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『君の歌がある』(文庫)全2巻/いくえみ綾

2011-09-12 | 少女漫画
 
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私の 生きる力
恋をすること
人を好きになること
誰かに愛されていると 感じること
愛する対象を 見つめられること
信じるものが あること

(鹿野永見子)



 1995年から96年にかけての作品。深刻な物語を楽しく読ませてくれる手腕に魅せられる一方で、全編に漂う、今の作品の物とは違った緊張感に、息を呑まされる。

 「幸福な恋愛がしたかった」と願っていた永見子(えみこ)と、わだかまりを残したまま中学を卒業して、高校で再会した友達の友里(ゆり)。可児田(かにた)家の、親が違う兄弟である、将希(まさき)と要士(ようじ)と、今の両親の間に生まれた弟・賀句(がく)。友里が、教員を目指す将希と付き合っていたことで繋がりが生まれ、永見子はバンドを組んでいる要士と出会い、彼にのめり込んでいく。
 彼女の本心を見抜く要士の、鋭くも嘘のない言葉や、乱暴な形をしたヤキモチに触れ、永見子は要士に対して本気で恋に墜ちていく。プロにはなりたいが、バンドで食っていくことの困難さを痛感している要士は、常に苛立ちと焦りの中にいて、友里をひどく嫌い、永見子に対しても優しくできないことのほうが多い。
要士の言動には、夢を追う若者の、「恋人としてのお前は大切だが、オレの生き方に踏み込むお前の存在は許せない」という、刺々しい本音を私は感じる。



 そして永見子は、要士が過去に一度だけ友里と寝たことを知り、彼らを許せず、破局が訪れる。肺炎で入院したのを境に、永見子は二人との縁を完全に断ち切り、カニ兄弟の中で最も年長の将希とだけ会うようになる。将希の本心を聞いてようやく永見子が要士に会いにとんだ(走った)時、彼は既に東京へ行ってしまっていた。
賀句の、「えみちゃん 一人だけ止まってるよ 時間」という一言が彼女の背中を押し、19になろうとする頃、永見子は自分の運命は自分で決められるのだと知る。


『あの星になるから』
文庫第2巻の巻末には、別冊マーガレット1996年9月号掲載のよみきりを採録。こちらは張りつめるような緊張を全く感じさせず、ほのぼのと読めて、手放しで楽しい。


お薦め度:★★★☆☆

 「やりたいことがわかんない」と言い、高校を卒業して何となく進学する永見子と、やみくもに夢を追う要士。若者の大多数は前者であり、要士のような存在はある意味「異世界の住人」である。たばこの煙が立ち込め、歓声と大音量が鳴り響くライブハウスにいる時の永見子はとても場違いだ。そしてそこが滑稽で楽しい。自分とは縁遠い世界の男に恋をした永見子が、要士と再会できただけで奇跡に近いと私は思う。だからこの結末に満足できる。
 しかし、永見子が自分がみている物を「もういちど戻れる未来」と心の中で(二度も)呼んだ愚かしさを、わずかの差で私はひどく嫌悪したかもしれない。要士の永見子に対する苛立ちは、男が女に対して抱く苛立ちを、生々しく代弁している。描き方が少し違えば嫌いな漫画になったかもしれないので、余計に心に残る印象深い作品だ。
 私は全ての作品は読んでいないけど、いくえみ綾の漫画は最初に「楽しさ」という最大の価値をくれる。そして葛藤や後悔のような苦しみは、克明ではあっても決して後味を悪くしない。
愚かであることを若者の「特権」だと寛容に受け止めている(ように私には感じられる)この漫画を、巧みに楽しく読める形に描いたいくえみ綾はやはりすごくて、どの作品を読み終えても最後に「いくえみ綾の漫画が好きだ」と私は思う。


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