ハディド氏が、自分の
アイディアが盗用(“パクリ”)された、として裁判を起こすとの態度をはっきりと示しました。(ザハ氏は最近亡くなってしまったので
裁判はなくなりました。)

これだけでも、2020年に東京オリンピックにはケチがつき通しでしたが、最近になって持ち上がった、競技場を巡るドタバタは、ま
ったく茶番劇としか言いようがありません。

なかでも、ボート・カヌー競技場に関しては、IOC(国際オリンピック委員会)会長のトーマス・バッハ氏と副会長のジョン・ダウリング・
コーツによる恫喝(脅し)も含めて、関係者がそれぞれの思惑で右往左往しています。

まず、東京招致が決定するまで、日本のオリンピック組織委員会(会長は森喜朗氏)は、「海の森」海上を想定し、総費用を69億円
としてIOCに予算を提出していました。

しかし、招致が決まった直後に、この金額は1031億円と、約15倍に跳ね上がったのです。

これはあまりにも巨額すぎるとの批判があり、平静26年(2014年)に491億円に急きょ減額しました。

それでも当初の7倍に膨れ上がったということは、予算の積算がいかに、いい加減であったか、をはっきりしています(1031億円は論
外です)。

今や、オリンピックはお金がかかりすぎるの、引き受ける都市がなくなってきているので(ちなみに、ローマとハンブルグは撤退しまし
た)、IOCは、予算的にコンパクトにするよう、開催都市と国へ強く要請してきました。

それにしても、一気に15倍、7倍とは、組織委員会はひどすぎます。恐らく、オリンピックと言えば、いくらお金をかけても都民も国民も
文句を言わないだろう、と高をくくっていたような気がします。

小池百合子都知事は就任直後から、この問題の解決を迫られました。

都民の貴重な税金を無駄に使うことはできない、という誰も反対できない大義を掲げて、小池知事は、さっそく、「海の森競技場」の問
題を取り上げました。

そこで候補にあがったのが、宮城県の長沼のボート場でした。

村井県知事の熱意もあって、小池知事は長沼を視察し、その時、長沼での開催、ということには、「被災地の復興、という強いメッセー
ジがある」、とのコメントをしました。

おそらく、小池知事の頭の中には、「長沼」があったのでしょう。もし、実現すれば、さすが、小池知事には哲学があり、素晴らしいアイ
ディアだ、と評価されたことでしょう。

これに慌ててのが、森会長です。既に、IOCも競技団体も「海の森」で決定していることを覆すことは困難だ、との見解を示しました。

しかし、森会長以下の組織委員会にも弱点はありました。それは、お金がかかりすぎることです。

バッハ会長の示唆で、東京都、組織委員会、JOC(日本オリンピック委員会)、IOCの四者会談で決着することになりました。

すると、組織委員会は急きょ、「海の森」競技場の建設費用を300億円に引き下げることを検討する、と発表しました。

それほど安くできるのなら、なぜ、最初に1038億円もふっかけ、批判されると491億円に下げ、さらに300億円まで下げたのでしょうか?

恥も外聞もない、小池都知事の表現を借りると、「バナナのたたき売りじゃないんだから」、と言いたくなります。

IOCの恫喝
ここで、IOCが、慌てて「海の森」に引き戻そうと恫喝します。つまり、もし、「海の森」がうまくゆかないなら、韓国での開催も考える、と
いう脅しです。

さらにIOC副会長のコーツ氏は、もし、「海の森」以外なら、「東京大会を傷つける」とまで言っています。何がどう傷つくのか、まったく
意味不明です。

それでは、バッハ会長、そしてコーツ副会長は「海の森」にこだわるのでしょうか?

ちなみに、コーツ副会長は、オーストラリアの人で、若い時には自身もボート(レガッタ)の選手で、現在はスポーツ仲裁裁判所の会長
でもあり、「ボート界のボス」と呼ばれる人物です。

彼らは、もうボート・カヌーの競技場は、「海の森」で決まり、それ以外にはあり得ないことをはっきり口に出すようになりました。

ボートやカヌーは、日本ではあまり注目されない競技ですが、ヨーロッパでは、花形中の花形競技なのです。

それを、東京から遠く離れた宮城県の田舎でやる、とは彼らにしてみればとんでもないことなのです。

小池知事は、当初の「被災地での復興」という大義を掲げ続け、IOCの意向をはねつけることができるでしょうか?

したたかで抜け目のないバッハ会長は、被災地では、ソフトボールや野球の予選をやったらどうか、そうすれば被災地の「復興」という
大義を満たせるではないか、と言っています。(ちなみに、この案は、当初からあり、新しい案ではありません)

彼らにすれば、ソフトボールや野球など、まったく関心のない、どうでもよい種目なのです。そんなもの、どこか草はらでやってくれ、と言
わんばかりです。

多くの日本人は、このあたりの事情が分かっていないようです。

では、客観的にみて「海の森」は本当に、ボート・カヌー競技場として適当なのでしょうか?

私は全く不適当だと思います。それは、お金がかかりすぎる上に、以下の現実的問題があるからです。

日本体育大学ボート部の鈴木正保監督は1年ほど前、オリンピックの出場経験者と一緒に「海の森」予定地に出向き、実際にボートを漕
いでもらったことがあります。以下は、その感想です。

    あそこに行ってみると分かるんですが、風力発電の風車が立っています。風力発電ができる風が吹く場所という証拠みたいなもの
    ですから。その風も(コースの)横から吹いてくる。横風が吹くと、ボート競技、カヌー競技では大変な問題になる。海水ではやりたく
    ない。(注1)

風よけのため、コンクリートで壁を作るようですが、そんな中での競技は全く雰囲気を壊します。また、波よけをどうするのか、も問題です。

森会長は、レガシーとなる施設を、いう大義名分を言いますが、アスリート目線からみて、「やりたくない」また、「塩水でボートの金属部分
が錆びる」ような競技場が、オリンピックの後で、皆が使いたくなる施設になるでしょうか?

しかも、すぐ近くに鉄道の駅はなく、JRや地下鉄の「新木場駅」からタクシーで約15分という、不便な場所です。

どう考えても、「海の森」での開催は合理性を欠いています。 IOCはとにかく、ボート競技を東京の中心で行って注目を浴びたいと思い、
日本の組織委員会は、巨額の費用を使って記念碑的な施設を作りたいのでしょう。

せめて、建築業者と都とおの間で、金銭授受がないことだけは守っていただきたいと素直に考えます。 

今回の会場問題に関して『日経新聞 デジタル版』は、「『小池劇場』で見えた日本スポーツ界の存在の軽さ」と題する記事で、日本のス
ポーツ界に対して厳しい意見を書いています。

    競技団体の決まり文句は「レガシー(遺産)を残して」。レガシーとは何だろう。五輪後に維持管理費で毎年億単位の赤字を垂れ
    流す施設をレガシーとは呼べない。施設自体がレガシーではない。残された施設を真のレガシーとなるように有効活用する責任
    はそれを利用する競技団体や各リーグにある。ならば、負のレガシーにしないための具体的な利用プランをスポーツ界が都民や
    国民に説明するのが筋だろう。

競技場の問題は、ボート・カヌーだけでなく、水泳、バレーボールなどにもあります。残念ながら、日本のスポーツ界は、都民も国民も説得
するだけの根拠を持ち合わせていません。
   
    1964年東京五輪のレガシーに日本武道館がある。柔道や剣道など武道だけでなく、コンサート会場として音楽ファンの聖地にもなり、
    国の補助金に頼らない運営が可能になっている。武道館の建設費は国の資金と寄付で賄われ、管理、運営しているのは行政ではな
    く「公益財団法人日本武道館」。20年大会で新設される施設も、公益法人である各競技団体や各リーグが指定管理者として運営する
    くらいの意見がスポーツ界から出てこないものか(注2)。
    20年五輪の施設をレガシーにするのは、国でも都でも組織委でもない。日本のスポーツ界だ。その自覚と覚悟を持てなければ、いつ
    までたっても端役に甘んじるしかない。

小池都知事も最近では、「強いメッセージ」をもった宮城県長沼の候補地は、会場建設に4年かかるので、現実的には無理だ、と言い始めて
います。宮城県知事は、建設は間に合う、と言っているのに、です。

事はIOCの思惑通りに動いているようです。

(注1)http://news.yahoo.co.jp/feature/108 (2016年2月23日配信 10月23日閲覧)
(注2)http://www.nikkei.com/article/DGXMZO08845460X21C16A0000000/?df=3
    (2016年10月28日閲覧)



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