断想さまざま

研究者(哲学)の日々の断想

8月30日(ツオーツ その2)

2017-08-30 23:13:30 | 2016夏・ヨーロッパの旅
 列車に乗ってサン・モリッツへ。トレッキングの予定変更でだいぶ時間が余ったので、イン川の谷の最奥部、シルス湖へ行ってみることにした。途中、ポントレジーナで乗り換えがあり、待ち時間を利用してトイレに入っていたら、ぎりぎりで列車を逃してしまった。次の列車の時刻を見ると、1時間待ちである。ヘマをやってしまったと自己嫌悪に陥っていると、駅前のロータリーにバスが来た。見れば、何とシルス湖まで直通で行けるバスではないか。すぐに乗り込み、荷物を下ろしてほっと一息ついた。
 バスはサン・モリッツの中心部を経由して、シルヴァプラーナ湖、そしてシルス湖のそばを走っていった。シルス湖とシルヴァプラーナ湖は、湖水に含まれている鉱物のせいか、水の色が違う。ほどなく湖の奥のマローヤという集落へ到着。セガンティーニのアトリエが残っているこの街は、風景そのものが、まるでセガンティーニの絵から出て来たようである。バスの時刻の関係で、残念ながらあまり時間がなかっが、駆け足で周囲を散策した。
 帰路はサン・モリッツ駅まで行かず、街の中心部で降りて買い物をした。スイス有数の高級保養地ということで、さすがに街並みが洗練されている。買い物を済ませ、インフォーメーション・センターで駅への道順を訊いた。
「……それからホテル・パレスの前に出るので、そのまま真っ直ぐ進んでください。」
「ホテル・パレス?」
「そう、ホテル・パレスですよ。」
 この最後のセリフが、「あなた、ホテル・パレスも知らないの?」みたいな口調だったので、ちょっと気になったまま歩いて行くと、5分と経たぬうちに「ホテル・パレス」の前へ来た。見ると建物の前にロールスロイスが止まっているではないか。車の運転席にはホテルの従業員らしき人が座っている。送迎用の車である。どうやらここは「超」の字がつく高級ホテルらしい。ぜひ中を見物してみたいと思ったが、あいにくトレッキングシューズに短パンというラフな格好である。門前払いを食らう可能性もないわけではないが、構わず入ってみることにした。
 そ知らぬ顔で玄関をくぐると、意外にも丁重に出迎えてくれた。「部屋の種類と値段を知りたいんですが」と言うと、別の従業員のところへ連れて行き、パンフレットを出して細かく説明してくれた。一番高い部屋が一泊40万円。しかし一番安い部屋は3万円だから、手が出ないというわけではない。適当にうなずいてパンフレットを受け取り、外へ出た。(あとで調べてみたところ、ここは各国の王室ご用達の超高級ホテルで、保養地サン・モリッツのシンボル的存在であった。ラフな格好でも追い出されなかったのは、アウトドア・スポーツが盛んな保養地だったからだろう。あるいはどこかのお金持ちのバカ息子がほっつき歩いているとでも思ったのかもしれない。)
 サン・モリッツの駅へ出て列車でツオーツへ。しばし町を散策してから昨日と同じ宿へ戻った。今日はここで連泊である。


バスの窓から撮ったシルス湖