水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

体内時計

2016年11月16日 | 日々のあれこれ

 

 「一年一年がだんだん速く感じるようになるのは、分母が大きくなってくるからだよ」
 数年前、義父にそう教えてもらい、やけに納得した記憶がある。
 つまり、こういうことだ。三歳の子が新たに迎える一年は、それまでの人生の三分の一にあたる。しかし四十歳の場合、新しい一年といっても、それまでの人生の四十分の一でしかない。個人にとって一年の重みは、年齢によってそんなにも変わるのだと。
 今年もすでに11月の半ばをすぎた。つい先日まで暑さに文句を言っていた気がするが、今や朝晩の寒さがこたえる。すぐに年末、そして新しい年を迎える。また一つ齢を重ね、人生の終わりに近づく――。
 私たちは時間の長さをどのように体感するのか。時計が見られないときに、今何分経った、何時間経ったという感覚を得る「体内時計」はどのように作動しているのか。
 生物学者の福岡伸一先生によると、分子レベルで見た場合、タンパク質の分解と合成のサイクルにコントロールされているという。タンパク質の新陳代謝速度が、体内時計の秒針である。
 それは、私たちの体内時計は、年齢とともに遅くなるということも表す。完全に解明されてはいないが、細胞分裂のタイミングや分化などの時間経過は、すべてタンパク質の分解合成サイクルに規定されている。
 年とともに、そのサイクルは遅くなる、つまり新陳代謝が遅くなる。結果として体内時計の針の進み方もだんだん遅れてくると。
 二十歳の子が一ヶ月かかって行う新陳代謝を、五十歳のおっさんは半年かけてする。体感としては、一年かけてもなしえない気がするが。おっさんの身体にある時計が、自分の代謝スピードに基づく感覚で、そろそろ半年経ったかな、それくらい代謝したかなと感じているとき、実は世の中はすでに一年が経過しているのである。
 つまり、歳をとると一年一年がだんだん速く過ぎていくように感じるのは、分母が大きくなるのではなく、「時間の経過に、自分の生命の回転がついていけていない」(福岡伸一『動的平衡』木楽舎)からだ。最新の生物学の研究はそんなことも教えてくれる。
 義父が世を去ってまもなく三年になる。存命だったら、聞きかじったこの話をしていたかもしれない。もう三年も経つのか。寂しさのタンパク質も、加齢とともに代謝が遅くなっているのだろうか。

 

 天声人語みたくなった …

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