大木昌の雑記帳

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北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(2)―はしゃぐ安倍首相と世界の反応は?ー

2017-05-07 09:38:48 | 国際問題
北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(2)―はしゃぐ安倍首相と世界の反応は?

北朝鮮が、4月15日の金正日生誕105年に、核実験か大陸間弾道弾を発射するのではないか、と日本政府とメディアは
盛んに報道していました。

この日に何事も起こらなかったので、次は4月25日の軍創建記念日には、今度こそ何かをするのではないか、とまた日本
の政府とメディアは騒ぎ立てました。

実際に行われたのは、海岸にならんだ高射砲から海に向かって一斉に砲弾を発射した映像が配信されただけでした。(私は、
この映像自身が、かなり“作られたもの”、との印象をもっています)

秋田県のある市では、核を搭載したミサイルが飛んでくるかもしれない、との想定で、非難訓練さえ行ないました。

しかし、冷静に考えれば、北朝鮮が本当に日本に対して使うとすれば、それほど多くはもっていない、しかも一発何億円もす
る虎の子のミサイルを秋田に向けて打ち込むだろうか?

また、首都圏の一部ではコンビニに、いざといときに備えて、放射能から身を守る方法(家の中に入り、窓から離れる、地下
鉄に入るなど)を書いたコピーを配るなど、あたかも核戦争が差し迫ったかのように、危機感を煽っていました。

冷静に考えれば、これも漫画チックで、家の中の窓から離れることが、ほとんど意味がないことは誰でもわかることです。

さらに、都内の地下鉄の一部では、運行を止めたり、新幹線を一時止めたりしました。

上に書いた日本の状況が、いかに異常であったかを、世界の反応と比べて考えてみましょう。

まず、もし軍事衝突が起これば、北朝鮮の核や化学兵器の被害をもっとも受ける韓国ですが、15日も25日も、韓国では避
難の指示や、ました避難訓練もしていません。

さらに、もし軍事衝突が起こることを本気で想定していたとすれば、韓国にいるアメリカ人(軍人と民間人を含めて5万人以
上)を出国させているはずですが、一人も出国していません。

つまり、アメリカ自身も、実際には北朝鮮の核実験も大陸間弾道弾の発射が実行され、それにたいしてアメリカが軍事行動に
出ることは、想定していなかったのです。

その理由は、後で説明します。

それでは、世界の他の国はどうでしょうか? アジア諸国もヨーロッパ諸国も、ほとんど無反応です。北朝鮮の行動よりもむ
しろ、アメリカの軍事力行使を心配しているのではないでしょうか。

ジャーナリストの高野猛氏の「北朝鮮危機は回避されていた。犬猿の米中が分かり合えた複雑な事情」(注1)と題する長文
の記事の中で、次のように書いています。

    米国と北朝鮮の双方ともが不確実性・不可測性の極度に高いトップを抱えているので、断言することは出来ないが、
    米朝が軍事衝突し韓国や日本をも巻き込んだ大戦争に発展する危険は、すでに基本的に回避されたと見て差し支えあ
    るまい。
    転換点となったのは4月6~7両日の計5時間に及んだ米中首脳会談で、これを通じてトランプ大統領と習近平主席は、
    北の核・ミサイル開発問題に軍事的な解決はありえないこと、中国の北に対する影響力には限界があるけれどもまず
    は中国が北に核放棄を約束させるべく全力を尽くすことで意見の一致を見た。
    
この背景には、アメリカが全力で北朝鮮を軍事攻撃しても、以下のような事態が想定されるからです。

    全ての反撃能力が破壊されることはあり得ないので、残る総力を振り絞って韓国と日本の米軍基地に対して反撃する
    のは自明であるということである。
    かつて1993年に北が核不拡散条約(NPT)を脱退して核武装を公言した際には、米クリントン政権が核施設空爆を決
    意しかかったが、「3カ月で死傷者が米軍5万人、韓国軍50万人、韓国民間人の死者100万人以上」という試算が出て、
    断念した。これには北朝鮮の軍民犠牲者も日本のそれも含まれていないので、ひとたび戦争となれば300万や500万の
    人の命が簡単に失われるであろうことは確実である。
    カーティス・スカパロッティ元在韓米軍司令官は、昨年の米議会証言で、北に対して開戦した場合「朝鮮戦争や第2次
    世界大戦に近いものになる。非常に複雑で、相当数の死者が出る」と述べた。──その通りだが、その犠牲は何のた
    めに?
    重要なことは、死者の数だけではありません。問題は、「この数百万人は、何のために死ぬのか。何の意味もない各国
    指導者の意地の張り合いのためでしかありえず、全く馬鹿げている。こんなことは現実的な選択肢とはなり得ないとい
    うのが、世界常識です」。

まったく同感です。

つまり、アメリカが北朝鮮を軍事的に破壊したとしても、それによって得るものはなく、ただただ意味のない膨大な「死」がも
たらされるだけだという現実に、トランプも直面したのです。

高野氏の分析で、ほぼ言い尽くされていますが、一つだけ補足しておきます。

前回も書いたように、金正恩氏は、自分から攻撃を仕掛ければ、アメリカの反撃で一瞬にして国土が破壊されてしまうことは十分
承知しています。

北朝鮮は、核もミサイルも、交渉を迫る手段、あるいは攻撃された場合の反撃手段、つまり自己防衛の手段として考えています。

したがって、もし、軍事衝突があるとすれば、アメリカによる先制攻撃しかありません。

これには、アメリカ国内、国連、韓国、中国、ロシアが猛反対するでしょうし、アメリカは軍事行動を正当化できません。

習近平との5時間にわたる会談で、トランプは「北をやっつける」というのがそれほど単純な課題ではないと知ったかもしれない、
と高野氏は想像しています。おそらく、これが真実でしょう。

最後に、高野氏は、トランプは、「内外のすべての事柄について、自分が思っていたほど世の中は単純ではなくて相当に複雑なのだ
ということを、日々学習しつつある。北朝鮮問題もその1つだったということである」と結んでいます。

さて、もう一度、異常ともいえる日本における政府とメディアの反応について、高野氏は、「米中協調で進む北朝鮮危機の外交的・
平和解決の模索―宙に浮く安倍政権の『戦争ごっこ』のはしゃぎぶり」と、皮肉っています。

実際、4月中旬以降、安倍政権は、アメリカの艦隊と日本の海上自衛隊との合同訓練、アメリカの空軍と日本の航空自衛隊との合同
訓練を実施し、気分的にはかなり高揚しているように見えますが、やはり「はしゃぎすぎ」の感はぬぐえません。

ところで、どうやら、北朝鮮とアメリカ、アメリカと中国との間では、かなり密で頻繁な交渉が行われているようです。

4月12日に、両首脳は緊迫化する朝鮮半島情勢をめぐって電話で協議しています。習氏は北朝鮮問題について「対話を通じた解決」
というこれまでとは異なる表現を使いました。これまでは「すべての側による自制と状況の激化回避」と表現していました(注2)。

この時点で事実上、アメリカと中国との間で、軍事的解決はしないことがほぼ確定しました。

安倍首相が、アメリカとの軍事同盟が強化されたことを世界にアピールしている間に、世界は安倍首相抜きの方向で、どんどん進ん
でいるようです。

最近、トランプ大統領は、もし、「金委員長と直接会談できれば名誉なことだ」とまで踏み込んだ発言をしています。そして、実際、
3月から北朝鮮とアメリカで直接会談にむけて交渉が始まり、5月7日には北朝鮮代表団が会談に向けて出発しました


再び高野氏は、『朝鮮日報』の記事を引用して、安倍首相の異常さを厳しく批判しています。

    日本がこの局面でなすべきことは、戦争になって何万・何十万・何百万の北朝鮮・韓国・日本・米国そして中国の人々が命
    を失うようなことにならないよう、全力を尽くすことであるというのに、安倍首相は戦争になるのを期待しているかのよう
    にはしゃぎ回っている。韓国の朝鮮日報は18日の社説で、日本の公職者たちは「まるで隣国の不幸を願い、楽しむような言
    動」をしていると非難している。

悲しいことですが、これが、世界の目からみた、安倍首相の客観的な姿ですが、当の安倍首相は、この事にまったく気が付いていな
いどころか、この緊張に乗じて憲法改正、共謀罪の早期法制化に利用しようとしています。

さて、最後に、前回の記事で予測しておいた、ロシアについて書いておきます。

最近、トランプはロシアのプーチンと電話会談を行いました。これについてロシア政府は、「朝鮮半島の危険な状況を詳細に話し合
った。ウラジーミル・プーチンは抑制を呼びかけ、緊張レベルの軽減を求めた」と明らかにしました。(注3)

具体的な内容は明かされていませんが、ロシア政府の発表を翻訳すると、武力攻撃にたいしてロシアは反対であり、外交的な方法で
問題の解決を図るべきである、との方向を目指すことを確認したと思われます。

ジャーナリストの高濱賛氏が「『トランプの拳』、落としどころは視界ゼロ」との記事で書いているように、トランプ氏は、一般の
印象とは異なり、今や、打つ手がなくなった、とのジレンマに陥っているのが実情です。(注4)

トランプ氏を、信用できる政治家で、どこまでもついて行くことを内外に誇示している安倍首相は、どうするのでしょうか?


(注1)Mag2NEWS (2017年5月2日) http://www.mag2.com/p/news/248352
(注2)『日経ビジネス ONLINE』(2017年5月2日)http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/050100041/?P
(注3)BBC NEWS Japan(2017年5月3日)http://www.bbc.com/japanese/39790426
(注4)『日経ビジネス ONLINE』(2017年5月2日)
    http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/050100041/?P
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