テクノロジとアカデミア、ビジネスの関係を解き明かすことをテーマに、「産」「学」「官」のさまざまな取り組みを紹介している本連載。第1回、第2回、第4回では「産」である大学との共同研究に取り組む企業に、第3回は「官」として産学連携の推進に取り組む経済産業省を取材してきた。
今回は「学」として、東京大学産学協創推進本部イノベーション推進部長で経営学博士の各務茂夫教授に話を聞いている(前編はこちら)。後編では、産学連携を成功させるために必要な条件や、今後の展望をたずねた。
--大企業との共同研究では、社長や事業部門長がコミットして「協創」をしないとイノベーションが起きないのではないかという話がありました。そういった研究を実現する上では、どのようなハードルがあるのでしょうか。
東京大学産学協創推進本部イノベーション推進部長で経営学博士の各務茂夫教授
大学研究者の中には”売れっ子”がたくさんいます。こういう研究者が共同研究をやろうとすると、それに専念できるポスドク研究者の共同研究プロジェクトへの参画が不可欠になります。
ポスドクを一人採用するだけで1000万円かかりますから、何千万円規模の共同研究ができない限り、事業を本気で起こしていくイノベーション創出型の共同研究はできない可能性があります。
新事業を起こす場合には多かれ少なかれ困難が伴いますから、アントレプレナーシップ的な要素も必要です。
事業によっては、企業の現事業を否定するようなケースや、過去の成功を否定してでも推進するという覚悟が必要な場合もあります。それをやりきれるかどうかが肝心です。
この7月までGEのCEO (最高経営責任者)であったJeffrey R. Immelt氏は、前任のJack Welch氏が打ち立てた、例えばかつての最大の収益源であった金融事業から撤退しました。こういうダイナミズムは日本からはまだ出ていません。
大学としても、世の中の動向を理解しながら進めていかなければならないですし、共同研究を通した大学の研究成果が社会の日の目を見るためには、どの企業と組むのかも重要です。
研究資金を出してくれるからといってその企業と共同研究を進めた途端に、競争市場の中ではイノベーションを創出できない道に向かっているというようなこともあるのでしょう。