極楽のぶ

~酔生夢想~
中途失明を越えて

極楽、三途の川を泳ぐ(1)

2017年07月31日 | マイストーリー
 皆さま、おひさしぶりでございます

 極楽のぶ、静養中につき、芸術脳がひらめきそうもないので、軽妙タッチな「入院手術体験記」でも書いて、離れゆきそうな読者を留め置く痛々しい努力をしようと思っている・・(冗談です)

 はい、極楽さん、お名前を伺ってよいですか?

 ご・く・ら・く・の・ぶ、です

 左腕に、細いビニールのブレスレット(笑)、驚いたが、入院中外せないこのビニール腕輪は侮れない。
なんと、個人を特定するQRコードみたいな奴が印字してあるらしく、看護師がリーダーらしきセンサー(プローベ)を近づけると、携帯用端末(アイパッド?)に本人データが一覧されるらしいのだ。すごい。まあ、いずれこれもタッチIDか、顔認証にでも変わるのだろうが・・

 腕輪認証は、病室でも常に使用され、定時の体温・血圧測定、そして点滴の(誰用の点滴ボトルか?)特定にも使われていた。 びっくりだ。さらに、この端末はキーボード付きであり、回診毎に彼女たちが猛烈な勢いでキーを打つ! 時代は変わるなぁ、点滴違いの事故もあったしなぁ。信じられるのはITということか?・・

 や、オペ室当日に戻りましょう

 では、手術室に入りまあす。(失明者と伝わっているので)僕は、看護師の右肘を左手でつかませてもらい、ゆっくり歩く。 ふと、振り返り、オペ室ドアまでつきそってきた「うちのかみさん」に、手を挙げて、 おー!行ってくっぞ!、、がんばってぇ! おう!頑張るのは俺じゃないさ(笑)、 と、最期かもしれない挨拶をした。 
 オペ中は何でも起こりうる、よく知っている。40年前、7年半、寝ても覚めても、手術から手術、緊急救命から救命&救命、いつ終わるのかわからない一日という数日・・そんななか、いつそれになるのかわからない「別れの挨拶」。感慨なんかないさ、それが宿命だ。
 
 ふと、看護師のやさしい声・・・、
 緊張されますか?
 いえいえ、僕にとっては実家に帰ったみたいな感じ、 あ、そうでした、麻酔の先生でしたもんね。
 うん、でも、患者がすたすた歩いて手術室に入るなんて昔は想像できなかった。
 そうなんですってね・・・
 ところで、全部で何室あるんですか?
 20室です。
 そお、僕がいたのは14室だったなぁ、でも同時使用できる体制じゃなかった。 ここは同時進行できるんでしょう?
 そうですね、20室全部稼働することもあります。  すっごいねぇ。

 オペ室には、術者、前立ち(助手または指導者)、さらに補助医師が1~2人はいることが多い、ここまでは医師側だが、機械出しの看護師がひとり(機械出し、または、直接さん、と呼ぶが、長い手術なら交替用員が必要)、そして、外回りの看護師(下回り、または間接さんと呼んでいた)。 さらに、手術室機器を準備、管理、メンテナンスしてくれる専門技術院さんたち、こうしたオペ室陣容だけでも20室を全部動かすには、100人以上が必要だ、すごい陣容だ。

 ところで、直接・間接さんの看護師は、ドラマで見ていると、マスク帽子をし術野のそばにいて、「メス!」とか言う術者の手に向け、パシッ!と手渡す機械出しの直接さんが恰好よく描かれるのだが、実は、下回りで、ガーゼ出血測定やガーゼ枚数を数えたり、点滴や輸血を準備したり、体温、尿量測定したり、麻酔科医の頼む薬を用意したりする、縁の下の間接さんのほうが、看護師としては上級経験者なのである。知ってますか? 機械出しが新人で、戸惑うと、下から叱咤激励して指導するんである。育て役が下回りなのだ。これが優秀だと、上の機械出しが、みるみる育つ! これ、面白いよ! だいたいタッグを組んでるから、いい先輩に巡り合うと、短期間ですごく腕が上がる!! これはすべての医療でおんなじだ。

 さて、見えないので広さがわからないが、ある一室に入った感じ、昨日訪問してくれた麻酔科医先生が、明るい声で迎えてくれる。

 おはようございまぁす! 女医さんである。
 昨日、病棟に来てくれた。術前回診と言って、麻酔科医は担当する患者を、前日午後から夕刻までの間に訪問し、カルテチェックと共に、本人の状態を診察する。 
 医学的データ以外に、顔の恰好、顎の大きさ、両上肢を90度広げられるか(術中の姿勢)?とか、口の中の衛生状態、首をどれだけ反らせられるか? など、主治医や担当科にとっては興味なくカルテに書いてないこともチェックしに行くのである。手術へのメンタル状態は麻酔覚醒時の不穏を予測する意味でも重要だ。

 その昨日は、麻酔先生と楽しく麻酔の話をさせてもらった。20年くらい後輩のようである。ふつうは、医者だろうが社長だろうが、患者は患者である。特別扱いはしない。が、さすがに同業だった老輩には、それなりの敬意を示してくれたのがうれしかった。

 彼女は言う、麻酔科の先生でいらっしゃったのですよね、エピとかバンバンやられてましたか?
 うん(エピとは硬膜外麻酔のことである)、うちは、エピだらけで、胸部、頸部までやってたんですよ(これは威張っているわけではない、ただの話題である~笑)、 硬膜外麻酔は、腰部しか使えない腰椎麻酔と違い、脊髄硬膜の手前の1mmくらいしかない空間で針を止め、そこにプラスティック管を差し入れ、そこから麻酔薬を入れる方法だ。 よって肩甲骨下端の背部脊椎(胸部と呼ぶ)から、肩の線の頸部まで使える。胸部・頸部硬膜外は、やらない麻酔科も多い。
 今はどういう評価なのか知らないが、 極楽が入ったスパルタ麻酔科「虎の穴」では、硬膜外麻酔が大全盛で、心臓外科手術まで頸部硬膜外を主幹にしたものだ。 異論も多く、学会発表すると心臓外科までが押し寄せて質問攻めに遭ったもんだ(懐かしい、人生で一番輝いていた頃の、は・な・し)

 話がそれた、すんません。

 前日の術前回診(業界用語では、プレメディと呼ぶ)女医さんが聞く、先生、この1年で13kgも痩せられてますが、意識的に減量されたのですか?
 あ、それは、いま流行の、糖質制限です、徹底的にやってみたら(面白半分でしたが)、あっというまに楽チンに痩せちゃったんです、でも、結局癌だった、みたいなことになったら笑うしかありません。
 ああ、糖質制限、それはうちの旦那もやってます、迷惑千万ですよ!。 
 え?迷惑なんですか? 
 はい、家族も強制されて不満が募っています。
 へぇえ? そばにいたかみさんもびっくり。 
 いや、うちは、僕がごはん食べないだけのことで、誰も迷惑してませんよ!
 そこが、うちの旦那の問題なんです(笑)そうでしたかぁ、糖質制限ねぇ・・笑

 明日の吸入麻酔は何ですか? と聞くと、
 つい先日やっと米国から安価に輸入できるようになったばかりの最新のやつを使いましょう! アメリカがなかなか出し惜しみして手に入りにくかったんです。
 え?(いや、妙に新しいものより、経験豊富、安全データが揃ってるほうでいいのだが・・と言いかけたが)
 効きも覚めも抜群ですからお楽しみに・・

 女医先生があまりにも、その新規輸入の吸入麻酔薬を楽しみにしているようだったので、ここは仕方ねぇ、おとなしく従うことにした(笑)、使ってみたい!と思う麻酔科医の気持ちがよくわかるからだ!

つ・づ・く
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2 コメント

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お帰りなさい (タイヤマン)
2017-08-01 10:41:19
お帰りなさい! 再開早々、のっけからとても面白いです。 極楽のぶさんしか書けないと感心しています。サラリと専門知識を交え、カラリと乾いた書き振りで、サスガです。 頑張って下さい、でも頑張り過ぎないで。
Re:お帰りなさい (windyjazz)
2017-08-01 10:57:51
感激なコメント!感謝いたします!
浮き輪で生還できました!
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