水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

エノケソ一代記

2016年12月04日 | 演奏会・映画など

 

  世田ヶ谷パブリックシアターは、前に「梅棒」を観に来て以来かな。めったに来ることのない三軒茶屋まで足をはこんだのは、三谷幸喜作「エノケソ一代記」のチケットがうまく手に入ったからだ。
 戦前からコメディアンとして一世を風靡し、戦後も喜劇界を牽引した榎本健一、通称エノケン。あまりの人気に、日本中ににせエノケンが出没していたという。モノマネではなく、ニセモノが。今だったら、すぐに情報がまわってしまうだろうが、古き良き時代の話だ。もちろん田舎の人たちも、ある程度はわかっていただろう。こんな田舎に本物のエノケンなど来るはずがないと思いながら、なかば確信犯で楽しんでいたのだろうか。考えてみたらテレビのない時代なのだから、「私がほんもののエノケンだ」と言ってしまった者がちだったのかもしれない。
 そんなニセモノの一人で「エノケソ」を名乗る男の人生を描いた芝居だ。
 エノケソは、歌や踊りやしぐさが徹底的に似せるどころか、本物が病気で足を切断したことを知り、健康な足を切断してしまう。ここまでくると、「あんたは本物のニセモノよ」と言われる彼の像が鬼気迫るものとして立ち現れ、芸人さん、役者さんとはこんなにも業の深い存在なのかと思わせられる。
 演じた市川猿之助はさすがだった。奥さん役の吉田羊さんを初めて生で観れたのもよかった。何より声がいい。ずっと聞いていたい。いま映画でも芝居でも、困ったときは吉田羊と滝藤賢一をキャスティングしておけば、とりあえずうまくいく。

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