風塵社的業務日誌

日本で下から258番目に大きな出版社の日常業務案内(風塵社非公認ブログ)

湯河原行(02)

2017年03月24日 | 出版
小田原で東海道線に乗り継ぎ湯河原に着いてみれば、まだ12:00前。在来線に乗っているだけなのに、池袋から2時間も経っていない。金額も片道2000円ちょっと。毎度のことながら、湘南ライナーの便利さには感心してしまう。初めてくるところだなあとウキウキした気分で駅の改札を抜けてみたら、そこは工事中であった。前方の視界がフェンスですっかり閉ざされている。
工事中であるのは致し方ない。タイミングが悪かっただけだ。まずは観光案内所を探そうと、左右をうろちょろしてみる。改札前に並べられているのはJRの宣伝パンフばかりで、町の観光案内など置いてはいない。工事のため狭くなった通路を右側に行ってみると、観光案内所を発見。そこに入って、湯河原の観光地図をもらってきた。
それを持って今度は左側に移動し、バス停前の少し広くなったところで広げてみる。ところがこの地図、箱根の芦ノ湖まで入っているようなかなり広域の観光案内で、街中をブラブラ歩いて回ることを喜びにしているような観光客には不向きなのだ。歩き回ろうとしている湯河原界隈なんて、左下にちっちゃく入っているだけなので、距離感すらイメージができない。昔からの保養地なのにこんな地図しかないのか、というのが率直な印象だ。
駅の後ろを振り返れば、低い山だけど線路のすぐそばまで迫っている。その山の迫り方は小生の田舎にも似ているが、角度は湯河原の方が急であることだろう。そして、山の中腹にも、あちこちに建物の姿が見える。こんな急勾配によく大きな建物を造ったなあ、転げ落ちたりしないのだろうかと、余計なことまで心配になってしまった。
宿のチェックインタイムまでにはまだ時間がある。そして腹が減ってきた。それは妻も同じで、「湯河原といえばなにが名物なの?」と聞いてくる。「なんだろう? どうせ昔は漁師町なんだろうから、干物とか刺身とかじゃないの」と適当に答えておいた。そこで、お店がないかと駅前の道路を渡ってみるが、お店のあるような雰囲気ではない。
近くに露店を出しているオバチャンがいる。なにを売っているのかなとのぞいてみると、レモン色をした小粒のみかんがビニール袋にいくつか無造作に入れられていて、それが300円げな。これまで見たことのないみかんである。手書きの札には、湘南ゴールドとある。小生はまったく知らなかったけど、このへん名産のみかんなのだろう。その隣りに、急な勾配を昇降する大きな階段とエレベーターがあり、そこを過ぎるとこじんまりとしたみやげ物店がある。クーラーボックスに入っているペットボトルのジュースを見たら、うなぎコーラとあって仰天した。
ラベルには大きく鰻の一字が描かれている。ということは、うなぎエキス入りコーラということなのかな。どんな味がするのか、恐いもの見たさで体験しておくべきであった。妻もそれを見て、「うなぎパイがあるから、うなぎコーラもありなのかなあ」と釈然としない表情ではある。しかし、冷やかしよりも、まずは腹になにかを収めたいという状態である。うなぎコーラにトライするのは後回しとし、昼飯の食べられそうなところを探すことになる。
すると、駅から右手の方向にそば屋の看板を発見。腹が減った状態でいつまでも流浪の民を続けるのはつらいから、このそば屋でいいじゃないかと、その店に入ることにした。暖簾をくぐると、さほど広くはない店内で左手は座敷となっている。テーブル席には老齢カップルが一組いるだけだ。ああ、まだ空いていてよかったと、我々もテーブル席によっこらしょと腰をおろすことにする。ところが、その瞬間にかび臭さを感じた。これまでの経験則では、かび臭いそば屋ではろくな目にあわない。
奥から女将さんが出てきて、「とりあえずぬる燗をお願いします」「はい、熱燗一丁ですね」「いえっ、ぬる燗です」。そして妻は温かいきつねそばを注文し、小生は盛りそばを頼む。ぬる燗をチビチビ飲みつつ店内を眺め回してみると、壁にはそばについての偉そうな能書きが貼られている。それならば、小生の経験則がはずれることを願うことにしよう。
ところが出てきた盛りそばを見たら、わさびはチューブに入っているものだ。その瞬間におのれの運命を悟ってしまった。まあ、いいやと、とにかくそばを腹中に収めることに専心する。すると妻が、「こんなに小麦粉が多いそば、私、食べられない」と小声でささやく。かといって、小生も一口食べたらもうお腹がいっぱいなのに、それを無理して食べているのだ。「それなら、残すしかないだろ」と答えておく。江戸前や信州そばのようなものを、西湘で求めることが間違っているのだ。
そこにオバハンたちの団体客が十数人ほど入ってきた。入れ替わりに、老齢カップルが支払いをしようと立ち上がる。それに続いて、我々もお店を出ることにした。初めて訪れた湯河原で一番最初に入った店がツーリスト・トラップだと、湯河原全体の印象が悪くなってしまうのはこれ人間の性(さが)なり。満ち足りないものを抱きつつ、再び路上に立つことになったのだ。

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