アルバニトハルネ紀年図書館

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『約束の夏』前後編/高河ゆん

2009-05-26 | 読書
 


「ウィングス」1991年10月号・11月号に掲載され、双葉社の『日本漫画家大全 高河ゆん初期傑作集』に採録されている前後編の作品です。この単行本の中で唯一1990年の休筆からの復帰後に描かれた作品で、一番完成度が高いです。


地球で核を使った第三次世界大戦が起き、唯一人救命ポッドで惑星サガに流れ着いた地球人の少女・貝島歩(かいしまあゆみ)。同じ銀河系の端と端にあった地球と惑星サガ、200年前に滅びた地球をサガ星が知ったのはつい20年前で、コールドスリープしていた歩は連邦宇宙局調査部の父を持つエヌの家に暮らしながら、調査部で地球に関する情報蒐集に協力することに。

同じヒューマノイド生命体でありながら、高度な文明を持ち、徹底して合理的なサガ星人と、唯一人の地球人の生き残りである歩は価値観が合わず衝突の連続です。錠剤だけの効率的な食糧摂取、感情を表に出さず理論でだけ物事を捉える子ども達。翻訳機があって言葉は通じるのに「思い」が伝わらない。エヌに耳にゴミがついてると言われ、これはピアスだ。耳に穴が空いてると「不衛生ですよ」と言うエヌに「なにいっ かっこいいだろ!」とキレてしまう。

調査部で愛する対象=地球のことを知らなさすぎると言われる歩。何故同じ惑星上に何種類も言語があったのかと訊かれる。日本語とフランス語では会話ができない、無駄じゃないか。知らない言語で書かれた文章をよく判らないと言ったら自分の星のことを知らないのかと言われる。
自分の星のことでも知らないこともあるだろうと歩が怒鳴ると調査員達はこの街の人口は七万四千二十人、その中の女の数は三万八千人弱とスラスラ数値が出てくる。この街を愛しているから知っていると言う調査員に歩は「そんなことで愛は計れないと思うよ」と反論する。
不良だった歩を見放さなかった、今はもういない学校の先生のことが脳裏をよぎる。
「まじめにやんなかったからばちがあたったんだ くやしい 先生もしあんたがここにいたら こいつらを言いまかしてくれるのに!」。
自分なんかよりずっと頭のいい人もきれいな子もやさしい子もいたのにどうして皆いなくなっちゃったんだ!
砂漠化したクレーターだらけの現在の地球の写真を見せられた歩は「戦前の世界地図が描けますか?」と白い紙を渡される。……描けない 正確な地図さえ。場所なんか知らなくても飛行機のればどこへでも行けたし本屋に行けば地図なんかいくらでもあって…。
本当にあの文明は滅びたのだと思い知る歩。「後悔」とはどういう感情なのか、その悔しさ、悲しさがすごく伝わってくるシーンです。泣けました。

歩は地球最後のあの日の夢を見ます。押し寄せる放射能、一機だけ残っている救命ポッド。「一番若い者を乗せたらどうでしょう」との意見に賛同して自分を乗せてくれた地球人のみんな。くだらないと思っていた大人達が、最後の時に強くやさしく美しかった。
悲しい夢だったけど夢見が良かったと言う歩、分析してあげようかと言う、エヌの友達のハルヒ、「やあだよ! 分析なんてできるもんじゃないよ」と答える歩。
歩のピアスを見て本当に耳に穴があいてる、こわい、と囁くハルヒとキサク。エヌは「……かっこいいよな」と言います。歩のことをすぐ怒鳴るし恐いと言っていたエヌの「かっこいい!」という言葉。

ピアスがかっこいいかどうかというのは全く「主観」の問題で、理論でしか物事を考えないサガ星人のエヌにこの台詞を言わせる、そういう描写がやはりすごく上手い作家です。

計り知れないものが人にはあると気付いた歩は、いつも怒鳴ってばかりだった第一調査部を訪れ、その日、自分には判らないことがあるから知っていることから話すと言います。
そして自分は地球に帰りたいんだと気付きます。

後編は、いつまで経っても地球に行く許可が下りず、待ちきれずにエヌ、ハルヒ、キサクと共に四人で勝手に地球までレンタルした宇宙船で渡る歩達。
船内で地球の話をしてくれとエヌ達にせがまれる歩。教科書を全然覚えていない歩は、学校の先生がしてくれて、心に残っている話を聞かせます。第一次交通戦争で一万六千人以上だった交通事故での死亡者数がわずか十年足らずで半分までに減った最大の理由は車に乗る人のマナーが良くなったから。「うそぉ!! そんなことで八千人も助かるの?」とその話が印象的だったと歩は三人に聞かせます。その後も第二次・第三次交通戦争があり、死んだ人の数は減ったり増えたりしていると言うとハルヒは「へんなの! 普通同じあやまちはくり返さないわよ 知的生命体は」と。
歩は、今更ながら自分が今となってはたった一人の地球人で、同じ星の人間同士で核を使って滅ぼしあった理由も自分達の星を砂漠にした言い訳も責任も全部自分なのだと再認識します。

酸素がなくなりそうになりながらも地球に到着した宇宙船。一面の砂漠。自分の知らない星。歩は「そーだ ここ 地球じゃないんだ ね 間違えちゃったんだよね! 早く……地球に行こうよ!!」と取り乱します。
レーダーに妙な影を発見するハルヒ。歩とエヌが駆けつけると透視できないブラックボックス。英語で書かれたプレート。「もしもこの文字を読める人間が一人もいなくなってしまったらそれが私たちおろかな地球人の運命だとあきらめよう。だがもしこの扉が開くようなことが起こるならもう一度やり直したい」。地球人からの最後のメッセージを受け取り、扉を開ける歩。

一人じゃないの
かみさま
もう一度やり直したいんです
もし 許されるなら
…もちろん



採録作
  • 『約束の夏』/WINGS 1991年10月号・11月号
  • 『ほっとすたっふ'88』/花とゆめ・EPO 1988年11月号
  • 『9月の夏』/花とゆめ・EPO 1989年11月号
  • 『狼をめぐる冒険』/花とゆめ・EPO 1989年5月号

完成度から見て、他の3作が白泉社から単行本化される可能性は低かったと思います。同人誌時代からの高河ゆんファンにとっては嬉しい一冊となったでしょう。

お薦め度:★★★☆☆
『約束の夏』と同時期の作品で一冊になっていれば4つ星にしたと思います。高河ゆんのファンであれば1,000円出す価値はあります。

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