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『シドニアの騎士』第6巻/弐瓶勉

2011-12-12 | 青年漫画
 
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サマリよう
お前 谷風を光合成に誘ってやれよ
そうやって士気を上げることも大事だと思うんだよ 俺は


 この漫画は、「種の存続」を軸に展開する、萌え漫画だ。萌え漫画だという私見は、既に何度か書いてしまったので、今回は視点を変えてみる。
 何を以て「萌え」と呼ぶかは意見が分かれる所だが、私はこの作品を、シドニアが「人類存続」を目的としている点からも、萌え漫画だと思う。勝手な解釈をすれば、おそらく弐瓶勉は本作に於いて、「萌え」から「エロス」を排除することを試みている。この「萌え」は、ある種の性倒錯でもある。

 播種船(はしゅせん)と呼ばれるシドニアは、人類存続をかけて宇宙を駆ける。種の存続には、性欲と食欲との二つが不可欠だ。ところが、外敵に脅かされるシドニアに暮らす、谷風長道以外の現役世代は、食糧を必要とせず、光合成によって個体を維持し、おそらく欲望も満たしている。イザナも纈(ゆはた)も谷風の裸体を見て恥じらうし、第6巻ではサマリまで光合成をしたいと谷風に言い寄るが、シドニアの現役世代が「狭義のセックス」をするのかどうかは不明だ。仮にシドニアの住人に性行為の欲求や概念がなければ、作中の「光合成」は、快楽の抽象化であると同時に、種の存続に必要な二つの本能を統合している。不死の船員会=「不死者」の存在は、受胎を人類にとって不要にする。
 では食物摂取から解放され、「セックス」ではなく「複製」によって誕生した個体は、どのように「快楽」を得て、何に「欲情」するのだろうか。既に作中には多くのヒントがちりばめられているが、「複製」された個体と「性行為→妊娠」を経て出産された個体との違いが鍵となるのかもしれない。例えば岐神(くなと)は、「人間は生物としての在り方を変えなければいけない」と語って、「種族」という概念を罵倒した。

 メカがかっこいい、登場人物に惹かれる、迫力のある戦闘シーン、壮大な物語、息を呑まされる展開など、この漫画の魅力を挙げればきりがない。ところがこの漫画からは、「エロス」が意図的に排除されている。人が排尿するシーンは描かれても、引かれ合う者どうしが一緒に光合成をする場面は直接描かれない。単性生殖が可能で、「性別」の意味が薄れ始めた人類の針路には奇居子(ガウナ)が立ちはだかる。感情や人格を持つのか疑われる奇居子の存在から、私はふと、フィリップ・K・ディックの短篇『まだ人間じゃない』を連想した。
 『まだ人間じゃない』では、高等数学(代数)をこなせる能力の有無により、人間が定義されている。魂が肉体に宿る年齢に異議を唱えた「<物見の人>派」さながら、シドニアからは「非武装主義者」という異端が降船する。
 谷風は人間を象(かたど)ったエナに星白閑を感じるが、外生研も岐神開発もあれは人間ではないと、谷風の思い入れを否定する。奇居子は「魂」を持つのかという謎は、「第四戦争の後に増やされた船員に魂は宿っているのか」と形を変え、「光合成をする船員はそもそも人間なのか」とか、「有性生殖によらずに産まれた者が太陽系を再建する資格の有無」を問うことになるかもしれない。

 そういう先の展開の予想はともかく、テクノロジーが(人口の九十九%を失う戦禍が起因で)向上して人口の維持にセックスが不要になった時、光合成によって個体を維持する人類は何に「欲情」し、性欲というヒトの本能はどう変化するのかという疑問。その点からも、私は本作を萌え漫画だと考えている。融合個体が「御父様(おとうさま)」と呼ばれるこの巻のラストには、性的倒錯に近い危うい魅力も感じる。言うなれば、「萌え」は「性倒錯」の同義語なのだ。


お薦め度:★★★★★


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