そして、それも退屈な日々

なんでもない日、
どこでもない場所で、
昨日と同じ今日、今日と同じ明日

エストックとスティレット

2016年10月01日 09時51分09秒 | 日々の果実の搾り滓
「子供のころ、曽祖父から聞いた話だが」

朽ちかけた祠を前に、男は言った。

「この山の下に、なにかが眠っている。


「ひとたび目覚めれば、その力は大地を穿ち、その声は天を引き裂くという、とんでもない化け物が。

我が家の言い伝えによれば、そいつによって、世界は一度滅びかけたそうだ。

そのときの俺のご先祖が、今は失われた秘術でその化け物をこの山の中に眠らせて、世界を救った。


「だが、ついに滅ぼすことは出来なかった」


カツーン、カツーン。

足音がやけに大きく響く。

「眠らせ続けるためには、戦争が必要なんだと」

物憂げに彼は言った。

「血が。

人間の血が、憎しみによって流された血だけが、それを眠らせるのだそうだ。

世界を終わらせないために、争いをかき立てなければならない。

俺たちは、その使命をもう何百年も果たし続けている。


「そんな邪神とやらが本当にいるのか、そんなことは分からなかった。

どっかのだれかがこしらえた、ちょいと出来の良い御伽噺なのかも知れないとも思った。

ただ、俺の代では、もはや義務になっていた。

先祖代々、屍を積み上げてきた。

俺の代で終わらせることなど出来なかった。

これまでの誰もが、そのようにしか生きられなかったんだ。


「責められはしない。

たとえ確かめる勇気がなかったとしても。

確かめてもなお、信じられないものがあるのだから」
ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« エストックとスティレット | トップ | エストックとスティレット »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL