観劇日記

芝居(主にシェイクスピア)の感想を綴る。個人的な記録、見る予定のない人への紹介、すでに見た人へは一つの意見として。

「お国と五平」、「息子」

2016-11-02 23:11:21 | Weblog
10月11日吉祥寺シアターで、谷崎潤一郎作「お国と五平」と小山内薫作「息子」をみた(演出:マキノノゾミ)。

Ⅰ 谷崎潤一郎作「お国と五平」
武家の後家お国(七瀬なつみ)は夫の敵、池田友之丞(佐藤B作)を探すため、五平(石母田史朗)と共に仇討の旅に出て早3年。二人の心は
いつとはなしに相寄っていた。そんな二人の前に、ある日、友之丞が姿を現す。

友之丞はお国に懸想しており、憎い恋敵である彼女の夫を卑怯にも闇討ちして逃亡したのだった。

長旅を続ける身分の高い女と彼女に仕える若者。お国が「五平、お前には本当に済まない・・・」と言うと、五平は立ち上がり、明るく力強く
希望に満ちた顔と表情と声で「もったいない。私は5年でも10年でも20年でも、どこまでも奥方様にお供します」と宣言する。このセリフ、
まるでオペラのアリアのよう。若い彼の幸福感が伝わってくる。

二人が道端で休んでいると、虚無僧の尺八の音が次第に近づいてくる。それが、実は彼らが追っていたはずの友之丞だった。
次第に3人の関係が明らかになってくる。
「自分の性格が悪いのは生まれつきで、お国殿が美しいのと同じだから自分のせいではない」とうそぶく友之丞。開き直るとはこのことだ。
実は彼は、2人がこの4年の間、自分を探して広島から大阪、京、江戸・・と旅する間、ずっと彼らの後をつけてきたのだった。
熊谷での一夜、宇都宮での2ヶ月・・二人の間に起こったこともすべて宿の隣室などで見聞きしていた・・・。
早く遠くに逃げればいいのに、なぜそんなことをする?しかもなぜわざわざ自分から二人の前に現れる?
彼は臆病者で剣はからきし弱い。一方五平の剣術の腕は確かだ。命が惜しくないのか?
それはただ「お国さんの顔をもう一度見たいがため」だった・・(!)。

死ぬ間際に友之丞が五平に或ることを暴露する。それで、辺りの風景がいっぺんに変わってしまった。
女の身でありながら夫の仇討のため長く苦しい旅を続ける健気にも見上げた武士の妻・・・だったはずが、実は当時の身分の高い女としては
驚くほど性的に奔放で身持ちのよろしくない女だったということが明らかとなってしまった。
女は後ろを向いて顔を隠し、恥に崩折れそう。だが彼女が一番心配なのは、それを聞いた五平の心だ。
「恨みに思っているのではないかえ?」「これからも可愛がってくれるかえ?」
さて五平はどうするか、というと、しばしの後、明るい声で「可愛がらずしてどうしましょう」。
これで女はすっかり元気になる。もう彼女は笑いが止まらない。短刀を渡して敵の首を取るよう指示する。
二人して死体を前にこちらを向いていざ首を挙げんというところで幕。

設定は深刻だが、これは喜劇だ。
調子のいい、自分勝手な屁理屈をこねて、仇討を免れたい、いやできることならお国とまた親しくなりたい、ととんでもなく図々しいことを
言い出す友之丞。
無事夫の仇討を果たすや、次なる男が自分のかつての過ちを許してくれるかどうかだけに気をもみ、その心配がないと見るや笑顔を隠そうとも
せず、もうすっかり恋する女になりきったお国。
どちらも実におかしい。言わば仇討のパロディだ。

友之丞はまるでシェイクスピアの「リチャード三世」でリチャードがアンを口説く時のようにお国に言い寄る。
リチャードはアンの夫を殺したが、アンにそれを責められると「あなたへの愛ゆえだ」と言葉巧みにすごいレトリックを使ってまんまと言いくるめ、
復讐をやめさせるばかりか彼女のハートを射止めてしまうのだ。
だがここではそうはいかない。お国には五平という新たな恋人がいる。

お国の過ちに関しては、五平さえそれでいいなら別にいいわけだ。
作者の皮肉な目。後味はほろ苦いが、実によくできた芝居だ。

お国役の七瀬なつみが美しく愛らしい。3人の男たちの心をとらえ、特に友之丞の人生をめちゃめちゃにする運命の女だが、説得力がある。
この人は、2009年にドイツ人作家の「昔の女」というしょうもない芝居で一度見たことがある。当時から魅力的でうまかった。
五平役の石母田史朗も爽やかで一途な青年を好演。
友之丞役の佐藤B作も適役。

ラスト、フランクのヴァイオリンソナタがチェロで流れる。このセンス、好きだ。
恋に突き動かされて生きる3人のほろ苦い話には、ロマンチックな曲と渋い低弦の音色がぴったりだ。

作者谷崎は五平になりたかっただろう。それは確かだ。

Ⅱ 小山内薫作「息子」
老人(佐藤B作)の火の番小屋に若い男(佐藤銀平)がやって来る。老人は中へ入って火に当たれと勧めた。しばらく話をするうちに二人は
互いの境遇に触れる。若者は大阪へ行っていたと言う。老人の息子も大阪へ行って、久しく消息を絶っている。やがて捕吏(山野史人)が
姿を見せると、若者はなぜかそわそわし出した。雪降る一夜を温かくも切なく綴る父と子の物語(チラシより)。

現代の我々には分かり易過ぎていささか単調にも思えるが、それでもセリフがすべて生き生きしていて無駄がない。
そして息子役の佐藤銀平も老父役の佐藤B作もやはりうまい。味わい深い演技だった。今回は初の父子共演とか。その場に居合わせることが
できてよかった。   

ラストはラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。この選曲も素晴らしい。
チェロの響きが両作品にフィットしていて心地良い一夜だった。
休憩中に流れたのも、やはりチェロで、バッハの無伴奏チェロソナタ。
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